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11話 現実を突きつけられる者たち




 中断されていた戦いは再開された。


 が、それは最早戦いと言うよりは、後始末という形であった。


 ヴェルダンディはまるで戦闘開始直後に戻ったかのような動きで、次々にトカゲ魔獣を一刀両断していく。

 ヴェルダンディの持つ刀は、刀身が真っ赤に染め上げられている。それは、刀身が赤熱化するほどの熱量を持つ魔剣であった。

 故に、刃こぼれも血糊がこびりついて使い物になる事もない。

 その切れ味にヴェルダンディ自身の膂力が加わり、トカゲ魔獣程度の皮膚であれば、特に手間取る事なく斬れるという事だ。


 次にSランク冒険者のコール。

 彼が右腕を掲げると、その腕にまるで纏うように何重もの魔法陣が浮かび上がった。その拳をドンと地面にたたきつける。

 すると、その何重にも魔法陣が次々と大地に巨大な火柱がトカゲ魔獣の足元に出現し、その肉体を炎で包み込んでしまう。

 更に右腕を振るうと、炎がまるで半月状の刃のように形を変えて飛んでいき、トカゲ魔獣の肉体を両断してしまう。


 舞うように剣を振るうヴェルダンディ。そして、炎を自在に操って戦うコールの姿に、残っていた衛兵や、戦いに参加していた冒険者たちは思わず見惚れてしまった。


「な、なぁ……あれってコールだよな」

「だなぁ、でもアイツ、魔法使ってね?」

「アイツってば魔術師だっけか?」

「……そういや、アイツと合同依頼受けたことあるけど、あまりにも戦闘が早く終わり過ぎて、どんな方法で倒してたか見てねぇな」

「一緒に戦っている美人さんは誰だ?」

「なんか、衛兵がヴェルダンディって呼んでいたぞ」

「え……マジ? ヴェルダンディって、あの戦乙女ヴェルダンディ様だよな?」

「た、確かにそっくりだけど……なんで、この街に居るの? っていうか、住んでいたの?」

「まぁいいや。とにかく、俺は大ファンだったんだ! その戦闘を直に見られるなんてなんて幸せだ!」

「俺もだ!」

「アタシだってそうよ!」

「ヴェル様! いけぇーっ!!」

「キャーッ! コールも頑張ってー!!」

 

 とまぁ、こんな感じで自分の戦闘そっちのけで黄色い声援が飛び交うようになった。

 最早、一種のショーである。


 とは言えこれは現実であり、残り少なくなったとはいえ、魔獣はちゃんと実在している。

 それでも、全ての魔獣が殲滅されるまでは時間の問題と言えた。


 ―――その筈であったが、残ったトカゲ魔獣が突如として奇怪な行動をとり始めた。


 なんと、コールやヴェルダンディによって斬り捨てられた仲間の死体をむさぼり出したのだ。

 死体に残っていたエネルギーを吸収し、肉体を強化させていくトカゲ魔獣たち。

 だが、それで終わりではなかった。遂には、生きている者同士……互いの身体に噛みつき出した。……共食いである。

 そうして残された魔獣たちは、一体の魔獣へと集結する。


 その大きさたるや、街の一区画そのものを覆いつくすほどの巨体……30メートルもの巨大な姿となっていた。


「ふむ、ここまでくるとほぼドラゴンだな」


 共食いを始めた頃から、手を出さに様子を見ていたヴェルダンディがポツリと呟く。

 すると、隣に立っていたコールも頷く。


「先程の男の目的は、ドラゴンを作り出す事だったのかもしれませんね」

「まぁ、我々が紛い物のドラゴンに負けるわけにはいかん」


 ヴェルダンディがニヤリと笑みを浮かべると、コールも仮面に覆われた顔の奥で同じく笑う。


「そうですね。では……」

「うむ、あの技で決めようか」

「分かりました」


 コールは巨大トカゲ魔獣の周囲に位置する民家の屋根へと着地する。

 指をすさまじい速さで動かし、空中に魔法陣を精製……が、それを阻止せんと巨大トカゲがコール目がけて爪を振り下ろした。その巨体からは想像的ないほどのスピードであった。

 当然ながらその一撃から逃れたコールは、巨大トカゲを挟んで対角線上の屋根へと飛び移り、また魔法陣の精製を試みる。すると、またそれを阻止せんと尾が振り払われる。

 何度となく邪魔されたが、それでもコールは魔法陣精製を諦めなかった。


「お、おい逃げてばっかじゃねぇか。流石のコールもあんなにでかい相手じゃダメなのか?」

「いや、良く見ろ! 魔獣の……頭上だ!!」


 その言葉に、多くの者たちの視線が集中する。

 魔獣の頭上にあったのは、魔獣の身体全てを覆いつくすほどの巨大な魔法陣であった。

 コールは、最初から魔法陣の一部のみを精製し、それを魔獣の上空へと送っていたのだ。頭上に配置された魔法陣の一部は次第に形を持ち、一つの巨大な魔法陣となる。

 これを作り出す事が、コールの狙いであったのだ。


「ヴェル!」

「うむ!」


 ヴェルダンディはコールの言葉に頷き、その場から高く跳びあがった。だが、いかにヴェルダンディの人間離れした跳躍力であっても、遥か上空に配置された魔法陣までは到達することは出来ない。

 コールもそれを理解してか、ヴェルダンディの身体が落ちる寸前、その足元に足場となる魔法陣を生み出す。ヴェルダンディはその足場を蹴りながら高く高く跳び、更にはその巨大魔法陣をも飛び越した。

 そして、ある程度の高さまで達した所で、そのまま魔法陣目がけて急降下する。


 今まで跳躍してきたものと今度は逆だ。

 次々に空中に生み出される魔法陣を蹴り飛ばし、ヴェルダンディは急降下に更なる加速を付与していく。

 超スピードによって加速されたヴェルダンディが魔法陣を遂に潜り抜ける。

 すると、その身体は一本の巨大な炎の矢……いや槍となった。


 炎の槍と化したヴェルダンディは、巨大トカゲの肉体を頭部から貫通し、巨大な風穴を開けたのだった。

 その途端、巨体トカゲの全身は炎によって包み込まれ、ほんの1分程度で炭化し、サラサラと崩れ去っていった。


 その全てが黒い砂となって崩れていく中、その中心に佇む一人の女性の姿があった。

 当然ながら、ヴェルダンディである。


「ふむ、ようやく終わったな」


 刀を鞘に納め、大きく背伸びをしながらこちらへと戻るヴェルダンディ。

 あれだけの大掛かりな技を放ったというのに、特になんでもない様子の彼女に衛兵たちは不安になって声を掛ける。


「ヴェ、ヴェルダンディ様、本当に大丈夫なのですか?」

「いや、なんともないが?」

「ヴェル自身には、耐火の魔法を掛けていますので、彼女が燃える事は無いですよ」

「ふぅ、良かった」


 コールの言葉に、衛兵たちはホッと胸をなでおろす。

 そこへ、観客に回っていた冒険者たちがぞろぞろと集まりだした。


「おいコール、終わりか? 本当に終わりなのか?」

「ええ、少なくとも都市内には危険な意思を感じませんね。騒動自体は、これで幕引きと考えてよいかと思われます」


 その言葉に、冒険者たちは安心したように息を吐いた。

 ほとんどがコールとヴェルダンディ任せだとしても、こちらの命の危機には違いない。


「それにしても、なんだったんだ?」

「あぁ、街の中で魔獣が暴れるなど、前代未聞だ」

「結界はどうなってんだ?」


 安心した冒険者たちは、口々に思った事を喋り出す。

 やがて、一人の冒険者が何かに気付いたようにコールへと話しかけた。


「そう言えば、お前今朝から依頼で出かけていたんじゃなかったか? あの嬢ちゃんたちどうしたよ?」


 嬢ちゃん……それは当然ながら、ランファ、キーラ、ルーティの三人娘の事だろう。

 それについてコールが説明しようとすると、


「「「コール!!」」」


「おや?」


 噂をすれば影……ということわざは、実は本当らしい。

 見れば、こちらに駆けてくる三人娘の姿があった。


「皆さん、よくこんなに早く辿り着けましたね」

「魔動馬車を飛ばしてきたからな。おかげで全員ヘトヘトだ」


 この中でより青い顔をしたキーラが、荒い息を吐きながら言った。


 魔動馬車……その名前の通り魔力の力で動く魔道具である。特に必要も無かったら描写しなかったが、ルーティの実家で管理している魔道具であり、彼らはこの馬車に乗って目的地のダンジョンへ向かったのである。


「とにかく……本当に街が大変な事になっていたのね」

「お、お父様は大丈夫だろうか?」

「被害は東門付近に固まっています。今のところ、領主様の邸宅のある西部付近の被害報告はありません」

「そ、そうか良かった……」


 今の今まで気が気でなかったのだろう。安心したルーティは、その場にへたり込んだ。

 すると、隣に立っていたランファが口を開く。


「コール、ルーティさんのご依頼ですが、今回は取り消すそうです」

「おや、良いのですか?」


 するとルーティは顔を赤くして視線を逸らす。


「あれほどの事をして、依頼を続けられるほど恥知らずじゃないわ。お父様の誕生日プレゼントは、キーラの言う通り身の丈にあったものをプレゼントするつもりよ」

「そうですね、ご自分で気付けたのなら僕から言う事はありません」

「そ、それでコール……あのね……」


 顔を更に真っ赤にして言葉を紡ごうとするルーティであるが、それに何か危機感を察知としたのか、キーラが強引に割って入った。


「コールよ! 今回の事で私は自分の未熟さを痛感した!!」

「あ、はい。そうですね」


 あっさり言われた言葉に挫けそうになるも、なんとかその次の言葉を紡ぐことに成功した。


「今後、一から鍛えなおし、己を高めるつもりだ。だから……だから……また自分に自信が持てた暁には―――」

「あ、ずるい! 一人前になってコールの相棒になるのは私なんだから、キーラはでしゃばらないでよ!!」

「何を言う、最下級のEランクではどれほど時間が掛かるのか分からんではないか。まだ私の方が圧倒的に早いわ!」

「私がコールのパートナーなの!」

「私だ!!」


 と、本人の気持ちを無視した言い争いが始まり、当のコールはなんのこっちゃと首を傾げていた。

 その中、小動物同士の虚しい争いを鼻で笑いながら見ていたランファは、いい加減頃合いかと思い、自身の最終兵器を投入する事を決める。


「はいはいそこまで! いくらお嬢ちゃんたちが勝手な事言った所で、コールのパートナーは既に決まっているのよ。ね、コール♪」


 とウインク。その言葉に周囲の冒険者たちからは軽いざわめきが走るが、当のコールは軽く驚いた様子で返答した。


「あ、はい。そうですけど、よく知っていますね」

「そりゃあ、コールから直々にこのブレスレットをもらったのは、この私ですからね♪」


 ランファはコールの肩にもたれかかるように隣に立つと、自身の右腕に嵌められた豪華なブレスレットを二人に見せつけるように掲げた。

 当然ながら、二人には雷に等しい衝撃が走る。


「え? ブ、ブレスレットだと? それをコールがランファに渡したというのか?」

「ちょっと聞いてないよ。それ本当なの、コール!?」

「あ、はい。そう言えば、そんな事もありましたね」


 ペアブレスレットを渡すという行為は、それこそ婚姻の証……結婚を前提したお付き合いをするという印のようなもの。

 そんな衝撃的事実を公表したというのに、当のコールはあっけらかんとしていた。

 その様子に若干不安を感じていると、そこに割って入ってくる謎の美女が居た。

 美女……ヴェルダンディは、ランファのブレスレットを覗き込むと、周囲がこれまた驚くような言葉をコールと共に口にする。


「おや、懐かしいなそのブレスレット。なるほど、世話になっている女性とは、彼女の事か」

「ええ、あの時点で親しかった女性というと、彼女になりました。ギルドマスターにも世話にはなっていたのですが、ちょうどあの時点では留守だったようなので、ランファさんに」


 おや?

 何やら話が怪しくなってきた。

 それに、そもそもこの謎の美女は何者だ?


「えーと、コール……未婚の女性にペアのブレスレットを渡す意味って、理解しているのかしら?」

「は? 何か特別な意味でもあるのですか? あれは依頼の過程で手に入れたものだったのですが、ヴェルに相談した所、普段世話になっている女性にでも上げた方がよいと言われまして……」


 と言ってコールがヴェルと呼ぶ黒髪の女性を振り返る。

 改めて見るが、とんでもない美女だ。歳は恐らく二十代だと思われるが、老成した雰囲気もあるからもっと年上かもしれない。だが、それと同時に少女のような空気を醸し出してもいる。

 多くの人間を見てきたランファにとって、ここまで年齢不詳の人物も珍しいと感じていた。


「うむ、私が過去に居た騎士団では、若い騎士がそのような事をしていたのでな、それに倣って世話になっている女性に渡した方がよいのでは? と進言したのだ」

「最初はヴェルに渡そうと思ったのですがね」

「まあ今の私はコールの世話になっている身だからな。他の女性に渡した方がよいと思ったのだ」

「なので、ギルドマスターに渡そうとしたのですが、あの当時は留守だったのでランファさんに」


 という事は、コールの中での女性序列ではランファは3位という事になる。

 その事実もショックであるが、ブレスレットを渡すという行為をコールが理解していなかった事もショックであった。

 加えて気付いたこともある。

 コールの腕には、自分と同じブレスレットは無い。

 あれはペアで作られたブレスレットだった筈。では、もう一つは何処へ?


「ああ、もう一つですか? 一つは世話になっている女性、もう一つは世話になっている男性という事なので……レグナに渡しました」

「イヤアァァァァッ!!」


 レグナとは、この街のギルドではコールと双璧をなすSランク冒険者の名前である。

 だが、騎士道精神溢れるコールと違って、かなりちゃらんぽらんな性格である事も有名であった。

 特に、女癖が非常に悪く、ギルドの女性職員たちからは嫌われていた。

 その彼の腕に、自分とペアのブレスレットが嵌められているというのか!


「確かに、もう一つはランファさんに渡したと言っていたら、かなり喜んでいましたね」

「私にもそれを伝えてよー!!」


 勝手に勘違いしていた恥ずかしさと、レグナとペアブレスレットを身に着けていたという絶望感にランファは打ちひしがれる。


「と、ところで……さっきからずっと気になっていたのだが、その隣の女性は何者なのだ?」


 ランファの様子を見てほくそ笑んでいたキーラとルーティであったが、喜びきれないのは彼女の存在があったからだ。

 なんなのだ、この超美女は? そして、何故に当然のようにコールの隣に立っている?


「その方は、伝説の騎士……戦乙女ヴェルダンディよ」


 そう言って冒険者たちの間より現れたのは、豪華な衣服を纏った浅黒い肌の長身の美女であった。


「ギ、ギルドマスター!?」

「はぁい、ランファ。用事で王都に居たんだけど、騒ぎを聞きつけて大急ぎで戻って来たわ」

「そ、そのヴェルダンディ様が、何故……此処に?」


 その問いに、ギルドマスターなる女性はにんまりと底意地の悪い笑みを浮かべる。


「ふふん、気になるわよねぇ。まぁアタシも聞いた時はすっごい驚いたし。さぁ、コール君、何も知らずに舞い上がっていた小娘たちに教えてござんなさい!」


「はぁ、ヴェルがここに来た理由はただの散歩らしいのですが……」

「そうじゃなくて、彼女が貴方の何なのかっていうのを皆知りたいの!」


 うんうんと、その場に集まった全員が頷く。


「はぁ、僕の妻ですが」


「「「「「「「「「「は?」」」」」」」」」」


 この場に居た全員の声が揃った。




戦闘描写を追加していたら、思っていた以上に長くなりました。


加えて、リアルの仕事が忙しすぎて書く余裕がなかったす。

一応、話としては次でラストです。

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