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Last Crown  作者: 香山 結月
第5章 花明かりと薔薇
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78-4

 慌てて止めに入ろうとした亜莉香の対応は、少し遅かったようだ。

 見事な平手打ちをくらったピヴワヌは頬を押さえ、限界まで頬を膨らませたネモフィルは亜莉香とウイの元までやって来た。まだ怒りは収まっていないようだけど、最初に部屋に入って来た時より落ち着いている。

 それで、と右手で髪を靡かせたネモフィルは言った。


「いつまで、貴女達は座っているつもり?」


 そろそろ正座を崩したくなった頃だ。

 颯爽と立ち上がったウイは勢いをつけ、ネモフィルの腰に抱きつく。


「ネモちゃんの機嫌が直るまで!」

「…怒ってないわよ」

「そうだよねー。ネモちゃんが私に怒る理由はないよね?」


 ネモフィルが言い返せないのを知っているからこその言葉だ。

 二人が並ぶと、ネモフィルの方が背は高い。そこまで身長差はないが、ネモフィルは美女、ウイは美少女の分類。系統の違う美形を眺め、亜莉香は座ったまま訊ねる。


「ネモフィルは、どうしてここに?」

「透がシノープルにいたの。アリカが領主の家に来ることはサイから聞いて、至る所に水の精霊を配置した。水鏡で見つけ次第、私だけ直行したわ」

「透を置いて?」

「透を置いて。だって、私一人の方が早いのよ」


 僅かな顔の変化を見逃さなかった。

 頬が赤くなったようにも見えてしまうと、本当は透も一緒に来る予定だったのかもしれない。ウイがピヴワヌと仲良くなる前に邪魔しようと、透を置いて現れる程の好意なら、亜莉香が言うことは何もない。

 そうですか、と微笑みながら、素直な感想を述べる。


「ネモフィルと、こんな所で会えると思いませんでした」

「それは私の台詞よ。スクレ・シュクセスから出ていたのなら、私が迎えに行ったのに」


 いじけたネモフィルは、ウイをはがさずに言った。


「ネモちゃんの代わりに、私がアーちゃんを迎えに行ったと思えばいいよ。ちゃんとサイから、私はアーちゃんを守ったもの!」

「ああ。そっちでも問題児は、ちょっかいを出したのね」


 胸を張ったウイに、ネモフィルは呆れた顔をした。

 そっちでもの言葉に、亜莉香は質問をぶつける。


「サイさんに、何かされましたか?」

「ちょっと、ね。だから次に会った時は容赦しないの」


 うふふ、とネモフィルが空いていた片手で口元を隠した。それ以上は聞かない方が賢明だと悟る。それはウイも同じで、抱きつかず腕を組むことに変え、少し距離を取る。例えネモフィルを怒らせて逃げられる手段があったとしても、怒らせたくない相手。

 棚を背後にもたれかかったピヴワヌを目視して、質問を重ねた。


「透は、今どこに?」

「こっちに向かっている途中だと思うわ。私がいたのは、ツユの為に用意された屋敷の一室。下手に動くより、姿を見つけてから動いた方が早いと思ったの」

「宝探しをやめて、そっちに行くか?」


 亜莉香に訊ねたピヴワヌに、ウイが不満そうに口を尖らせる。


「透ちゃんが来るまで宝探しをしようよ。一つくらい宝を見つけたい」

「それに私達を巻き込まないで。凬の護人本人が探せばいい話じゃない」

「それが出来ん理由があるのだろう。儂は知らんが」


 ウイを擁護する発言に、ネモフィルは睨みつけた。

 睨まれても気にしないピヴワヌが亜莉香を見て、ふっと笑みを零す。


「まあ、儂はどこでも良い。主に付いて行くのみだ」

「えー、私はネモちゃんも一緒に宝探しがしたい。舞踏会で女にしか声をかけないサイを追い抜きたい。四人もいれば、すぐに見つかるかもしれないじゃないでしょ」

「あの問題児、どこにいても女に声をかけるわね。懲りないの?」


 懲りない、と即答したピヴワヌとウイの声が重なった。

 本人がいないからこそ、サイの話は尽きない。今頃舞踏会の会場で、どこかのご令嬢に声をかけているかも。または優雅に踊っているかもしれなくて、そんなことをしていて宝を見つけられるのか。


 今のところウイは手持ちがなく、ネモフィルも勿論ない。

 ピヴワヌが袖に隠した本は探していたものでもない。

 一つくらい見つけたい気持ちと、透に会いたい気持ちで悩む。自然と眉間に皺を寄せ、悩む亜莉香を放って三人の話が逸れていった。


 どうしようか考えているうちに、視線は目の前に置いていた絵画で止まる。

 銀世界に、黄金の光が滲んだ。


 腰を上げて絵画を覗き込め、まじまじと見つめる。

 木々に降り積もる雪も、薄い雲に覆われた空も変わらない。それなのに足跡のない地面に一粒の黄金の光が滲んで浮かび、その形が数ミリから数センチに変わっていく。


 最初に見た時は、黄金の光に気付かなかった。

 目が離せなくなって、光は扉に姿を変える。


 重そうで固そうな扉。沢山の花々が彫られ、鳥が飛び交い、魚が跳ねる。まるで絵画のような扉は闇から抜け出した時の扉で、見覚えのあった景色は隠れ里で最初に足を踏み入れた場所だ。

 絵画の中の風景を、亜莉香は思い出した。

 両手で絵画を持ち上げようとすれば、亜莉香の動きに気付いたウイが声をかける。


「アーちゃん?」

「これ…多分、力宿るものですよ」


 床から持ち上げる前に顔を上げ、亜莉香は言った。


「何々?どうして、そう思うの?」


 興味を持ったウイが、絵画を挟んで反対側に座った。ネモフィルはウイの背後から絵画を覗き、ピヴワヌまで傍にやって来る。

 持ち上げるのをやめた亜莉香は座り直し、誰もが絵画を見えるように向きを変えた。ピヴワヌとネモフィルは静かに鑑賞し出したのに対し、ウイの反応だけが違った。

 表情は強張り、現れた扉に目が釘付けになる。亜莉香が説明しなくても、その扉が何で、映っている景色がどこか知っているような雰囲気。

 それを裏付けるように、ウイの口から言葉が零れ落ちる。


「…隠れ里の裏口?」


 独り言は、あまりにも小さかった。

 ピヴワヌの制止を無視して、ウイが扉に触れる。

 絵画の中の扉は奥へと開いて、黄金の光が溢れた。あまりの眩しさに目を閉じようとした亜莉香に、ピヴワヌが手を伸ばす。腕を掴まれ引き寄せられたのは分かったが、途中で視界は眩い黄金の光に奪われた。

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