2.200年の予想
灰色の空、ひび割れたいくつものビル。
車の無い広い道路、その先は曇っていてわからない。
長くなった髪をなびく涼しい風の中、僕は一人。横型ガードポールに腰掛け、冷めきったホットコーヒーを飲みながらぼっーと空を眺めていた。
「もう終わりか……」
やるだけのことはやったから後悔はない。
でも一つだけ、ぽっかりと空いてしまった心がある。
あのときは何でもできると思っていたのに、どうにもならなかったな。
僕は領主。ここらの国を所有する者だった。
理想の実現、自然、安心と安全を約束して都市を買ったんだ。
僕と同じ志の人がお金をくれて、手伝ってもくれて、この都市は活気あふれていたな。
だけどそれはもう、10年以上も前のことだ。
理想は確かに実現できた。なのに、簡単なことだった。
人気がなかったんだ。
「おーい、探しましたぜー!」
絨毯が曇り空を遮り、こっちへ降りてきた。
地面近くまで降りると、絨毯の上で胡坐をかく中年オッサンが話しかけてきた。
「辛気臭いですなー。そんなに落ち込んでても仕方ないですぜ?」
そう言って笑うこのオッサンは、この国を買った不動産屋である。
こんな何もない場所を案外高値で買ってくれて、しかも隣国へ送迎してくれる。そのことにはだいぶ感謝している。
とはいえ、少しは気を遣ってほしいものだ。
「せっかく大金を手に入れたんですから、もっと喜びましょうぜ?」
「……そうだな」
もう僕は住む側になったんだ。
無理して人々に媚びる必要なんてない。
この土地とおさらばして、大人しく遊んで暮らせばいい。
なのに、どこか悲しいのはなんでだろう。
「あんなに栄えたのに、ほんと静かになったもんだ。残酷だねぇ、人って。まぁそんなこと言ったってしょうがないけどな」
オッサンの汚い笑い声が辺りに響く。
きっと隣の国まで届いているだろう。
「ほれ、乗りなさいな」
「あ、ああ」
オッサンの手を掴み、俺は絨毯に乗った。
やはり乗り心地に慣れないな。
二人を乗せた絨毯はゆらゆらと空へ舞い、飛んで行った。
都市を上から見ると、また違った感じだ。
あれだけ大きかったビルが、手で隠れるくらいに小さい。
「それにしてもあなた、変わった人ですな。そんなに国が大事だったんです?」
「ええ、まぁ」
「そりゃ、かつては栄えてましたけど、もうそんな時代じゃないんですよ」
わかっている。
もう何年も経って、何を変えても戻らなかったから、痛いほどに理解している。
でも気持ちはまだ残ってるんだ。意志に反して。
「あんたはよくやったよ。それでいいだろ?」
「……ああ」
僕は理想の国を一瞬の時だけ、実現できた。
多くの人が国に住んでくれた。それは事実だ。
なのに今はどこを見ても、廃墟しかない。
汚れてはいないが、あまりにも廃れてしまった。
「オッサン、あんたはどこに住んでるんだ?」
「えっーと、ディベルシオンだっけな。ほれ、西にある大国さ」
「高かっただろ?」
「あいにく、金持ちですから」
ディベルシオン。
昼も夜も関係ない繁華国、四六時中遊びまくる国。
国住費は初回だけで、高額ではあるが、タダで暮らせる。
「楽しそうだな」
「そんなことはないですぜ、もっといい暮らししようと思ったら、稼がないといけませんからね」
ニヤつきながら言ってくるオッサンに説得力などない。
なんか気持ち悪くなってきたから、この話はやめることにした。
そういうところが古いのだろうけど。
「ほれ、見えてきましたぜ」
浮遊する鉄の島々。
隣国のインゼルが見えてきた。
「相変わらず晴れてるな」
どこにもいかない感情を放っておいて、未来のことを考える。
俺は後ろにある廃墟を振り返ることなく、空を飛んで行った。
分かりにくかったかもしれないので、書いときます。
移民が自由になった人々が人気な国へ移住してしまう世界観です。
それが一般化したので、国が物件みたいになっている。
国の運営者は国民を増やして住民費をもらうことで、儲けれる。だから人々が気に入るような国を作る、媚びる。