第109話 結婚後の年末年始
クリスマスパーティ(第107話、第108話)の翌日の12月25日から、まー、撫山教授のバカ(=孝)への指導は厳しかった。
もっとも、本人(=撫山教授)は悪びれる様子もなく、
「ちゃんと、事前に『どんどん締め上げる』って言っただろ(第107話)?」
とは言っていたけどね。。。はい。。。
12月25日の午前、撫山教授は研究室に来ると、開口一番、状況説明を求めた。
「孝君、状況はどうだ?」
バカ(=孝)が状況を説明すると、
「ヨシ! これとこれを12月28日の午前9時までにやっておくように。」
と言って、研究室から出て行った。
だが、この作業量が半端なかった。その日(12月25日)から、12月28日の朝まで3日連続で徹夜しないと、こなせない量だったのだ。
3日連続で徹夜してようやく作業をこなし、12月28日の午前9時きっかりにやってきた撫山教授に状況を報告すると、撫山教授は不満そうだったが、
「まあ、よかろう。今日くらいはちゃんと休め。」
と言って、研究室を出て行った。
その日(12月28日)は、バカ(=孝)は久しぶりに夕方6時に集合住宅に帰って、夜10時には寝た。
だが、翌日(12月29日)の朝、バカ(=孝)は寝室から出てこようとしなかった。
ヨメンズも3日連続で徹夜していたバカ(=孝)に遠慮し、無理に起こすことはしなかった。
そして、バカ(=孝)は昼過ぎに登校すると、撫山教授からバカ(=孝)に物凄いカミナリが落ちた。
「孝君、午後に登校し、夜遅くまで研究室にいるなら、
朝早く登校し、早く下校しないか!
私は夜型は認めん!」
博士2年の先輩達曰く、
「パンデミック前後で撫山先生は方針をいくつか変えてね。。。
その一つは夜型はパンデミック後は認めなくなったの。。。
何故かわからないけどね。。。」
との話だった。
まあ、その日から、バカ(=孝)は朝早く研究室に行くようになったし、ヨメンズもバカ(=孝)を無理でも起こすようになった。。。
12月30日から1月4日は撫山研究室も年末年始の休みに入った。
だが、12月30日と1月4日は、バカ(=孝)は研究室に行き、夜遅くまで卒業研究を実施していた。
私も一緒に研究室に行ったけど。。。
でも、ほら、年末年始で実家を訪ねないわけにはいかないじゃない?
だから、12月31日から1月3日は、瀬名→バカ(=孝)→優子→私の実家を訪問した。
この順番に深い意味はない、単に北から南に巡っただけだ。
12月31日は、瀬名の実家を訪れ、瀬名のご両親に挨拶をし、年越しそばをご馳走になり、夕方には帰った。
このときだけかな、バカ(=孝)がお酒を口にしたのは。。。
12月31日の深夜から1月1日のカウントダウンは、去年と同様(第61話)、寮や集合住宅の前で、100分の1の男性達と、その恋人達や妻達と、吹き出し花火や打ち上げ花火で、新年の到来を祝った。。。
優子も瀬名も結構楽しんだみたいだった。
1月1日の早朝はやっぱり去年と同様(第61話)、I大の一番高い建物の屋上に上って、初日の出を楽しんだ。
でも、まあ、去年と同様、建物内は常夜灯以外は点いていなくてね。。。
優子が階段を歩きながら不平を述べた。
「ねえ、暗いから、ブレーカーの電源入れようよ。」
私は振り返り、優子に語った。
「ダメ!
この建物にはいろんな精密機器があるから、下手に電源を触ると、
故障する恐れがあるから、電源には一切手を付けない約束なの!」
瀬名に至っては、彼女自身が体力がないせいか、優子以上に不平を述べた。
「そうは言っても、ここ5階建てよ?
こんな真っ暗の中、階段のぼるの嫌よ。疲れるし。。。
ブレーカーの電源入れて、エレベーター使おうよ~。」
私は半ば切れて、瀬名を罵った。
「だ~か~ら~!
約束は守らないと!
今回は、私達、100分の1の男性と恋人や妻が、
初日の出を拝むために外出できないことを、
不憫に思った教職員達の特別な配慮なの!
その配慮を裏切ったらダメ!!
教職員達からの信頼を裏切ったら、
来年、私達、初日の出が拝めないわよ!!!」
優子と瀬名は不満げに「「は~い。。。」」と答えた。
な~んて、去年聞いた会話を、まさかヨメンズ同士で行うとは思わず、階段を上った。
屋上で、私達(ヨメンズ、孝)は肩を寄せ合い、缶コーヒーを飲みながら、初日の出を楽しんだ。
1月1日はバカ(=孝)の実家に行った。
バカ(=孝)の実家を訪ねて、やっぱり、『あまり親しくもなかった小学校時代の女子クラスメート』なり、『近所の人』が娘を連れて、押し寄せてきたけど(第34話、第82話)。。。
当然、追い返しました。。。はい。。。
1月2日は優子の実家、1月3日は私の実家を訪問し、お節料理やお雑煮、すき焼きとかも馳走になった。
1月1日も、1月2日も、1月3日も、お酒も勧められたので、ヨメンズはガンガン飲んでいた。
後の優子:「とくに愛唯なんか、自分の実家じゃ、遠慮なく、
大量に飲んでいたわよね。。。」
後の愛唯:「何言ってんの! あんた(=優子)だって、
自分の実家じゃ大量に飲んでいたくせに!」
でも、バカ(=孝)はちょっと口にしただけで、ほとんど飲まなかった。
このバカ(=孝)はものすごい酒豪だ。バカ(=孝)はお酒は大好きなのだが、この年の年末年始はほとんどお酒を飲まなかった。
実際、バカ(=孝)の実家でも、孝のお母さんがお猪口に熱燗を注ぎ、バカ(=孝)に酒を勧めた。
でも、孝は「母さんありがとう」と言って、日本酒を一口だけ口にした、でもその後は飲まなかった。
バカ(=孝)が年末年始であまりお酒を飲まなかった理由なんだけど、、、
実家から帰ってくると、自分の家事担当分を手早く済ませると、自分の寝室にこもった。
そして寝室でパソコンを立ち上げ、リモート操作で研究室につなげて、卒業研究を行っていた。。。
そう、バカが完全オフをとったのは12月31日だけだったんだ。。。
実家から帰って卒業研究を行うつもりだったから、、、
お酒をほとんど飲まなかったんだ。。。
この年の年末年始は、午前3時前まで寝室にこもって、作業をしていた。。。
あ、パンデミック後、撫山教授が変更したもう一つの方針とは、リモート操作で自宅から研究が可能となるよう、環境を整えたことだ。
だから、たまに私を含む4年生や、大学院生の先輩達も、自宅からリモート操作で研究活動を行う。
また、自宅からのリモートでの会議出席も可となった。これもパンデミック後、撫山教授が変更した方針だった。
1月3日の夜の12時、私達(=ヨメンズ)は眠りについていた。
だが、バカ(=孝)の寝室と私達(=ヨメンズ)の寝室を隔てるドアの隙間から灯りが漏れる。
そしてキーボードを操作するカシャカシャという音が聞こえる。
パジャマを着て、布団の中に入っていると、優子から小さな声が聞こえた。
「愛唯、起きている?」
私は布団の中から小さな声で答えた。
「うん。。。」
再び優子の小さな声が聞こえた。
「ごめん。孝を手伝ってあげて。。。」
私は布団から起き上がり、小さな声で答えた。
「わかった。。。」
すると瀬名からの小さな声が聞こえた。
「お願い。。。
私と優子さんじゃ、研究室が違うから、
旦那様(=孝)を手伝いたくても手伝えないの。。。」
私は再び、小さな声で答えた。
「うん。。。」
私は自分のノートパソコンを持って、バカ(=孝)の寝室に入った。
バカ(=孝)の寝室に入ると、バカ(=孝)は私を振り返り、申し訳なさそうな表情で、頭を下げた。
「あ、愛唯さん。。。ごめんなさい。。。
起こしてしまいましたか。。。」
私は笑顔で答えた。
「謝ることじゃないわよ。。。
孝、手伝ってあげるわ。。。
プログラミングなら、私の方が早い場合もあるし。。。」
そう、2年生の3月、学びなおしをして以降(第11話以降)、私のプログラミングスキルはめきめきと上昇しており、プログラミング自体は私の方が早いくらい上達しているのだ。。。
もっとも、バカ(=孝)がちゃんと設計してあればの話だが。。。
私は続けた。
「それに、あなたのコンピュータの画面に映っているのは何?
設計図でしょ?」
と、バカ(=孝)のコンピュータ画面を指さした。そして、バカ(=孝)が作業している座卓の隣に座った。
バカ(=孝)はため息をつき、口を開いた。
「愛唯さんが手伝ったと、撫山先生にバレるとヤバいのですが。。。」
私は微笑み返す。
「バレやしないわよ。手分けしてプログラミングしましょ。」
バカ(=孝)は微笑み、口を開いた。
「わかりました。これとこれをプログラミングしてもらえますか?」
私は答えた。
「わかった。。。」
私はプログラミングをしながら、横にいるバカ(=孝)に話しかけた。
「孝ー、一度聞こうと思ったんだけどさー。
どうして、卒業研究に撫山先生の研究室を選んだの?
こんなにキツイだったらさー。大学院から研究室変えたら?」
すると、バカ(=孝)はノートパソコンを見ながら、首を横に振り、意外なことを答えた。
「いや。。。
撫山先生以外のCCコースの先生から、
僕が撫山先生以外の研究室を行くことを、
拒否されたんですよ。。。」
私は驚いた。
「え?」
バカ(=孝)は苦笑いを浮かべ、ノートパソコンに向かいながら、話を続けた。
「一応、4月、卒業研究の研究室を決める前、
CCコースのすべての先生に面会を求めて、
『どこの研究室に行くべきか?』って意見を求めたんですよ。。。
そしたら、撫山先生以外の先生はこう言ったんですよ。。。
『パンデミックの前なら、
君(=孝)が私の研究室に来ることを歓迎していたと思う。
なぜなら、君(=孝)は
4年生の中でトップの成績を収めているし、
大学院進学希望だし、
(大学院進学後は)私の業績もアップさせてくれる可能性が高い。。。
でも、私は、撫山先生から、
君(=孝)や100分の1の男性が【永遠の試練】があり、
そのため、君(=孝)が
【たった1人の村人でも、
100人の村人にとって重要な人物になる】
ために、頭を世界レベルで磨く必要があると聞いている。
その意見に私も賛成だ。
じゃあ、
【私が君(=孝)を世界レベルで磨けるか?】
って言われたら、私にはその自信がない。
このCCコースの先生方で、
君(=孝)を世界レベルで磨ける可能性が最も高いのは、撫山先生だ。
だから、君(=孝)は撫山先生のところに行きなさい。』
て。。。
だから、撫山先生のところしか、選択肢がなかったんですよ。。。」
私はため息をつき、そしてつぶやいた。
「そういうこと。。。」
バカ(=孝)もため息をついて、苦笑いを浮かべながら、ノートパソコンに向かい、話を続けた。
「だから、僕は、撫山先生のもとで、頑張るしかないんですよ。。。」
私は再度ため息をつき、つぶやいた。
「そうね。。。」
私はバカに(=孝)が『たった1人の村人でも、100人の村人にとって重要な人物』になってほしいと願っている。
でも、それはとても高い壁を、いくつも越えなくてはならないのだ。。。
しかも、おそらく、バカ(=孝)はその最初の高い壁を登り始めたばかりだ。。。
撫山教授以外のCCコースの先生方は、その高い壁を越える指導者として、一番ふさわしいのは撫山教授だと言っている。。。
そう、どんなに厳しくても、バカ(=孝)は撫山教授のもとで頑張るしかないのだ。。。
一方、私は第106話の瀬名の次の2つの言葉を思い出していた。。。
「ねえ、私達、ヨメンズがすべきことは、『懸け橋』だけなんでしょうか?」
「『たった1人の村人でも、100人の村人にとって重要な人物になる』よう、
できる限りのサポートをすることも、私達(=ヨメンズ)の役割なのでは?」
そう、この言葉がずっと引っかかっていた。。。
『懸け橋』としての役割は、特に懸け橋交流会については、優子と瀬名に任せている(第103話)。
だったら、『サポートの役割は私がすべきではないのか?』と、ずっと引っかかっていた。。。
この1月3日夜から、私はバカ(=孝)の卒業研究の手伝いをすることにした。
でも、、、バカ(=孝)は戸惑い、遠慮していたけど。。。
「あまり、僕の研究を手伝うと、撫山先生から叱られますよ。。。」
だけど、私は、そんなバカ(=孝)の意見は『無視して、勝手に、無理やり』、手伝うことにした。。。