12話 仮面騎士様の事情
腹黒女帝受付嬢ことランファは、夢を見ていた。
『ギルドマスター、国よりまた依頼が―――』
『またなの? まったく、自分とこの騎士団が役立たずだからってこっちばっか頼っちゃってもう』
ギルドマスターとなった自分。そして、その隣には―――
『コール、悪いけどまた頼むわ』
『ああ、分かっているさランファ。僕の全ては君のものだ……』
Sランク冒険者にして国の英雄となった冒険者コールの姿がある。
二人が居る限り、国……そしてギルドは安泰であった。
……ちなみに、ギルドマスターになるにはAランク以上の実績が必要となるので、元Bランクの受付嬢たるランファでは、決してギルドマスターにはなれないのであるが……まぁあくまで夢なので細かいところは置いておこう。
………
……
…
勘違い猪騎士娘ことキーラは、夢を見ていた。
『ふむ、あれが悪しきドラゴンが住まうという居城か』
『あのドラゴンのおかげで、近隣の村々に被害が出ています。決して、許せるものではありません』
ドラゴンが住むという居城に挑もうとする……二人の冒険者コールとキーラ。
彼らの存在は、様々な国で噂に上り、多くの依頼が舞い込んでいた。
だが、彼らが引き受けるのは、あくまで正義の為。
多くの困っている者の為だ。
その為に、凶悪で強大な力を持つドラゴンへと挑む。
負ける事など微塵も考えない。二人の絆があれば、どんな困難にも立ち向かっていけるのだから……。
……ちなみに、ドラゴンを悪しき存在と認識しているのは、キーラの思い込み。実際にはそんなことは無く、コール自身もドラゴンについて詳しいのであるが……これは後述するとしよう。
………
……
…
我儘お嬢様ことルーティは夢を見ていた。
『王よ! 隣国が我が国へと戦争を仕掛けてきました』
『やれやれ、仕方ないですね。また僕が一人で出向きます』
騎士の報告を受け、美しい顔の王は玉座より腰を上げる。
その様子を隣に立つ王妃は優しく見守っているのだった。
大陸にある国が次々に戦争を仕掛け、残る国は我が国と隣国を残すのみとなっていた。
つまり、今回攻めてきた隣国を征服すれば、我が国は歴史上で唯一大陸制覇を成し遂げた統一国家となるのだ。
その全ては、王が一人で成し遂げたことだった。
そう、力を示すのは王の役目。
国を治めるのは王妃たる自分の役目。
『ルーティ……世界の全てを君に捧げよう』
……ちなみに、コールもルーティも王族の血筋ではない為、国王となるためには新たなる国を興すしかなく、その為のハードルはとてつもなく大きいものであるのだが、特にその辺の細かい事は考えていない。所詮夢だし……。
………
……
…
「はぁ、僕の妻ですが」
だが、そんな三人が抱いていた夢は、想い人の放った言葉によって粉々に打ち砕かれる事となる。
つま、
ツマ、
TUMA、
妻と言ったのか、この男は。
ギルドに通うほとんどの独身女性のハートを射抜いていた仮面騎士コールが既婚者であり、その妻があの戦乙女ヴェルダンディだという。
全員、その事実を受け止めるのにしばしの時間を要するのだった。
特に、それぞれ自分が恋人候補ナンバーワンだと思い込んでいた三人娘の衝撃は測りしれない。
「つ……妻って、あはは……何を言ってるのかなぁ……」
「うむ、幻聴が聞こえたな。いや、これは夢か。よーく考えてみれば、今回の依頼を請け負ったその日からおかしかった」
「嘘よ嘘よ……だってコールが私の夫になる事はお父様だって認めて―――」
すると、ルーティの背後にいつの間にか依頼開始前に別れた使用人の男が立っていた。
「申し訳ありません。お嬢様が傷つく事を考え、もう少し大人になるまでこの事は黙っておくようにと旦那様に言われていました」
「まさか……まさか、お父様は―――」
「当然ながらコール様が既婚者である事は知っておりました。むしろ、だからこそお嬢様と近く接する事を許されたのです」
「そんな……そんな……うわーん!!」
ランファはバタリとそのまま卒倒し、キーラは真っ白になって遠くを見つめ、ルーティはわんわんと泣きじゃくった。
「ギャハハハ! 驚いた驚いた! この光景をずっと見たかったのよ!」
そんな中、ただ一人ギルドマスターだけが腹を抱えて大笑いをしている。
その様子を見て、冒険者の一人が尋ねた。
「ギルドマスターは知っていたんですか?」
「うん、知っていたよ。いや、私も初めて知った時はびっくりしたし、めちゃめちゃショックだったんだから。だから、他の人にもこの気持ちを味合わせようと思って、コールには言わないでおいてって頼んでいたの」
あんたのせいかよ!
この場に居たほとんどの者が心の中で盛大にツッコミを入れた。
「ううむ、自分では分からないのですが、僕の妻がヴェルだったというのがそんなに驚く事なのですかね?」
「私もその感覚が分からんな。何故か、既婚者だというとみんな驚くのだ」
二人とも年齢的には結婚していてもおかしくないのであるが、雰囲気がどうしても家庭を持っている者ではないから、そう思われるのだろう。
やがて、ひとしきり大笑いした後、ギルドマスターは顔を引き締めて改めて二人に向き直った。
「とにかく、コールとヴェルダンディ、貴方たち二人の事情は私も知っているつもりよ。だから、此処からすぐに離れた方が良いわね」
その発言に驚いたのは、周囲に集まっていた冒険者や衛兵たちだった。
この場で二人が居なくなってしまっては、王都から国の調査隊が来た時に面倒な事になってしまうのではないだろうか。
「ギルドマスター……それは流石に……」
そう思って口を挟む者が居たが、ギルドマスターは厳しい顔つきで首を横に振る。
「戦乙女ヴェルダンディは、公に指名手配さえされていないが、行方を捜している奴らは結構居る。そいつらに察知されると面倒だ。だから、しばらくは表舞台から姿を隠しておいた方が良い」
ギルドマスターの言葉に、ヴェルダンディは苦い顔つきとなって隣に立つコールを見る。
「ふむ、奴めまだ私を探しているか。では、コールよ、行くか」
「大変な事を丸投げしてしまいますが、後の事はよろしくお願いします」
コールも恐縮そうに頭をペコリと下げるのだが、ギルドマスターは笑って手を振った。
「これが今生の別れってんじゃないし、落ち着いたらこっそり会いに来てね」
「ええ、必ず。では、皆さんしばしの間お別れになりますが、必ず会いに来ることを約束します。では―――」
自然な形でコールはヴェルダンディの身体を抱きかかえると、そのまま超スピードと跳躍によってこの街から出て行ったのだった。
「え? 本当に行っちまいましたけど、良いんですかギルドマスター?」
冒険者の言葉にギルトマスターは苦い顔つきで肩をすくめる。
「良かないよぉ。これからの事を考えると憂鬱なんだけどさぁ……」
「けどさ?」
「あの戦乙女の手助けが出来るなら、貧乏くじでもなんでも引き受けるってもんさ!」
「え? ギルドマスターひょっとして……」
「当然、大ファンだ!」
にかっと笑みを浮かべ、力強く親指を立てて笑みを浮かべたのだった。
◆◆◆
街から少し離れた場所でコールはヴェルダンディを下ろし、ゆったりとした歩調で歩き出した。
「さて、これからどうしましょうか?」
「今の生活はそれなりに気に入っていたが、奴らに見つかると面倒だ。早急に別の国に移動してしまうか……」
「残念ですね」
はぁと溜息を吐くコール。
Sランク冒険者の力があれば、何処でも暮らしていくことに不都合はないのだが、生活基盤が丸ごと無くなるというのはかなり面倒だ。
「ところでコールよ、少し気になっていたのだがな、私がたまたま散歩に出ていたら、この事件に巻き込まれたと説明したと思うが……」
「あ、そう言っていましたね」
「ひょっとすると、この私の受けた“呪い”が奴らを引き寄せてしまったのかもしれん」
「思いあたる節でも?」
「思い返してみれば、私が外に出るたびに、大型の魔獣が私を狙って襲ってくることがたびたびあった。まぁ全て返り討ちにしてきたので印象にさほど残っていなかったが……」
「いや、そういうのは報告してください。拠点していた所は魔獣の生息地からはかなり離れていますから、明らかにヴェルが原因ですよ」
「という事は、私のせいであの街は騒動に巻き込まれてしまった訳か……住民には申し訳ない事をしてしまった……」
「いえ、魔獣が自然発生したわけでもなく、それを操っていた元凶が居たわけですから、全てがヴェルの責任という訳ではないですよ」
「それならば気持ちは少し楽になるが……やはり心苦しいな」
はぁと溜息を吐き、今一度去って来た街を振り返る。
「それと、その元凶の魔術師についてだがな……奴は恐らく死んでいないぞ」
「でしょうね、仕留めた際に何かがすり抜けるような感覚を感じました。あれが本体ではなく、魂のみで別人の肉体に憑依しているのでしょう。……いえ、一つの肉体に二つの魂は宿れませんので、死体にでも宿っているのでしょうけど」
「だろうな。という訳で、貴様が近くに潜んでいる事は既に察知している。話ぐらいは聞いてやるから、出てくると良い」
ヴェルダンディが殺気のこもった声でそう言うと、周囲に点在していた小さな岩山の影の一つに変化が起きる。
影よりヌ~っと黒い塊が浮き上がり、やがて一つの人の形へと変化する。
その人影は、二人の前へ姿を現すと口を開いた。
「驚いたな。まさか察知されるとは思わなかったよ」
「―――! この男……」
「知り合いか?」
「いえ、顔を知っているだけです。正確には、宿っている肉体の顔ですが」
男の顔は、ダンジョンへ向かう途中にこちらを襲ってきた盗賊のリーダーのものであった。
それと同時に、さっきの仮説が正しければ、あの盗賊たちはもう既にこの男に殺されているのだろう。
相手は悪人で、何度も人の命を奪っている存在ではあるが、それでも自分が彼ら盗賊の逃げる手段を奪った事が彼らの死に繋がってしまった。
不可抗力だとは分かっていても、胸は痛んでしまう。
「で、貴様何が目的だ? 野望を潰されて我らに復讐でもするつもりか?」
「まさか、あそこまで完膚なきまでに敗北して、すぐさまリベンジなんて考えていないさ。まあ、こうしてお前たちの前に現れたのは、ちょっとした宣戦布告みたいなものだな」
「ほう、まだ諦めていないと? 確か、魔王を生み出そうとしているのだったか?」
「……魔王ですか」
ヴェルダンディの言葉にコールは反応する。
魔王……。
よく物語に登場するような、魔獣を統べる王の総称……ではない。
魔獣という存在が持つ括りを抜けて進化した存在。言うなれば、極限までレベルアップした魔獣の呼び名である。
歴史上、数体の魔王は確認されてきたが、当然ながら早々に生まれる存在では無い。
そしてその力たるや、並の魔獣の比ではない。
Sランク冒険者であろうと苦戦を免れない、特級魔獣……それの更に上の存在である。
「そうだ。人の手で魔王を生み出す事、それが魂の移動を繰り返し、本来の名前や記憶すら失ってしまった私の唯一の悲願なのだ!」
男は高らかに叫び声を上げた。
その言葉に、ヴェルダンディは哀れみを込めた瞳で男を見据える。
「やはりか。魂の移動は、使うほどに劣化を引き起こす。これが何度目かの移動かしらんが、情念だけが貴様を動かしているという事か」
彼……いや彼女かもしれないが、何を思って魔王なんぞを生み出そうとしたのか、問いかけても無意味だろう。
肉体も記憶も失ってしまった彼にとって、唯一の存在価値が魔王を生み出すという目的なのだ。
「しかし、情念しかない貴様に言っても仕方ないかもしれんが、魔王なんぞ作り出しても碌な事はないぞ。
魔王を作り出すには、膨大な魔力と命が必要となる。それに、倒したとしても魔王が溜めこんだ魔力と積み重ねられた怨念を倒したものが受け止めなくてはならない。そんなものはただの呪いだ。清廉潔白な騎士を、本能のみで動く醜悪な存在に変えてしまうほどのものだ。そんな、災厄しか招かないものを作ったところで何の意味もない」
「……なるほど、貴様はその呪いを受けてしまった存在だという事か」
「うむ。呪いを受けたその日から、私は一日で一年老化していた。そして頭の中に、魔王が吸収した者たちの怨嗟の声が絶え間なく続いている。今、こうしている間にもな。だから、この10年間、しっかり熟睡出来た事すらない。
……まぁ、私の場合はマシな方だ。共に呪いを受けた騎士の男なんぞは、それで精神を狂わせてしまった。通りがかった村に住む者たちを皆殺しにして、無害な生物だったドラゴンを殺したのだ。尤も、国に仕える騎士が呪われたという話は、世間にばれると困る事柄だったようでな、村はドラゴンが壊滅させた事になってしまった。そして、その騎士を殺した私は竜殺しだ。全く、聞くだけで呪われるような話だな」
ヴェルダンディはそう自嘲も込めて吐き出すと、隣に立つコールをチラリと視線を送る。
「……なるほど、だが不思議だなぁ。一日で一年歳をとる呪いだとするならば、今の貴様の若さはどういう事だ?」
当然な疑問だろう。
今のヴェルダンディは、どう見ても20代後半ほどの外見だ。少なくとも、そんな呪いを受けているようには見えない。
「お前に説明する義理は無いが……まあ、呪いを半分請け負ってくれる、物好きが居たというだけだ」
その言葉にコールは顔を背け、ポリポリと頬を掻く。
勘の良いものならば、その呪いを請け負った者が誰なのかは理解出来ただろう。
「なるほど……その話を聞いて理解した。そこの仮面の男……貴様は人間ではなく、その殺された筈のドラゴンという訳か。並の人間が、そんな呪いを請け負ってまともに生きられるはずもない。そんな事が可能なのは、永遠に近い命を持つドラゴンしか出来ない」
その言葉に、今まで黙っていたコールは口を開く。
「いえ、肉体そのものは紛れもなく人間ですよ。要は、今の貴方と一緒です。あの日、死にかけていた人間の子供……その肉体に魂を移したのですよ」
「死にかけていた? 死体に魂を移したのではないのか?」
「違いますよ。死体は肉体を成長させることは出来ないですが、あの当時10歳だった子供の肉体はこうして成長しています」
「おかしな話だ。一つの肉体に二つの魂は共存できないのではなかったか?」
「………」
わざわざ説明するつもりもないと思ってコールは黙っているが、およその推測は出来ている。
恐らく、今の自分はドラゴンであった頃の魂と、肉体の本来の持ち主である子供の魂が溶けあって融合してしまっているのだ。
現に、自分にはドラゴンであった頃の記憶もあれば、普通の人間であった頃の記憶も残っている。
ただ、どちらも完全ではない。二つの記憶はところどころ欠けているし、人間としてもドラゴンとしての本来の名前は思い出せない。
原因としては、両方の魂が死にかけていたせいだろう。傷ついた魂同士が結び付き、補修しあった結果が今の自分だ。
おかげで、人間としての感性が少しずれていて、よく他の人間より注意を受ける。
自分の魂がどういったものなのかは、あくまで推測である。だが、改めて検証しようとも思わない。
そ検証するには二つの死にかけの身体が必要だし、魂の移動を行ったコールの師ともいえる魔術師は、今何処に居るのか分からない。
「まぁ良い。それで? こうなった今は私を殺すか?」
「いや、今お前を殺した所で新しい肉体で蘇るだけだろう。魂のみを封印できる都合の良い術やアイテムも手元にないのでな。今は放置するしか方法が無い」
「それに、手塩にかけて育てた魔獣も今失ったばかりでしょう。しばらくは貴方の活動に制限が出る筈です」
「……確かにな。まぁ、死んでも死ななくてもどちらでもよいと思ったから、こうして面と向かって話しているわけだが」
「だが、貴様が魔王を生み出そうとしているのならば、私はそれを止めねばならん。いずれ、必ず貴様を葬ってやると約束しよう」
「おや、言うべきことはそれだけか。今の私の四肢を砕き、身動きとれなくするという手段があると思うが?」
「自決されたら同じことだろう。それに、完全に葬る方法が見つかるまで貴様の面倒を見るのは御免だ」
「なるほど」
わざわざ自分でそう言うという事は、今の身体に何があっても問題ないように対策はしっかりしているのだろう。
「さて、気が変わられても困るから、今回はこれで去らせてもらおうかな」
「ああ、出来れば二度と顔は見たくないですがね」
「次に会うのは別の顔かもしれんがな。とにかく、貴様が騒ぎを起こせば、我々が駆け付ける……そう肝に銘じておけ」
「私としても殺されたい願望があるわけではないのだが……こればかりは止めるつもりもないのでな。……では、またいずれ―――」
そう言い残して、男はまた黒い塊へと変化し影の中へと去っていった。
気配は完全に消えた。姿を消したように見えて、隠れて様子を見ているという事は無いだろう。
「やれやれ、面倒な事になってしまいましたね」
「ああは言ったが、お前が付き合う必要はないのだぞ」
「いえ、ヴェルには命を救ってくれた恩、そして生きる意味を教えてくれました。この命が尽きるまで、お付き合いしますとも」
「全く……お前も変わった奴だ。私とついてきても、良い事なんぞないというのに……」
やや顔を赤らめながらぷいと顔を背ける仕草に、コールは思わず笑みを浮かべた。
確かに難儀な道だと思うが、仕方ない。
これも、あの時……助けてくれた際の姿……その美しさに見惚れてしまった自分の因果というものである。
此処が……彼女の隣こそが、自分の居場所だ。
いずれは自分も寿命が来るのかもしれないが、寿命が尽きる前にヴェルダンディの呪いを解くという目標もある。
新たな地でまた一からやり直す事になりそうだが、何の不安も抱いていない。
二人は、いつの間にか互いに手を握り、前へと歩みを進めていた。
勢いで書いたものですが、きちんと清書しようとすると思っていた以上に時間が掛かってしまいました。
ですが、今回はこれで終わりです。
元々は、コールがヴェルダンディの呪いを半分請け負った際のエピソードも書きたかったのですが、これ以上長くなるのも困ったので、以下大体の流れを説明します。
10年前……ヴェルダンディ含む聖騎士団が魔王を討伐。
その結果、聖騎士の一人が呪いを受けて発狂。コールの住む村を滅ぼし、村と良い関係を築いていたドラゴンを殺す。
ヴェルダンディとその相棒の魔術師がその騎士の討伐の為にやって来て、呪われた聖騎士を殺す。
その結果、ヴェルダンディは呪いを二重に受け、一日で一年の年を取ってしまう事になる。
村で瀕死の状態の少年を発見。せめてもの罪滅ぼしにと、魔術師はドラゴンの強靭な生命力を少年に移し、生き永らえさせることに成功。ドラゴンと少年の魂が融合したのは、想定外。
ヴェルダンディ、少年……コールの生きて行ける場所を見つけるべく、しばらく旅をする。魔術師は、協力するのはここまでだと言って、二人の前から去る。
コールを孤児院に預け、ヴェルダンディは自分の命が永く無い事を悟り、去る。呪いを解く手がかりを求めて旅を続けるも、老化を遅らせる事が精いっぱいで解くことは叶わなかった。
5年が経過した頃、一人……静かに命が尽きるのを待っていたウェルダンディの前に、成長したコールが現れる。
コールはヴェルダンディと別れた後、姿を消した魔術師を探し出し、その元で魔術を学んでいた。
失った目と右腕にドラゴンだった頃の自分の肉体を移植し、ドラゴンの強大な力を限定的に得る。おかげで、回復魔法を受け付ける事が出来なくなり、火傷を治す事は出来なくなった。
手に入れた強大な力を使ってヴェルダンディの呪いを半分引き受け、彼女の肉体年齢を元に戻す事に成功。
怨嗟の声に関しては、コールが手を繋いで寄り添って眠れば、緩和出来る事も発覚。
そうすると必然的に共に暮らす事になるため、コールはヴェルダンディに求婚。ヴェルダンディも受け入れ、二人は夫婦となる。
コールは感性が普通の人間と変わり、他の人間の外見の差違が分かりにくくなるのだが、記憶にしっかりと焼き付いてるヴェルダンディだけは美しいと思えた。
またヴェルダンディもかつての少年が自分の呪いを解く白馬の騎士として現れたため、素直に恋に落ちた。
以降は、ヴェルダンディのリハビリをしつつ、冒険者として生活を続け、今回の話に至るという……
……とまあ、こんな流れです。
元々長編用に考えていたプロットを流用したものなので、今回の短い物語にするにあたり、だいぶ端折った部分がありました。
特に主人公たるコールの心理描写が薄いので、感情移入が難しかったと思われます。
また、フラれる定めの三人娘も、もっと嫌な性格に出来れば良かったのですが、書いているうちにこういう形になりました。
とりあえず完結できる短い話を……という事で書いた今回の物語ですが、自分にとっては、いろんな反省点が見つかる結果となりました。
その反省を他の執筆中の物語に生かせるよう、全力を尽くすつもりです。
では、拙い文章でしたが、読んでくださりありがとうございました。




