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Last Crown  作者: 香山 結月
第5章 花明かりと薔薇
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75-5

 手を繋いだ木蓮と葛と一緒に、亜莉香も歓喜の声を上げた。

 街の至る所にある花々と草木、建物よりも植物が目立つ街並みに、溶け込むように沢山の風船が飾られている。風船の色も街を鮮やかにして、暖かな春の風で揺れる。街を行き交う人達は皆笑顔で、人気のなかった路地を出た途端に足が止まってしまった。


「凄い!人がいっぱい!花が咲いている!」

「綺麗だ」


 今にも駆け出しそうな木蓮を抑えて、葛が呟いた。

 はしゃぐ二人の頭には、それぞれ橙色と深い紫色の無地の着物を被せてある。

それは亜莉香も同じで、頭に被っているのは深い緑色の着物だ。黄色の小花が散らばった着物で、髪を隠して周囲に溶け込む。


「ねえ、早く行きましょう!」


 瞳を輝かせた木蓮が振り返って言った。亜莉香が答える前に、唯一髪の色を変え、着物を被ってないピヴワヌは即座に言い返す。


「阿呆。先に医者に行くぞ」

「えー」

「小娘を持ったまま、街など散策出来るか。目立たない為に、儂が着物を調達したのを無駄にするつもりか?」


 路地の壁に背中を預けるピヴワヌの隣に、目を覚まさないヒナがいた。光の当たらない位置で、影に隠されている。座ったままの状態のヒナを、連れて来たのはピヴワヌだ。

 亜莉香と木蓮、葛が隙間を抜けた先は、誰もいない路地の行き止まりだった。すぐにピヴワヌを呼べば、ヒナを連れて問題なく現れた。それから移動しようとした所、格好を指摘され、髪の色を明るい赤に変えたピヴワヌが一人で着物を調達して、ようやく街へ繰り出そうとしたのが現状。


 ピヴワヌを待っている間から、待ちきれない木蓮は今にも走り出しそうだった。

 黄瀬に精霊であるピヴワヌの言うことを聞くよう、釘を刺されていなかったら、すぐにでも街に駆け出して亜莉香は見失ってしまったに違いない。

 待ちきれない木蓮の気持ちは、よく分かる。

 ガランスとは違う街が、人が楽しそうで、幸せに包まれている。亜莉香だって街に繰り出し、色んな店を見て回りたい。美味しいものを食べて、美しい光景を目に焼き付けたい。

 思わず頬が緩んだ亜莉香は、それじゃあ、とまとめるように言った。


「早く、お医者さんを見つけましょうか」

「そうだな。小娘がいなくなれば、餓鬼共の面倒だけで済む」

「餓鬼じゃなくて、木蓮!名前で呼んでよ、ピヴワヌ様!」

「ええい!邪魔をするな」


 ヒナを抱えようとしたピヴワヌに、笑いながら木蓮がしがみつく。鎌って欲しくて仕方がないのはピヴワヌに対してだけで、亜莉香に対しては違う。あまり興味が無くなったようで、話しかけられることは少なくなった。

 仲良くなれたら嬉しいなと見守れば、葛が遠慮がちに亜莉香の着物を引っ張った。


「お姉さん、もし僕達が迷惑だったら言ってね」

「え?」

「僕達は、普通とは違います。長老が僕達だけで行かせたくなかったのは、外が危険だからです。僕達の力が、精霊の血を持つ僕達を狙う奴らがいるから、子供だけでは外に出ては駄目だと言われていました」


 途中で腰を落として葛の話に耳を傾けた。聡い葛は視線を下げ、言葉を続ける。


「もし僕達に目を付ける人がいたら、お姉さんも危険に遭うかもしれません。そうなったら、兄貴に合わせる顔が無くなります」

「葛くんは、黄瀬のことを尊敬しているのですね」


 初めて名前を呼んでみると、少し恥ずかしそうに顔を伏せられた。見つめていると顔を上げてくれなさそうなので、亜莉香は他の二人に目を向ける。

 木蓮がピヴワヌの背中に上ろうとする。子供相手でも容赦ないピヴワヌに、振り落とされても木蓮は笑っていた。


「大丈夫ですよ。ピヴワヌは強いですから、私も葛くんも、勿論木蓮ちゃんも守ってくれます。里に帰りたくなったら、ちゃんと帰り道が分かるまで送ります。折角シノープルまで来たのですから、楽しまないと勿体ないです」


 構ってもらいたい木蓮の姿が、フルーヴの姿と重なる。

 フルーヴの方が小さいし、精神年齢も幼い。見た目なんて全然似てもいないのに、今頃どうしているかと心配になった。すぐに帰ると言ったが、ガランスに帰るまで随分な時間がかかりそうだ。ガランスに帰るまでの旅費も、それなりにかかるだろう。

 宿に泊まってばかりはいられない。野宿も考え、馬には乗れない亜莉香はピヴワヌの背に乗せてもらう方法もあるが、人に見られないとすると夜移動。歩いて帰るのは無謀だ。節約して食事をせずに過ごすとしても、どこかで稼ぐしかないか。


 色々と考えるのをやめ、亜莉香は葛と一緒にヒナの所に行った。

 葛に手伝ってもらい、ヒナを担ぐ。ピヴワヌに持つと言われたが、子供の姿であるピヴワヌが両手で持つのは不自然だ。


 立ち上がる前に、頭に被っていた着物をヒナにも被せるようにした。

 路地から出て、まずは医者を探す。嫌がるピヴワヌと腕を組む木蓮の、空いている片手は葛が繋いだ。逃がさないようにという意思に、木蓮は舌を出して見せたが、葛は無視して隣にいる。


 三人の後に続こうとすれば、後ろで鳥の羽ばたく音がした。


「懐かしい声がしたと思えば、面白い面子が揃っているわね」


 亜莉香の振り返った先で、誰もいなかった路地に一人の少女が降り立った。


 真っ白な鴉が、少女に変わる瞬間を見た。

 深緑の髪を腰まで伸ばし、髪飾りは付けていない。毛先はふわふわと巻いて、降り立ったと時は可愛らしく揺れた。明るい緑色の瞳は、宝石のペリドットの輝き。真っ白な着物に、真っ白な帯。肩から羽織るは、満開の桜が描かれた桃色の着物。

 亜莉香と年の変わらない少女に、ピヴワヌが目を細めた。


「出たな。シノープルの名物兄妹。その一」

「それ、言っているのはピーちゃんと、ネモちゃんだけね。昔はあんなに遊んだのに、今ではすっかり遊んでくれなくて寂しかったよ」

「そんなわけあるか。どうせ儂がいようがいまいが、今でも勝手に遊んでいるだろ。お主らの悪戯の度合いは、年々酷すぎる」


 軽蔑されても、少女は人差し指を口に当てて首を傾げただけだった。


「そんなに酷いこと、したっけ?」

「幽霊騒動。名画の落書き。装飾品の破壊に、金銭の盗み。嘘の噂を流すなんて可愛げあるもので、人間に直接危害を加えたな。そこまでは許せたが――儂の食べ物を奪われた恨みは忘れてないぞ」


 前半だけでも、十分に悪意ある悪戯だ。

 自分の食べ物の恨みまでは許していたのが、ピヴワヌらしい。

 姿を変えたことからしても、目の前にいる少女は精霊に違いない。木蓮はピヴワヌにしがみつき、葛も身体を寄せた。ピヴワヌも精霊ではあるものの、目の前にいる少女は醸し出す雰囲気が違う。

 笑って何でもしてしまいそうな、少し怖い感じ。

 三人の後ろにいたから、振り返れば必然的に前に立つことになる。出来る限り木蓮と葛を背に隠し、亜莉香は問う。


「それで…何か御用でしたか?」


 笑みを浮かべ、友好的な態度で言ったつもりだ。

 微笑んだ少女が靴のヒールを響かせて、ゆっくりと亜莉香に近づく。身構えようにもヒナを背負って動けずにいれば、ピヴワヌが口を出す前に飛びつかれた。


「初めましてで、こんにちは!ピーちゃんの新しい契約者、アリカちゃん!きっとシノープルにも来るはずと、待ち疲れちゃった!」

「おいこら!儂の主から離れんか!」

「嫌だよー。かっちゃんから話を聞いてから、ずっと、ずっーと会いたかったの。ピヴワヌの声が聞こえて来てみれば、里の子達まで一緒で、面白い面子。何々?何かするなら、私も全力の力を貸しちゃうよ!」


 温度差の激しい少女の身長は亜莉香と一緒だった。足を伸ばして背も伸ばし、ヒナごと抱きしめられては動けない。呆然として、何も言葉が出なかった。

 怖さは一瞬で消えて、戸惑いの方が大きい。


「…どちら様でしょう?」

「ピーちゃんから聞いてない?ピーちゃん、私をちゃんと紹介しておいてよ」

「お前を紹介も会わせたくもなかった」


 盛大な舌打ちをしたピヴワヌに苦々しく言われ、あれま、と耳元で楽しそうに囁かれた。

 さっと身を引いた少女は片足を引き、恭しく着物をつまんだ。腰を僅かに下げ、敬意を払うかのように頭も下げる。


「我は母なる精霊ローズの意思を受け継ぎ、シノープルを守る役目を果たす者。常しえの契約にも基づき、我が主は凬の護人とした。我が従うは主のみ、我を呼ぶのも主のみ。後は自由気ままに風を駆け抜け、風と遊ぶ――」


 楽しそうで長々とした説明を止め、笑みを浮かべた少女が亜莉香を見た。


「我が名はウイ」

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