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Last Crown  作者: 香山 結月
第1章 月明かりと牡丹
67/507

15-3

 イオの元を離れ、ルイを先頭に来た道を戻った。

 ルイとルカ、その後ろに亜莉香とトシヤが歩いて、日本庭園から石段を下り、灯籠で照らされた廊下を歩きながらルイは言う。


「ごめんね、アリカさん。前にも紋章が見えていたけど、その時は話さなくて」

「いえ、謝られることではないです」

「なんで、黙っていたんだよ」


 イオの前では極力話さなかったトシヤに言われ、ルイは答える。


「確信がなかったから、と。僕の力では、どうしようもなかったからかな。封印されているものを無理やり解けば、その反動でアリカさんに危険が及ぶかもしれない。何も知らないなら、そのままの方が安全だと思った」

「私の封印を解く方法は、ないのですか?」

「今のところはないに等しい。封印した本人がいれば、簡単に解くことも出来ると思うけど、それが誰なのか分からないことには、話にならないからね」


 難しいね、と言ったルイは前を歩いて、表情が見えない。

 話が途切れて、トシヤが気になっていたことを尋ねる。


「俺の魔力は、探る必要あったのか?」

「イオが見たかった、という大きな理由があったでしょう?それに、滅多にいないけど、時々魔力が変わる人もいるから、見て分かる人に見てもらうのはいいことだよ」


 くるりと半回転して言ったルイは、にっこりと笑っていた。

 納得していないトシヤが言い返す前に、ルカが呆れた声で言う。


「ルイもイオも、一度言い出したら人の話を聞かないよな」

「えー、そんなこともないよ。それなりに、人の話を聞いているつもりだよ」


 あはは、と笑うルイの声が、廊下によく響いた。


「折角だから、護人の話でもしようか?」

「俺はどっちでもいいけど」


 けど、と言ったトシヤが亜莉香を横目で盗み見た。その視線に気付かず亜莉香は言う。


「私は聞きたいです」

「そうだと思った。何が聞きたいの?」

「えっと…その、護人は結局、いい人ですか?悪い人ですか?」


 国を護る人なのか、逆賊と呼ばれる人なのか。白黒はっきりさせたくて言えば、ルイは軽い口調で言う。


「分かんない」

「…え?」

「国を護る、正義の味方かもしれないし。本当に宝石を盗んだ逆賊かもしれない。僕は会ったことがないからね。本人を前にしないと、どっちなのかは判断出来ないけど」


 間を置いて、口調が優しくなる。


「僕は悪い人ではないと思っているよ。国を護ると誓った人達で、今も護り続けている、と言われているぐらいだし。逆賊の話はあるけど、今の王様のところには宝石が埋め込まれた王冠があって、盗まれていなかったか偽物なのか、はっきりしない。何より――」


 と言ったルイが、前を向いてルカに笑いかける。


「緋の護人は、ルカのお母さんの親友だった人だよね」

「…まあ」


 肯定したルカの声は素っ気ない。

 これ以上余計なことを言うな、と言わんばかりの表情でルイを睨むが、ルイは気にせず歩き続ける。驚いた亜莉香は、イオの話を思い出しながら疑問をぶつける。


「実在する人、ということですか?」

「そうだよ」

「てっきり、どこにいるのか分からない。正体不明の人達なのかと…?」

「さっきルイの妹は、姿形を変えて今もどこかで護り続けている人とか何とか、言ってなかったか?」


 あれ、と話に加わったトシヤが首を傾げれば、ルイは頷いた。


「何度も生まれ変わっているから、その度に姿形が変わるんだって。二十年前にも僕の一族と接触していたことは確かな事実。その後の消息が掴めず、僕とルカは探している最中だけど、今のどこかで生きていると思うよ」

「…折角隠していたこと、何で全部言う」


 小さな声で不満を述べたルカに、ルイはあっけらかんと言う。


「イオが護人の話をしたから隠さなくてもいいかな、て。協力者を得た方が、探しやすいでしょう?」

「そうだけど…そうじゃない!」

「もう、いいじゃん。どうせ護人のことも、魔力のこともイオが話した。何が問題なの?問題ないよね?」

「俺が言いたいのはそういうことじゃなくて――」


 あーでもない、こうでもない、とルカとルイの言い合う声が、静かだったはずの廊下に響く。話を聞き流すことにしたのは亜莉香だけでなく、隣にいたトシヤも同じだった。

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