06-3
トウゴが帰って来るまでユシアの説教は続き、夕飯は初めて六人で食べることになった。ユシアは夕飯を食べ始めても機嫌を直さなかったが、ルカとルイが今後も夕飯だけは一緒に食べる、と約束をしたことで、少しずつだが機嫌は直った。
怒り過ぎて早々に部屋に戻ったユシアは寝てしまったが、亜莉香は夕飯の片付けを終えると、最後にお風呂に入った。怪我をした傷はユシアが治したので、傷跡はない。怪我をしないようにしよう、とゆっくり湯船につかり、眠くなる前に風呂から出る。
寝静まった家で物音を立てないように、静かに風呂場の扉を開ける。
すぐに部屋に戻れるのに、静かな家の中で話し声が聞こえた。
微かに聞こえるルカとルイの声は一階からで、名前を呼ばれた気がした。気のせいかもしれないが、名前を呼ばれたのなら何の話をしているのか気になる。
見つからないように、足音を立てないで亜莉香は階段を下りる。
階段の踊り場でまで行けば、ルカとルイの声ははっきりと聞こえた。
「――本当に、アリカの血で現れたのは瑠璃唐草の紋章だったのかよ」
「僕の見間違いでなければ、ね。もう一回確かめようにも、今日の一件でこれ以上は魔道具を使えないだろうし。もしアリカさんが瑠璃唐草の紋章を持っているなら、下手に手を出すのは危ない」
「そんなに危ないのか?」
何気なしに訊ねた言葉に、ルイが重々しく答える。
「まあ、ね。紋章を持つ人間が別格だって、ルカだって知っているでしょう?それも瑠璃唐草の紋章を持つ、と言うことは――」
「瑞の護人」
「そう。護る、人、と言うだけあって。魔力は桁違いだもん。それも僕達の魔力とは相性が悪い。護人がアリカさんの魔力に干渉しているなら、何もしない方がいい」
「結局、緋の護人の手がかりはなしか」
ため息を零したルカに、いや、とルイが否定する。
「宝石じゃなくて、紋章が現れた。それが瑠璃唐草の紋章にしろ、アリカさんが護人と接触している証ではある。護人達は同時期に姿を消しているわけで、そこから緋の護人の手掛かりに繋がるかもしれない」
「確証は?」
「ないよ。ないけど、今日まで手がかり一つもなかったのだから、アリカさんの存在は重要なものだと思う。魔力が封じられているのは、気になるところだけどね」
「謎が増えただけじゃないか」
「そうかな?一歩前進じゃない?少なくとも、護人がいることは確信出来た。問題はどこでアリカさんが護人に会ったのか――」
あれこれとルカが意見を述べ、ルイが考察を交えながらそれに対して答える。
話を聞いていた亜莉香は、気付かれないようにその場を離れた。
瑠璃唐草の紋章、護人、封じられている魔力。
何も知らない。
何も分からない。
はずなのに、どうしてだろうか。一度聞いたら、その言葉が耳にこびりついた。
途中からの会話は耳に入らなくて、亜莉香は身体を引きずりながら、部屋に向かった。部屋に入り、ぐっすりと眠っているユシアのベッドの隣。布団の中に入りこんで、音を立てずに横になる。明日に備えて早く寝ないといけないのに、目が覚めて眠れない。
心の中で繰り返される言葉を、忘れたいのに忘れられない。
私は何者なのですか、と小さな声で呟いた。




