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01話 三人の待ち人

全話執筆済み。

十数話程度の短い物語の予定です。




「―――にしてはまずまずであったが、相手が悪かったな。恨むのであれば、矮小な存在に生まれたその身を恨むがいい」


 獄炎の炎をゆらめかせながら、溶岩の中に佇む巨体の主はそんな事を言い放った。


 その身を恨め?

 何をふざけたことを言っている。


 自分が恨むとすれば、貴様だけだ。


「……この山のふもとにあった村だと? ……知らんな。いや、あった気もするが特に記憶に残っておらん」


 対峙した時のあの言葉だけは、決して忘れはしない!

 そして、あの時に見た地獄の光景を決して忘れはしない。


 ただ、この山が気に入った。

 それだけの理由で眠っていた火山に火を灯し、己の居城へと変えた。

 そして、その山のふもとにあった村を、ただ景観を損ねるという理由で己の炎で焼き払った。


 あの村に居た友達、顔見知りの者たち……そして、この身を育ててくれた父。

 その全てが失われた。


 首を刈られ、血だまりの中に沈む父の姿を見て、怒りに我を忘れて飛び掛かった。


 その結果がこれだ。

 片腕は消し炭となって肘から先が消えている。

 両脚も炎を跳んで避けようとしたとき、足首から先を失った。


 それによって相手の片目を潰すという戦果は上げられた。その代わりに、物理的に立ち上がる事が出来なくなった。

 痛みは麻痺しているのか随分前から感じなくなっているが、おかげで肉体の感覚すらあまり感じられない。

 視界も真っ赤に染まっているし、最早自分が何を見ているのかも……目の前に奴が居るのかも分からない。

 ……そもそも、自分がまだ生きているのかも分からなかった。


 ……ここまでか。

 すべてを失い、残った身体一つで必死に食らいついた。

 その結果が目一つ。

 もし、この場に他の人間が居たら……仲間と呼べる者が居たら、結果はもっと違うものになっていたかもしれない。


 だが、仕方ない。

 これは勝ち目のない戦い。


 そんな自殺ともとれる戦いに、他の者を巻き込めるはずもない。


 ……すまない。

 なんとか仇をとろうとしたのだが、自分の力ではここまでだったようだ。

 そう思い、目を閉じようとした。


「……そうか。ならば、貴様も恨むとすればその身に生まれてしまった事を恨むがいい」


 声を聴いた。

 凛とした、力強く響く声。


 顔を上げ、その声の主を見上げる。


 真っ赤に染まった視界の中、その者がこちらを見て、力強く頷いたのを見た。


 あぁ……その時が初めてだっただろう。


 僕が、何を美しいと思えたのは……。




◆◆◆




「全く! いつまで待たせるのよアイツは!!」


 冒険者ギルドの中でそんな大声を上げたのは、いかにもぷんすか!という表現が似合いそうな態度の少女であった。

 豪華なドレスを纏い、鮮やかな金色の髪の下にあるのは釣り目で気の強さを感じさせる美しい顔だ。


「遅いといっても、ご約束の時間までまだまだ時間はありますよ」


 冒険者ギルド……その受付にて、一番端に座る大人の雰囲気を感じさせる女性は、少女の言葉に苦笑いを浮かべた。


「私がと待ち合わせをするのなら、せめて3時間前に来てもてなすのが礼儀なのよ!」


 さも当然のことのように言い放つ少女。

 その言葉を聞いて、遠目からその様子を見ていた他の冒険者たちは唖然と顔を見合わせ、近くで聞いていた受付嬢も乾いた笑いで相槌を打つ。


 この、いかにもお嬢様ですと言わんばかりの少女であるが、そのものずばりお嬢様である。

 しかも、この冒険者ギルドがある街を治める領主の一人娘だ。

 一人娘であるから、幼い頃から蝶よ花よと愛でられ、それはそれは大事に育てられてきた。

 その結果、こうして立派な超我儘娘クソガキへと育ち切ってしまった。


 受付嬢も、相手が領主のご令嬢でなければいったい何度この我儘娘の事を蹴り飛ばしていたことか……。

 いや、そもそも領主の娘でなくてはここまで我儘に育たなかったであろう。

 恨むべきは、その生まれと育ちか……。


「お嬢様、せめて応接室にてお待ちになっては……」


 隣に立つ大柄な男が静かな声で忠告するのであるが、少女は首を振る。


「いいのよここで。それにここじゃないと、アイツが来る瞬間を見れないでしょう」


 少女がそう言った時、ギィィという音を立ててギルドの扉が開いた。

 それを見て少女は思わず腰かけていた椅子から立ち上がるのだが……。


「……久しぶりね」


 冷たい顔と声で対応する。

 現れたのは、赤毛長身の騎士然とした女性だった。

 軽装であるが鎧に身を包み、腰には長剣が吊り下げられている。


 女性はジロジロとギルド内部を見渡し、お嬢様と受付嬢の姿を目に留めた。


「お前達か。……アイツはまだなのか?」

「まだよ。遅刻ね、アイツは」

「……一応、待ち合わせにはまだ時間があるようだが」

「言っておくけど、あの人は時間ギリギリにならないとギルドに現れないわよ。他の冒険者と談笑とか雑談とか一切しないからね」

「何よ! 人付き合い悪いわね!」

「まったくだ! パーティメンバーとは一何時いかなる時も連絡をかかさぬもののはずだ! それが騎士というものだろう!」


 いや、ギルドに居る時点で騎士じゃねぇから。

 と、こっそり会話を拾っていたその他大勢の冒険者が心の中で突っ込む。


「それがどうでもないのよねー」


 すると、受付嬢の女性がニヤリと笑みを浮かべる。


「そうね。あの人、むちゃくちゃ情報通だったりするのよね。こないだも、冒険者の一人に子供が生まれたんだけどさ。どこから聞きつけたのか、お祝いの品持って現れたのよね。他にも、お金に困っている若手の冒険者に合同の依頼を掛け合ったり。……そもそも、キーラさんもそのうちの一人でしょう」

「うぐ! そ、そうなのであるが……。まあ、そういう気遣いが出来るという事を認めてやらんではない!」


 顔を赤らめてあらぬ方向を向く騎士風女性。その際に腕を組むのだが、胸当てによって平坦になった胸部は腕を組む際の邪魔にはならなかった。

 その胸を見て、受付嬢が気付かれないように鼻で笑う。


 そろそろ、この三人の紹介をするとしよう。


 まず、三人の中で一番年長であろう冒険者ギルドの受付嬢……名前をランファという。

 キリリとした茶髪の美女で、当ギルド受付嬢人気ランキングでは見事一位に輝いた。ちなみに、この三人の中だけで言えば一番巨乳。


 次に、最後に現れた騎士風の女性はキーラ。

 23歳であり、見かけ通りに騎士のようなクソ真面目である。ただ、あくまで騎士っぽいだけ。

 元々は名の知れた騎士団の一員だったという話だが、色々あってこの国のギルドに流れ着いてきたとの事だ。あくまで自己申告。

 ただ、腕だけは本物だったため、めきめきとランクを上げ、今は立派なBランク冒険者でもある。

 一応言っておくと、胸はない。


 最後に、我儘なお嬢様の名前はルーティ。

 先に説明した通り、領主の令嬢である。尤も、実は彼女にも冒険者の資格があったりする。ランクは最底辺ではあるのだが。

 念のため言っておくと、胸は年齢的に人並み。


 なんでまた、こんな特に中も良くなさそうな三人が集まって話をしているかと言えば、とある人物を待っているためだ。


 だが、先にランファが言った通り、その人物は既定の時間があるとすれば、その時間ギリギリにならなければ現れないため、三人は特に実の無い話を20分ほど続ける結果となった。

 やがて時が過ぎ、ギルドの扉がギィィと開く。

 すると、軽いざわめきが生まれ、三人は待望の人物が遂に現れたことに気付く。


「おや、レディを三人も待たせる結果となってしまいましたか。これは申し訳ありませんでした」



 ギルドに入るなり、彼は内部の様子を確認し、受付の端っこで固まっている三人を見つけると、深々と頭を下げた。


 現れた者は、きちんと整えられた短い黒髪、赤を基調とした外套コートを着込んだ長身の男だった。

 それだけならば、目立つが冒険者としてはさほど珍しくない立ち姿と言えよう。


 だが、男の顔には、その存在をより際立たせる……初めて遭遇するものならばほとんどの者が言葉を失ってしまう代物が取り付けられていた。


 男の顔を覆っていたのは、仮面であった。




仮面……頭からすっぽり被るタイプではなく、主に目元だけ隠すようなものです。髪の毛と口元は露出しています。

それにしても主人公の名前が出ないまま一話が終わってしまった……。

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