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Last Crown  作者: 香山 結月
第3章 雪明かりと蠟梅
310/507

63-1

「覗き見は悪趣味よ」


 急に聞こえた声に、亜莉香は驚いて振り返った。

 見ていた光景は消え失せ、真っ暗な夢の中でヒナの真っ白な髪は輝いて見える。仄かに明るい灯籠片手に言葉に詰まった亜莉香の傍まで歩み、一メートルは離れて立ち止まった。


「まあ、私は人に言える立場じゃないけど」

「…ヒナさんが、何故ここに?」

「下準備を終えたの。呼びに行こうとしたら昼寝とは、立派なご身分ね」


 皮肉を受け取り、言い返せない。

 ネモフィルから受け取った精霊の記憶の欠片の夢に、ヒナがやって来るのは想定外。どうやって切り抜けるか答えを出す前に、ヒナは光った何かを投げて寄越した。

 咄嗟に両手で掴み、亜莉香は見下ろす。


 つい数分前も見かけた宝石の欠片のように見える、精霊の記憶の欠片だ。

 ネモフィルから似たようなものを受け取らなければ、何の変哲もない綺麗な宝石だとしか思わなかった。中心に行くほど光が強く、夢の中でなければ光は見えない。たった一度しか記憶は見られないが、身に付けて眠れば記憶に辿り着くと言われて言う通りにした。


 実際には夢にいると気付いた時に手にしていて、徐々に光が浮き出て導かれた。

 光を失った宝石は消えてなくなる。記憶を見終わったらピヴワヌを呼ぼうと思っていたが、ヒナの登場で呼ぶのは躊躇われた。手にしている精霊の記憶の欠片は仄かに赤く光り始めて、光に導かれる前に顔を上げる。


「これは、何の記憶ですか?」

「リーヴル家の弱点を握るために、適当に掻き集めたの。いくつか混ざっているから、整えてくれない?それに願えばいいから」

「意味がよく分からないのですが」


 分からないと言いつつも、右手に持った宝石の欠片の光をよく見た。

 赤い光と言っても、絵具を雑にかき混ぜたように鮮やかな深紅と濃い緋色、黒に近い赤紫色が混ざっている。その中に一欠片の黄金の光もあって、三色と一欠片を認識すると、光は綺麗に混ざった。

 深紅になった光は宝石から浮き出て、亜莉香の目の前に浮く。

 精霊のようにふわふわと、風もないのに深い暗闇に誘った。

 さも当たり前のように、ヒナは言う。


「さて、記憶を辿りに行きましょうか」

「今からですか?」

「昼寝の時間が伸びるだけでしょう?」


 それに、と付け加えて扇を取り出すと、意地悪く笑った。


「闇が深すぎる土地とレイの間には、何か繋がりがあるかもしれないの。その手掛かりを見逃すつもり?」

「私が断らない前提で話していますね?」

「行きたくないなら、来なくていいわ。私は行くけどね」


 片手を振ったヒナが足取り軽く踏み出して、悩む暇もなく亜莉香は駆け出した。ヒナの隣で歩みを合わせ、仕方がないと思いながら口を開く。


「ヒナさんは面倒くさい性格をしていますね。知っていましたが」

「貴女は会う度に口煩くなるわね。黙ることを覚えたら?」

「五月蠅くしていませんよ。必要だから話をしているだけで、この会話だって私達には必要だと思っています」


 話をしながら横顔を盗み見れば、微かに笑っていた。それは初めて見る笑みで、本心からの笑みだと思えた。ずっと見ていたら気付かれるので前を向き、両手を後ろに回して灯籠を持つ。暫く歩けば光が止まり、亜莉香もヒナも足を止めた。


 深紅の光が辺りを照らして、過去の回想が始まった。

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