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フラット  作者: ritu
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4.心霊現象

真夜中、暗い暗い廃病院。その長く凍てつく廊下を歩く一人の少女。

体を震わせ、辺りをキョロキョロとしながら一歩ずつ一歩ずつ、息を細めて何かから隠れるようにゆっくりと。


―どうしてここまで怖い思いをしてまで人は肝試しなんてしようと思うのか。


この少女も幽霊なんて怖くないと数十分前まで息巻いていたのに、今では後悔を噛みしめているのである。

その血よりも甘い匂いのする少女の浅はかさこそ、幽霊が喰らいたい心だというのに。

そのときは一刻と近づいている。まるで震える体の振動が時計の針によるもののように。

「あの、幽霊なんですけど」

幽霊がついに現れた。

こちらをじっと見ている砂糖の如く白い肌の女、キョトンとした幼い顔だ。

「いや、だから私が幽霊なんですよ。早く驚いてもらっていいですか?」

とても丁寧な態度だ。

あまりの光景に私は先ほどから目を瞑って現実逃避している。


廃病院の一区画に閉じ込められた。

手術室、ロッカールーム、診察室、アンドソーオン。

恐る恐る私は手術室に向かった。いや、なんとな―いや、とりあえず手術室に行く流れになった。

「よし、いい。そのまま手術室に」

特に後ろから変な声が聞こえているわけではない。

ガッツポーズしている少女なんて見えない見えない。


グルグル、グルグルと唸る声がどこかから。

ケルベロスかと思い、死を覚悟して僕はその場に寝転んだ。

「ちょっと! 早く手術室行ってよ!」

響き渡る声に震える床。

目が回ってしまったのか、白い少女が見える。

しかしてこうなったのも、こうやって廃病院で迷子になったのも、その作りが悪いせいである。

大概そんなことはここに住み着いている真っ白の肌の可愛らしい少女のせいだろう。

手術室どこだよ。

「漢字読めないの?」

だって吊り下げられている看板の文字、血まみれじゃん。

「……こっちこっち!」

このまま寝ていたい。

しかし汗を垂らして手を必死に振っている何かを無視するのはあまりにも非情であろう。

私はとりあえずなるがままに歩いてみた。


手術室。

酷くボロボロで、ボロボロだ。

どんな感じにボロボロかというと、車に跳ねられた後に米津玄師くらい。

「もうそのネタの旬は過ぎたよ!」

なんかモニター吊り下げられている。それもピカピカの新品のような。

明らかにモニターだけ新しいような。

「……前の壊れたから」

あと金庫とその上に日記が置いてある。

捲ってみると繊細な字がぎっしりと。書いてある口調からして若い女のものだろう。

どれどれ12月24日の予定は……―まさとし君♡

私はそのページを破り捨てた。

「ちょっと! 破らないでよ! このページの後ろに重要なこと書いてあるんだから!」

なんか破り散らかされた紙が再生した。

そして宙に浮いている。

小さい字で詰められたちょっと汚い字。

どれどれ読んでみるか。


―た、た、助けて! いきなり患者が暴れて、閉じこめられて、ああ、アイツが扉を蹴ってくる! 助けて! 殺される! きゃあ! 蹴破ってきた! こっちに迫ってきてる! 助けて、もうダメだ、助けて、助けてええええええ! きゃああああああ!


「……(ちらちら)」

この女、襲われているときに日記描いてるとか怖い。

「そっちじゃないよ!」

そっちじゃないらしい。あとまだ続きがあるな。

もう少しだけ読んでみるか。


―あなたを絶対に許さない。私を捨てて何もかもを奪っていったあなたを許さない。絶対に見つけ出して殺してやる。絶対に……


文が長い。読むの怠い。もういいや。

「え?」

さっさとここを出る方法を探そう。もうすぐアニメの時間だ。

あれ、でもどうやって脱出すればいいんだ。

どうしたものか。

「いやだから、そのヒントがこの文章に書いてあるから読まないと!」

よし、あっちにある窓ガラス割って出ていこう。

ちょうどあそこに木もあるし、飛び移ればどうにかなるか。

「ダメ!」

マドガワレナイ。

廃病院にそぐわない窓の頑丈さ。

脱出できると思ったのに……そうだ、鍵があれば出られる。だから鍵を探そう。

ロッカールームならあるかもしれない。

私は走った。

「え、ええ、文章読んでから行く流れなのに……まぁいいか」


血痕が床にベッタリとなぞられている。

よくみると誰かの顔のようにも見えるし、クジャクの模様でもある。

なんかアートだ。写真を撮ろう。

「……不謹慎な」

不機嫌な少女が写真に写っている。

そこそこ可愛い子だからバズるんじゃないか。

「心霊写真だよ! そっちで有名になるよ!」

いや、ありふれた心霊写真なんて人の目を引かないよ。君の可愛らしさのほうが人の心を惹きつけるよ。

「なんか口説かれてる? はやくロッカー開けて」

ロッカーは一つを覗いてすべてが開けられていて、中は空っぽ。

鍵があるとすればこの硬く閉められたロッカーしかない。

でも開かない。どんなに引っ張っても開かない。

「ちゃんと見てよ」

じー。

「こっちじゃなくて、ロッカー! 鍵か掛かっているよね、あとなんか書いてあるでしょ!」

ああ、ほんとだ。気づかなかった。


―○×△□○○△□


なんか暗号っぽい。

これを解けば鍵を解く手掛かりになるってことか。

なるほど。

「……」

わからん。何だこの暗号。

めんどくさ、もういいや。

私はまた寝転んだ。

「え、ええ、ここから出たくないの? 解かないと出られないよ?」

だって考えてもわからなかったんだから仕方ないじゃん。

どうせ朝になれば誰か助けに来るさ。

「いやいや、考えてわからなかったら探索でしょ! 情報収集だよ!」

もう疲れた。

なんでこんなことしないといけないんだよ。

この病院広すぎだし、また迷うだけだもん。

「そんなぁ……頑張ってよ。ここのロッカー開けてからが怖がらせるとこなの! 私が一番楽しみにしてたところなの!」

だったらもう少し簡単な暗号にしておいてよ。

もうめんどい、寝る。

朝になったら起こしてくれ。

「なんなのこの人、肝試しの暗黙の了解知らないの? 脱出しようとしてよ! 次の人が来るかもしれないから!」

それでもいい。というか関係ない。

私は君を離さないから。

その人は君に出会わないから緊張で体を震わせることはないだろう。

その代わりに私の心が震えているよ。君の美しさに。

「やっぱりなんか口説かれてる? キモイな」

とりあえず朝になったら起こしてください。

そしたら帰るので。

「……めんどくさ、もうどっかに行けよ!!」

―叫び声とともに私は目を覚ました。奇妙な眩しき朝日。

なんだ夢だったのか。やはり幽霊なんていないのか。

でもどこか気になる部分がある。

私は廃病院を地図に探した。

「あれ?」

廃病院なんてなかった。

そこには遊園地があった。こんなのいつできたのか。


咄嗟に書いたギャグ。

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