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03話 依頼、冒険の始まり




「それでは改めて、指名依頼のお話をしましょう」


 ランファのその言葉に改めて受付を振り返るコール、ルーティの二人。キーラはまだダメージが癒えていない様子。


「依頼主は、そこにおられるルーティ様です。領内ダンジョン地下70階にあるという、炎の雫と呼ばれる宝石を取ってきてほしいという依頼です」

「ら、来月……お父様のお誕生日なのです。せっかく冒険者になったのですから、あっと驚く品をプレゼントしたくて……」

「なるほど、地下50階以上はBランク以下の冒険者は踏み入れる事は禁止されていましたね」

「はい。ルーティさんのランクでは、そこまで到達することは出来ません。ですので、依頼という事になりました」

「……私としては、身の丈に合った物をプレゼントする方が良いと思うぞ」


 キーラの言葉にムッとした様子のルーティであったが、コールは静かにたしなめた。


「駄目ですよ。想いの価値はそれぞれ違うものです。自分の価値観であてはめてはいけません」

「う! ……そ、そうかぁ」


 コールの言葉にコロッと笑顔になるルーティ。分かりやすい娘である。反対にずーんと沈み込むキーラ。こちらも分かりやすい。


「ですが、何故私に? 私以外にも腕の立つ冒険者は居ると思いますが」


 いやいやいやいや。

 この場で盗み聞きしている冒険者の大半が否定しただろう。

 はっきり言って、コールの実力はこの国でナンバー1だと誰もが認識している。

 例外を上げるなら、戦乙女との異名を持つ王国の女性騎士だけだろうが、その騎士は病に侵されてもう何年も表舞台に立ってない。

 だとするならば、確実にコールがこの国ナンバー1であろう。


「何よ! 私がせっかく選んであげたっていうのに、不満だっていうの?」

「正確には、高ランクの冒険者の知り合いが、コールさんしか居なかったらしいですよ」

「はうっ!」

「しかし、私では依頼額も高額になってしまいますが……」 


 確かにSランクの指名ともなれば、それなりに値の張る事になる。

 それも、依頼主が領主の娘であれば問題は無いだろう。


 ……最も、いくら小遣いとは言え、その金は自ら稼いで手に入れたものではなく、父親の金ではないかと思われるが。


 父が稼いだ金で、父親の誕生日プレゼントを買う。

 本末転倒のような気もするが、この場合は指摘した所で仕方がないだろう。


「コールさん、今回は仕方ないですよ。それに、地下70階に挑める冒険者がこのギルドにはコールさんを除いて居ませんもの」

「レグナはどうしましたか?」

「ふらっと旅に出ると言い残して、行方不明です」

「……あのヤロウ」


 ちなみにレグナとは、コールと親しくしているAランク冒険者である。腕はかなり立つが、ちゃらんぽらんな性格で有名。……まぁ今回の話には特に関係ない。


「70階ならば問題は無かろう。さぁ、手早く済ませようコールよ」

「おや、キーラさんも一緒に行くんですか?」

「な! わ、私は同じパーティだろう!」

「あら? さっきそれは間違いだったという事になったのではなかったかしら?」

「ぬお!?」

「……ですが、今回ばかりはキーラさんも一緒に来てもらわねばなりませんね。既にコールさんキールさんパーティへの依頼という事で登録されていますので、来てもらわないと面倒な事になりますね」

「い、良いのか?」


 恐る恐るといった感じでキーラはコールに伺いを掛けると、コールはしぶしぶといった様子で頷いた。


「……仕方ないですね」

「そ、そんなに私と一緒のパーティが嫌なのか……」

「いえ、嫌とかそういう問題ではなく、私の場合は色々と特殊な事情というのがあって、多人数で行動するパーティというもは向かないのですよ」

「なんなのだ、その特殊な事情と言うのは?」

「うんうん、あたしも気になるな」

「わ、私もだ!」

「それは、言えません。黙秘させていただきます」


 頑なに拒むコールの様子に、むぅ……とむくれる三人。

 三人としても、比較的コールに近しい存在であるという自負はあったのだろう。それが、ここまで拒絶されたのだから、面白くないに違いない。


「ともあれ! 依頼はお受けになるという事でよろしいのですね!」

「はい。それは構いませんよ」

「わ、私も……」

「では、ダンジョンに向かうのは、Sランク冒険者コールさん、Bランク冒険者キーラさん、E級冒険者ルーティさん。そして、監査員としてギルドから私が出向きます」


 監査員というが、これはある意味で護衛ともいえる。

 領主の娘であるルーティ。いくら冒険者の資格を持っていたとしても、ぺーぺーのEランクである。いくらSランク冒険者が同行すると言っても、この街でギルドを経営している以上、彼女の身の安全は気を遣わねばならないのであった。


 それに、今は受付嬢となっているが、10代の頃はBランクにまで至った事があるのだ。少女を守るぐらい可能であるとランファは踏んでいた。


「お嬢様、やはり私も……」


 今までずっと気配を消して背後に控えていた、ルーティの護衛らしき体格の良い男が懇願するように言うが、それは遮断される。


「残念ですが、あのダンジョンは一つのパーティにつき四人までしか潜れません。それに、貴方の実力はBランク冒険者には及ばないでしょう」

「ぐ……」

「尤も、ルーティさんの代わりに貴方が同行するのならば問題は無いのですが……」

「却下よ!」


 当然であるかのようにルーティは宣言する。

 その発言は護衛の男も予想していたのか、口を真一文字にして言葉を飲み込むと、その隣に立つコールへと向き直った。


「コール様、どうかお嬢様をお守りください」


 コールはSランク冒険者として何度か領主の依頼を受けたことがあり、その実力も信頼されていた。その以来の関係で屋敷に出入りしているうちにルーティと出会い、変に懐かれてしまったのであるが……。


「ええ、ルーティ殿は私が責任もって御父上の元へとお連れします。ご安心ください」

「や、やだわ! 責任持つだなんて、私たちそういうの早いじゃないの」


 と、顔を真っ赤にして言うルーティであるが、コールが言ったことがそういう意味でないことぐらい誰もが理解出来ただろう。

 特にランファとキーラの二人は本人に聞こえないレベルの音でチッと舌打ちした。


「では、話もまとまったところでダンジョンに向かうとしましょう。さぁさぁ、さっさと行きますよ」


 不機嫌を隠さない様子でランファが先導し、一行はギルドを出ていくのであった。






 四人がギルドを出てしばしの時が経った後、ざわざわとギルド内が騒がしくなった。


「なぁなぁ、あの中で誰か中が進展するかねぇ?」

「話聞いていると、キーラちゃんは怪しいな。あんま相手にされてねぇみたいだ」

「あの子、怒りっぽいし、勘違いも多いしなぁ」

「猪突猛進っていうか……思い立ったら一直線だものな」

「あぁ、うちらも何人被害に遭ったか」

「見た目は可愛いのに……」


 だけど、馬鹿だ。

 誰もが口にしなかったが、その単語を頭に浮かべた。


「ルーティちゃんはあの性格だしなぁ……」

「我儘だよなぁ。コールも良く付き合っているよ」

「あと、なんつうか……脳内花畑じゃねぇ?」

「あぁ、やったらと物事を都合よく解釈するよな」

「そりゃおめぇ、わざわざコールに近づくために魔法習って冒険者になったんだぞ」

「大して上達してねぇがな」

「尤も、領主としちゃルーティちゃんがコールの旦那射止めたら、Sランク冒険者抱える事になるんだから、万々歳じゃねぇか」

「でも、一人娘だろ? 領主がどこまでコールを信頼しているかだな……」


 それに、悲しいけど……馬鹿だし。

 誰もが口にしなかったが、その言葉を心の中で紡いだ。


「ランファちゃんは美人で胸も大きいが……」

「コールと付き合い自体は長いものなぁ」

「何気に強いし、あの中じゃ有力候補なんだけど……」

「でもなぁ……」


 受付嬢ランファ……またの名を女帝ランファ。

 ギルドマスター不在時に、このギルドを名実ともに仕切る女帝である。

 美人で愛想も良く、ギルドを利用する冒険者からの人気も高いが、長く付き合えば彼女の本性は理解出来る。


 ……腹黒い。


 とにかく、腹黒女帝受付嬢、勘違い猪騎士娘、我儘脳内花畑令嬢。

 この三人に狙われたSランク冒険者コール。


 ……この依頼、果たしてどうなるものか。




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