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Last Crown  作者: 香山 結月
最終章 街明かりと椿
504/507

101-1 後日譚

 帰ってきた、と実感した。


 如雨露を片手に立ち上がると、温かな日差しが亜莉香を照らす。少し眩しい太陽の温かさを片手で遮り、空を仰ぐと真っ青な空。優しい風が気持ちよい。水やりしたばかりの花々が水滴を輝かせながら咲き誇り、伸びた雑草は見当たらない。


「帰って来ましたね」

「いや、現実逃避の最中だろうが」


 後ろで腕を組んで立っていたピヴワヌに言われ、肩が上がって動きが止まる。

 突き付けられた現実を見たくない。今は家に帰って、あまり荒れていなくて安心した庭の花々だけを見ていたい。

 そんな亜莉香の心情を分かっているのに、ため息一つが聞こえた。


「昼過ぎまで寝坊した挙句、外に出るかと思えば草むしり。お主がそれで良いなら良いが…先延ばしにして、今日は一歩も外に出ない気か?」


 ゆっくりと振り返り、怒っているのか、呆れているのか判断の付かない表情を亜莉香は瞳に映した。だって、と如雨露を両手で持ち、いじけるように言い返す。


「寝坊して起きたら、誰もいないとは思わなかったのですもの」

「お主が疲れていたから起こさなかっただけだろう。そこで怒るな」

「怒っているわけじゃ…」


 ない、と続いた言葉は小さい。


 視線を下げ、昨日のことを思い出す。

 夕方、急ぎガランスに帰れたのは嬉しかった。帰りたかった場所に、会いたかった友人に会えたことは嬉しい以外の言葉で言い表せない。


 ただ、その後が大変だった。

 ユシアに届いていた、と思っていた手紙は届いてなかった。抱きしめ大泣きされ、その場にいるとは思わなかったシンヤには絡まれ、ルイやトウゴも混ざって騒ぎが大きくなると、何が何だか分からない状況で立ち尽くすしかなかった。

 ひとまず家に帰ろうと口に出した頃には、どっぷりと日が暮れていた。家に帰るなり安堵と睡魔が押し寄せ、部屋に直行で即就寝。


 とてもよく寝た。王都でコライユ家当主であるマサキの手伝いをする日々なんて、遠い昔のようである。


「私達が急にいなくなって、マサキさんは大丈夫でしょうか」

「あいつのことなど知るか。そもそも自分の仕事をこちらに回したのが悪い」

「そもそもマサキさんの仕事が増えたのは、私達に責任の一部がありますよ?」


 分かっていますよね、と振り返ると目を逸らされた。

 あからさますぎて、思わず笑みが零れてしまう。

 休憩がてら如雨露を置いて、ピヴワヌの近くに腰を下ろすことにした。茶の間の庭へと通じる境に座る。ピヴワヌは立ったまま、二人して庭を眺めた。

 穏やかな時間が流れ、そっと口を開いたのはピヴワヌだ。


「まさか…あの男が女王に気に入られるとは思ってなかったな」

「そうですね。ですが、あの日のあの夜に、誰よりも女王の身を案じて行動したのはマサキさんです。最初から最後まで」


 どちらかともなく口を閉ざす。

 瞼の裏に焼き付いているのは、とても儚く美しい夜空。


 全てが終わり、最初に訪れたのは静寂だった。

 空に浮かんだ紋章が消えた。光も闇も、全てが在るべき場所へ帰った。王都にいた精霊達は目を覚まし、亜莉香の中に在った王冠の力の大半は消えてしまった。


 ただ、残ったものもある。

 王冠を失っても精霊達との繋がりは切れなかった。ピヴワヌとは契約したまま、他の精霊の姿だって見える。王冠が無くなったからと言って変わりはなく、精霊に力を貸してもらえば簡単な魔法を使える。

 灯の武器だった薙刀は、今でも願えば手の中に現れた。

 他の武器は駄目だった。透の持つ日本刀や奏が持っていた扇は、どれだけ願っても現れない。灯の魔力だけは亜莉香の身に宿ったままで、他の魔力は持ち主や土地に帰った。

 そう解釈して、残った力を意識する。


 灯の記憶は、日が経つにつれ薄れていくようだ。ふとした瞬間の懐かしい記憶が零れ落ち、いつかすべて忘れてしまうかもしれない。


 それでいい、と思えるから心は穏やかだ。

 もしかしたら今後、戦い方も忘れるかもしれない。そうだとしても何一つ問題などない。練習を繰り返して、また身体で覚えれば良い話。

 千年前の灯が大切な人達を守りたくて必死に強くなったように。

 亜莉香もまた、強く願って武器を振るう。

 幸いなことに、それは当分先のこと。戦うべき相手もいなければ、灯の記憶が一気に消え去ってしまう気配もない。一生を終えるまで、何もなければ最良だ。


「儂らがお主に駆け寄っても、あの男は女王の元にいたな」

「はい。まあ、少々忘れられてもいましたが」


 あの日の夜の続き、王冠の役目を終えた亜莉香の元に駆け寄った人達はいた。

 喧嘩しながらも、瞬く間に現れたピヴワヌとネモフィル。安堵の表情を浮かべた、ルカとルイ。塔の最上階に居た人達の無事を確認する前に、マサキの存在を思い出せたのは幸か不幸か。

 最上階に向かう前に寄ったら、凄い勢いで何があったか詰め寄られた。

 その部屋には病弱ながら目を覚ました女王と王子がいて、陸斗の姿はなかった。

 説明を求められ、口が達者なルイとネモフィル、ついでにピヴワヌが加勢して女王に話をしたのは驚きだ。亜莉香やトシヤなどを部屋の外に置き、話はどんどん膨らむ。


 各地の領主様の憂いを聞き、コライユ家の当主様が独断で行ったものだとでっち上げた。嘘ばかりの話にマサキは絶句していたが、その話の中で、亜莉香はコライユ家の当主に頼まれ行動したうちの一人。名乗るほどでもなく、コライユ家と少々縁のある者。当主以外、女王を含む王都を救うために動き、結果として成果を上げた者。

 無礼を働いたことは承知の上と謝り、処罰は受ける、とまで言った。

 どうか当主様は見逃して欲しいと、大した演技に透だけが拍手を送っていた。

 罰せられることはないだろう、と見込んでの発言だったと今でも思う。

 もしも本当に罰せられたら、最も被害を受けたのはマサキになるように仕向けていたのを知っている。最初にマサキ以外名乗る者ではないと宣言して、あくまでマサキの指示による行動だとも強調していた。

 結果として、繋ぎ合わせた話と王子の助言があり、女王はその説明で納得した様子だった。マサキが否定する暇は与えられず、罰がなかったことには安心した。寧ろ礼と褒美を与えられると言われた本人は、後日頭を抱えていた。


 マサキが女王と共にいると判断された瞬間、ルイを筆頭にマサキを犠牲にする選択が生まれたのだろう。おかげで亜莉香は特に目立たず、女王とも王子とも、その後に面会することはなかった。

 同情する気持ちこそあれ、マサキを想うと亜莉香は笑ってしまう。


「マサキさん。最初こそ怒っていましたが、もう途中から呆れていましたね」

「儂らが裏で領主に話を合わせるように頼んだからな」


 女王に語った話の半分以上は嘘でも、領主がコライユ家の当主に憂いを嘆いていたのは事実にした。紙鳥及び水鏡を通し、ガランスの領主にはピヴワヌとルイが、セレストの領主には透とネモフィルが連絡を取った。各地の代表者が動き出せば、そこからは王都にいる貴族も巻き込む。

 一部の貴族、女王を脅かしていた者達は即座に地位を奪われた。

 コライユ家含む領主と強い関わりのあった貴族は、女王を支えるべく城を駆け回る羽目となる。女王の信頼を確実に得ていたマサキだったが、元々放っておけない性格もあり、城の大掃除まで手を出していたのは、使用人達の株を上げる功績として大きかった。

 箒やら大きな布にまで魔法をかけ、勝手に掃除をするように命じて大人気。

 怖がられるより頼られ、遠目から見た光景ながら亜莉香の口角は上がっていた。


 その頃の亜莉香が何をしていたかと言えば、城の外壁を歩くふりして精霊の姿を探していた。城の中に入ってしまえば、案外洗濯物一つでも持って歩いても怪しまれない。歩きながら魔法の練習を兼ねて外壁を修復し、庭園の花々を咲かせ、迷う貴族の道案内なんかをしたこともある。

 何故か名前を聞かれる度に洗濯物が飛んでいき、その場を退散するしかなかったのは誰の仕業か。聞いたことはないが、常に傍には普通の人に認識されない誰かが居た。

 それは肩に乗る兎だったり、ペンギンだったり。

 姿が見えないのをいいことに、好き勝手言って亜莉香を笑わせてくれた。


「終わり良ければ総てよし、としておけ」

「なるほど。それは言えています。その終わりを平気で壊しそうな鴉二羽は、今頃どうしているのでしょうか?ネモフィルのことは心配ないと思うのですが」

「考えるな。どうせろくでもないことしか興味のない奴らだ。まだ王都にいて貴族のろくでなしの金を巻き上げているか、盗んでいるか。ウイが居酒屋を梯子しているか、サイが女に声をかけて遊んでいるか」


 一言も告げずに亜莉香がいなくなっても、簡単に想像出来る二人の姿。

 ピヴワヌの言葉で、より鮮明に思い描けた。


「あの二人は、お城の中より外が好きでしたね」

「羽目を外して、そのうちシノープルに帰るだろ。奴らの逃げ足は速い」

「確かに」


 因みに城の最上階に居た者達でもあったが、亜莉香達がマサキの元に向かったと悟るや、脱兎のごとく城外に逃げ出したらしい。絶対に巻き込まれたら面倒だと、トウゴとフルーヴ、クマのぬいぐるみも一緒に逃亡した。

 その時、城の結界を破るのに、トウゴは少々無理をしたようだ。

 その件に関して無理をさせてしまったウイとサイは、反省こそすれ、次の日には開き直ってお見舞い。コライユ家の客間を陣取り、どこからともなく食べ物や飲み物を持って来て、甲斐甲斐しい世話は睡眠の邪魔でもあったとトウゴは語った。


 皆さん楽しそうでした、とも言っていたのはコライユ家の使用人達である。

 主に三人で、と付け加えられたのでフルーヴの姿を探すと、時間を見つけては王都の中を歩き回っていたと亜莉香に教えてくれた。クマのぬいぐるみと二人で、城を出た途端に姿を消したヒナを探して歩き、見つからなかったことにしょんぼりと落ち込んでいた。

 消息不明と言われても、亜莉香は心配していない。

 行き先に心当たりがある。

 その場所に行くかどうかは別として、トウゴの様子を探りに来るかもしれない。案外心配性だから、遠くから様子を見に来れば、フルーヴなら見つけられると言っておいた。それに主になっているのだから、亜莉香とヒナの間で今生の別れなんて縁遠い。またどこかで、出逢って笑いあいたい。

 いつかを夢見て空を見上げていると、ピヴワヌも空を見上げていた。


「腹が減ったな」

「そうですか?」

「お主は昨晩即寝てしまったが、帰って来たばかりの家には食べるものが無かったのだ。かき集めたところで儂の取り分が少なくて、今日こそ腹いっぱいに食おうにも食材がない。つまり外に出て、買い物をしなければいけないと言うわけだ」

「話が戻りましたね」


 亜莉香を見ずに話したピヴワヌの腹が鳴った。

 家でじっとしていても、食べ物は降って来ない。買いに行くか、と重たい腰を上げるしかないと嫌でも思い知らされた。

 さて、と立ち上がって亜莉香は問う。


「皆さん、どこに行ったのでしたっけ?」

「ユシアはいつも通りに仕事だな。トシヤとトウゴは職場に顔を出してくると言っていた。ルカとルイは朝早く温泉街に向けて発ち、本来手紙で伝えたかった事柄を一から説明してくる、とのことだ。夕飯までには戻るとも言っていた。フルーヴの行き先は知らん」

「全員分、作って帰りを待ちますか」


 何を作ろうかな、と呟くと、横目でピヴワヌが亜莉香の顔色を伺った。


「お主は――」

「何です?」

「その、街の連中に顔を見せんのか?」


 聞くかどうか迷って、遠慮がちの声だった。

 きょとんとした顔をしたのち、一歩踏み出す。


「行かないと、とも思うのですが。何も言わずに街を出ましたから、少しだけ時間が欲しいのです。会いに行く勇気を、手に入れるための時間を」

「何も言えなかったのは、お主のせいじゃないぞ」


 分かっています、と口では言えた。

 分かっていても、心と身体は動かない。とても不誠実なことをした自覚がある。仕事を頼まれた身として、無断で休みたくなかった。心配をかけたくなかった。

仕方がないことだと、謝罪して許してもらおうなんて図々しくないか。

 亜莉香が居なくなったところで困っていなければ、戻る必要もないのではない。

 不安が芽生えては増え、悪い方向に思考が偏りがちになる。挨拶だけは絶対にしなければ、と意気込むと、頭に何かが被さった。


「え?」

「ここから先は、儂の管轄外になるな」


 しみじみと言ったピヴワヌが投げて寄越したのは、亜莉香のお気に入りの肩掛け。トシヤが買ってくれて、部屋に置いてあった品物。今の時期なら若干暑い。


「どういう、意味です?」

「そのままの意味だ」


 肩掛けを頭に被ったまま、亜莉香は首を傾げた。

 玄関から、トシヤが帰ってきた声が聞こえて追及を後にする。ただいま、と声が聞こえただけで頬が緩むのを感じた。おかえりなさい、と返した声は若干明るい。

 急いで部屋に上がり、出迎えようとする亜莉香にピヴワヌは呆れた。

 それを無視して扉を開けるより先に、茶の間の扉が開いた。

 ぶつからないようにお互い足を止め、トシヤは笑みを零す。


「起きたな」

「はい…寝坊して、すいません」


 あまりにも優しい笑みに、恥ずかしくなって謝った。よく考えなくても、寝坊したのは亜莉香一人。他の人達は以前と同じ生活時間に戻れているのに、と落ち込んでしまう。

 そっと頭を撫でられ、下がった視線を上げた。

 何も言わずとも、トシヤに見つめられると心臓が五月蠅くなる。


「えっと…トシヤさんは職場に行って来たのですよね?どう、でした?」


 大丈夫だったのか。遠回しの言い方に、トシヤは軽く答えた。


「今日からでも働けと五月蠅かったな」

「…え?」

「冬の間は人数少なくても回せたけど、圧倒的に人手が少ない仕事だから。戻ってきたなら一日でも早く復帰しろとか、もっと早く帰って来いとか。同期にも先輩にも泣きつかれた。けど、あと一週間は仕事に出ないと啖呵を切って来た」


 しつこかった、と締め括った言葉が予想外過ぎた。

 それはどんな状況だろう。ぽかんと間抜けな表情の亜莉香に、トシヤの方が不思議そうな顔を浮かべる。それは、と何か言おうとして喉に詰まる。


「大変でしたね?」

「少し、な。アリカも気を付けろよ」


 何を、と言いそうになってしまった。

 気を付けることなどないのに、トシヤは真剣でもある。曖昧に頷くと、一部始終を見ていたピヴワヌが傍に来た。亜莉香の隣に並んで、小僧、と声をかける。


「後は任せたぞ」

「分かった。シンヤの所に行くなら、例の件を断っといてくれ」


 面倒くさい、と書いてある顔だったが、亜莉香と目が合うと渋々頷いた。

 何の話なのか。疑問しかない亜莉香を置いて、じゃあな、と言い残したピヴワヌは一足先に部屋を出て行く。いってらっしゃい、と見送った。


「例の件、とは?」


 どうしても気になったので、亜莉香は訊ねた。トシヤは平然と言う。


「シンヤに警備隊に入らないかと誘われた件。一応、アリカを探しに行く前に、職場には辞めると言ってガランスを出たからさ。今日顔を出したら復帰が決定事項になったけど」


 それは初耳だ。そして大事になっていた事実に今更気付く。


「お仕事、辞めていたのですか?」

「まあな。いつ戻って来るかは分からなかったし、戻って来ても今まで通りになるかは未定だったし」


 少々歯切れが悪くなり、トシヤは亜莉香から目を背けた。

 何か言いにくそうな空気を読むが、思わずトシヤの着物を掴んでいた。亜莉香が急にいなくなったばかりに、かけた迷惑は数えきれないくらいある。

 今度はトシヤではなく、亜莉香が視線を逸らす。


「私のせいで、ごめんなさい」


 本当にごめんなさいと謝る度に、罪悪感が湧いた。

 トシヤだけじゃない。他の人達にも、沢山の迷惑をかけた。亜莉香の知らない所で、直接とは言えないけど関係しているところで。

 だから帰って来ても、家から出るのが怖かった。

 昔のように、周りの人に必要とされなくなることが怖い。迷惑をかけて、要らないと言われるのではないかと、心のどこかに不安がある。

 踏み出したトシヤが亜莉香の腕を引いた途端、思考は止まった。

 驚いた声は抱きしめられたせいで小さくなった。


「謝らなくていいから」


 耳元で聞こえるのに、トシヤの顔は見えない。


「俺が後悔しないように選んだ結果だから。一時的とは言え仕事を辞めたことも、シンヤに警備隊に誘われた件も。その――」


 続きが出て来ない。

 そっとトシヤの顔を伺うと、明後日の方角を向いていた。亜莉香を抱きしめる腕の力は少しだけ弱まって、珍しく耳が赤い様子に瞬きを繰り返す。


「…その?」

「その…もしもアリカを取り戻せても、また危険な目に遭うなら。警備隊の立場を使って、二人で上手く逃げ切れとシンヤに言われた」


 身分証としては申し分ないから、と付け加えた言葉を理解するのに時間がかかった。シンヤが何をさせようとしたのか、予想を確信に変えていく。


「二人で?」

「まあ、実際は絶対にピヴワヌとか他の連中とか付いて来るけど。何の後ろ盾もないより、警備隊の肩書があった方がどこでも通用するだろうと。いざとなったら、シンヤの名前も使えばいいとか。好き勝手に逃亡生活のあらすじを考えていたな」


 他に何を言っていたか、思い出そうとするトシヤの表情から恥ずかしさが消えていた。自由気ままで手に負えないシンヤのことを考え、呆れているとも言える顔を見つめる。


 この人は、亜莉香がどこにいても探し出してくれた。

 ずっと傍に居てくれる。危険から遠ざけようと守ろうとしてくれる。一人にしないと、逃げ出すことになっても一緒に居てくれると言ってくれた。

 凄く嬉しい。

 嬉しくて、好きだと言う気持ちが溢れて困る。

 言葉にしない代わりに顔を埋めてトシヤに抱きついた。一瞬の緊張が伝わったが、優しく、腰と背中に回っていた腕に力が込められる。


「あと十秒」

「はい」


 結局、お互いに身を引いたのは十秒以上経ってからだった。

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