15-3
イオの元を離れ、ルイを先頭に来た道を戻った。
ルイとルカ、その後ろに亜莉香とトシヤが歩いて、日本庭園から石段を下り、灯籠で照らされた廊下を歩きながらルイは言う。
「ごめんね、アリカさん。前にも紋章が見えていたけど、その時は話さなくて」
「いえ、謝られることではないです」
「なんで、黙っていたんだよ」
イオの前では極力話さなかったトシヤに言われ、ルイは答える。
「確信がなかったから、と。僕の力では、どうしようもなかったからかな。封印されているものを無理やり解けば、その反動でアリカさんに危険が及ぶかもしれない。何も知らないなら、そのままの方が安全だと思った」
「私の封印を解く方法は、ないのですか?」
「今のところはないに等しい。封印した本人がいれば、簡単に解くことも出来ると思うけど、それが誰なのか分からないことには、話にならないからね」
難しいね、と言ったルイは前を歩いて、表情が見えない。
話が途切れて、トシヤが気になっていたことを尋ねる。
「俺の魔力は、探る必要あったのか?」
「イオが見たかった、という大きな理由があったでしょう?それに、滅多にいないけど、時々魔力が変わる人もいるから、見て分かる人に見てもらうのはいいことだよ」
くるりと半回転して言ったルイは、にっこりと笑っていた。
納得していないトシヤが言い返す前に、ルカが呆れた声で言う。
「ルイもイオも、一度言い出したら人の話を聞かないよな」
「えー、そんなこともないよ。それなりに、人の話を聞いているつもりだよ」
あはは、と笑うルイの声が、廊下によく響いた。
「折角だから、護人の話でもしようか?」
「俺はどっちでもいいけど」
けど、と言ったトシヤが亜莉香を横目で盗み見た。その視線に気付かず亜莉香は言う。
「私は聞きたいです」
「そうだと思った。何が聞きたいの?」
「えっと…その、護人は結局、いい人ですか?悪い人ですか?」
国を護る人なのか、逆賊と呼ばれる人なのか。白黒はっきりさせたくて言えば、ルイは軽い口調で言う。
「分かんない」
「…え?」
「国を護る、正義の味方かもしれないし。本当に宝石を盗んだ逆賊かもしれない。僕は会ったことがないからね。本人を前にしないと、どっちなのかは判断出来ないけど」
間を置いて、口調が優しくなる。
「僕は悪い人ではないと思っているよ。国を護ると誓った人達で、今も護り続けている、と言われているぐらいだし。逆賊の話はあるけど、今の王様のところには宝石が埋め込まれた王冠があって、盗まれていなかったか偽物なのか、はっきりしない。何より――」
と言ったルイが、前を向いてルカに笑いかける。
「緋の護人は、ルカのお母さんの親友だった人だよね」
「…まあ」
肯定したルカの声は素っ気ない。
これ以上余計なことを言うな、と言わんばかりの表情でルイを睨むが、ルイは気にせず歩き続ける。驚いた亜莉香は、イオの話を思い出しながら疑問をぶつける。
「実在する人、ということですか?」
「そうだよ」
「てっきり、どこにいるのか分からない。正体不明の人達なのかと…?」
「さっきルイの妹は、姿形を変えて今もどこかで護り続けている人とか何とか、言ってなかったか?」
あれ、と話に加わったトシヤが首を傾げれば、ルイは頷いた。
「何度も生まれ変わっているから、その度に姿形が変わるんだって。二十年前にも僕の一族と接触していたことは確かな事実。その後の消息が掴めず、僕とルカは探している最中だけど、今のどこかで生きていると思うよ」
「…折角隠していたこと、何で全部言う」
小さな声で不満を述べたルカに、ルイはあっけらかんと言う。
「イオが護人の話をしたから隠さなくてもいいかな、て。協力者を得た方が、探しやすいでしょう?」
「そうだけど…そうじゃない!」
「もう、いいじゃん。どうせ護人のことも、魔力のこともイオが話した。何が問題なの?問題ないよね?」
「俺が言いたいのはそういうことじゃなくて――」
あーでもない、こうでもない、とルカとルイの言い合う声が、静かだったはずの廊下に響く。話を聞き流すことにしたのは亜莉香だけでなく、隣にいたトシヤも同じだった。




