表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
Last Crown  作者: 香山 結月
第2章 星明かりと瑠璃唐草
228/507

46-4

 縄で縛られた上、縛っている縄をツユに握られている透の姿を憐れに思うべきか。

 湖の氷の上で胡坐をかき、お面を被っているので表情は分からない。逆らう素振りはなく、両手は身体の後ろ。ウルカに連れ添う形でリリアは席を外して、警備隊に守られながら湖を後にした。ネモフィルは姿を隠してしまって、ツユが背後に立っている透は始終無言だ。

 どうしてこんな状況になっているのか。

 ツユから指示を受けた警備隊の数が減って、亜莉香は少し離れた場所から眺めた。

 端に避けていたルカとルイと視線を交わすと、二人は近くに寄って言う。


「お疲れ。あとは後処理するってさ」

「元凶は封じ込めたからな」


 疲れたルカは腕を組み、ルイは頭の後ろに腕を回した。

 元凶、と言いながらトシヤと首を傾げると、ルカが透を振り返って話し出す。


「あいつが、なんか小さな器に封じ込めた。俺は見たこともない入れ物だったけど、それで暫くは持つから、後で封印を重ねるとか何とか言っていた」

「僕もよく分かんなかったんだよね。光ったと思ったら、あの子いなくなっていてさ」

「近くで見ていた俺も、よく分からなかったけどな」


 頷きながらルカが言い、ルイは亜莉香に問う。


「アリカさんなら、遠くからでも何があったか分かった?」

「えっと…よく、分からなかったです」


 正直に言えば、その瞬間を見ていない。

 トシヤと向かい合って言い訳を考えていた時か、その後の出来事の時か。収まったはずの熱が僅かに上がって、から笑いをして誤魔化した。

 困った亜莉香を察して、トシヤが助け舟を出す。


「それで、俺達はもう帰っていいんだろ?」

「そう言われたよ。ルグトリスの気配も弱まったし、後はセレストの警備隊で始末すると。馬鹿領主の息子はお供を連れて、さっさと帰ったし」

「ああ、シンヤがいたのを忘れていた」

「僕とルカに挨拶して、いなくなったからね。明日の昼を一緒に食べるように言うだけ言って、こっちの返事も聞かなかった」


 最悪、と呟いたルイが遠くを眺めて、何もない闇を見つめた。

 タイミングを見計らって、ルカが口を挟む。


「俺達も帰っても良かったけど、アリカがトオルと何か話すかと思って動かなかった」

「行ったり来たりは、二度手間だからね」


 付け足すようにルイは言い、亜莉香に笑いかけた。

 気持ちを見透かされていたが、嫌な気分にはならない。透と話さなければ今後を決められず、トシヤに頷いて見せてから、その場を一人で後にした。


 透がいる場所はすぐそこなのに、足を動かすのに気合が必要だった。

 何故か緊張した亜莉香が近づいて、ツユの傍に居たミスズは眉をひそめた。ツユは何も言わずに、数歩下がって指示を出し続ける。

 気配を感じたのか、透が顔を上げた。

 お面越しの黒い瞳と、目が合う。

 その目を見れば、透が笑っているのが伝わった。愉快そうに、おかしそうに現状を楽しんでいる。腰を落として、膝を抱えた。

 視線を合わせて、相変わらずだと思いながら話しかける。


「全く、なんで捕まっているの?」

「それはネモに聞いてくれよ。ツユと協力して、俺を逃がさないように仕組んでいたんだぜ。酷くない?」

「それは透が突然いなくなったからでしょう?」


 近くにいる人には声が聞こえないように、小声で話しながらも遠慮はしない。


「いなくなるつもりだと、ネモには伝わったんじゃない?」

「まあ、その通りではあるけどな」

「家族の傍に居たくないの?」


 言ってから、透の悲しみに気付いた。

 瞳が影って、そうだな、と静かに相槌を打つ。


「俺が傍に居ると、災厄を巻き込むから。家族が大切だと思えば思うほど、離れていた方がいいとも思う」

「リリアさんのことは?」

「手離すつもりはない」


 清々しさを感じる程はっきりと、透が即答した。驚きと嬉しさが混ざった亜莉香は顔を伏せて、笑い声を出さないように肩を震わせた。

 それでも声は零れて、透は不貞腐れる。


「おい、笑うな」

「だって、今まで恋愛興味なしの透しか知らなかったから。今日だけで透のこと、前より好きになった気がする」


 笑っていた顔を上げれば、ため息が返って来た。


「気がするのかよ。俺はずっと前から、亜莉香のことを妹のように好きだったよ。恋愛話なんて、恥ずかしくてしたくなかったけどな」

「透って、認めると素直だよね」

「ほっとけ…いや、待て。このまま放って置かれると、ネモやツユに色々聞かれそうで面倒くさい。どうにかして、縄を解いてくれないか?」


 声を落とした真面目な透に、亜莉香はわざと首を傾げた。


「捕まっているのは可哀想だと思うけど、たまには怒られた方がいいよ。お兄ちゃん」

「うわ、その呼び方は気持ち悪い。兄だとはそのうち認めさせたかったけど、いつも通り呼べよ。今更変えられたら、鳥肌が立つだろ」


 縛られているのに、透は身体を震わせた。

 本気で嫌がっている様子に、話を変える。


「それより、あの子を封印したって聞いたけど。何に封印したの?」

「急に話を変えたな。別にいいけど…俺の、右ポケットの中」


 言われた通りポケットを探ると、小さな目薬が出てきた。それは市販の入れ物で、中身が透明な液体なら不思議はない。

 澱んで真っ黒な液体の入った目薬を掌に乗せ、透は説明する。


「その中に、一応は封印してある。けど俺は得意じゃないから、出来るなら亜莉香にも協力して貰って、封印を重ねたい」

「私?」

「俺は昔から、結界とか封印とか苦手なんだよ。それに関しては灯の方が上だった。いや、まあ…それ以外でも灯に勝てなかったことは沢山あるけど」


 昔を思い出して、話がずれた。


「灯は薙刀を持たせたら最強だし、日本刀を持たせても俺と互角で渡り合うんだよ。水魔法や治癒魔法は俺より下手だったけど、まんべんなく魔法は使えて、精霊を見つけるのも得意だった奴でさ」

「――その話、長い?」


 亜莉香の一言で、つまり、と透は話をまとめる。


「今すぐにでも、封印を重ねたい。そのためには亜莉香の力が必要だ」

「縄で縛られてなかったら、格好がつくのにね」

「おいおい、俺を誰だと思っているんだ。この程度で、俺が抑えられるはずが――」


 ない、と言い終わる前に、透の頭に影が下りた。

 真後ろで見下ろしているのは、無理にでも笑おうとしているツユだ。発せられる気配は冷ややかで、氷のように冷たい。

 自分の失言に気付いた透が、後悔しても遅い。


「ほう、この程度なら逃げるのか」

「畜生!裏切ったな、亜莉香!」

「私は何も言ってないでしょう?透が自滅しただけで」


 呆れながら言えば、その間にツユが縄を締め上げた。

 透の騒ぐ声に両耳を塞ぐと、両手の存在が気になった。王冠も白いリボンに括り付けた鈴もそのままで、今後の扱いに悩む。

 警備隊に話しかけられたツユの視線が透から外れて、亜莉香はそっと問う。


「因みに、透」

「俺は怒っている!何でも聞けば答えると思うな!」

「王冠って、どうすればいいと思う?」

「はあ!?」


 湖全体に響き渡る声を出した透は、慌てて亜莉香を見つめた。

 耳を押さえていた右手首の王冠に気付いて、顔色が変わる。青白くて、信じられない物を見るように目を見開く。


「それ…どこで?」

「リリアさんの家の池の中で、ネモから聞いてなかった?」

「聞いてねーよ!てか、そっちの方が早く封印した方がいいだろ!意識すれば光の魔力を感じるし、それが敵の手に渡る方がやばいんだよ!」


 後ろで手を縛られていた透が立ち上がろうとして、両手の不自由を喚いた。ツユに突っかかって喚く透に、他人事のような疎外感を味わう。王冠を持っているのは亜莉香だけど、封印する必要も考えなければ、光の魔力も感じないのだ。


 そんなに慌てる話だったのかと呑気に考えていると、緑の光が目の片隅に映った。

 細かい砂のような緑の光はふわりと風に乗って、亜莉香の髪を撫でる。思わず目薬を持っていなかった左手で押さえると、風を感じた方角に真っ白な髪の女性の姿があった。

 警備隊と共通の着ている着物と袴姿で、悠々と近づいて来る。

 腰には日本刀を身に付けて、行き交う周りの人間は誰も気にしない。

 歩きながら、袖の中に隠していた扇を右手に持った。亜莉香と目が合えば微笑んで、数メートル先で立ち止まった瞬間、空高く掲げた扇を力一杯振り下ろす。

 切り裂くような風が、亜莉香と透の間を通り抜けた。

 突然の攻撃に透が身を引き、間を置かずに亜莉香の身に強風が襲った。両手で風を防いでも威力は衰えず、しゃがんでいた身体が吹き飛ばされそうになる。


 ヒナの狙いは、間違いなく亜莉香だった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ