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Last Crown  作者: 香山 結月
第2章 星明かりと瑠璃唐草
220/507

45-2

 透の後ろから、フルーヴはトシヤを引き連れて戻って来た。

 抱き合う透とリリアには目もくれず、一目散に走って亜莉香の胸に飛び込む。泣き出しそうな顔だった小さな兎が亜莉香の名前を呼び、安心させるために優しく抱きしめた。

 一足遅れたトシヤは透とリリアの二人だけの空間に入れず、遠巻きに眺めながら亜莉香の傍に駆け寄った。少し困った表情を浮かべた後、安堵して言う。


「おかえり」

「ただいま、です」

「フルーヴに呼ばれて急いで来たけど、無事で安心した」


 それは亜莉香も同じ気持ちで、トシヤと向かい合って笑みを浮かべた。目の前にいるトシヤに、大きな怪我は見当たらない。


「トシヤさんこそ、お怪我がなくて何よりです。ルカさんやルイさんは?」

「上で戦っている。ネモには早く戻って来い、と言われたけど――」


 頭を掻きながら、トシヤが後ろを振り返った。

 愛おしそうな眼差しで透はリリアを宥めて、頭を撫でている。リリアは透の胸に顔を埋めて、少し背伸びをして抱き付いていた。

 二人が離れる気配がない。

 言いたいことを察して、亜莉香は微笑ましい気持ちになった。


「あの二人は、まだ暫く動きそうにありませんね」

「いいのか?」

「良くはありませんね」


 さて、と呟くと、フルーヴが定位置である亜莉香の頭の上に飛び乗った。頭を下げて、逆さまの状態で目が合う。


「ありか、どうする?」

「まずは、ここから離れましょう。フルーヴ、帰り道は分かりますよね?」

「うん!」


 大きく頷いたフルーヴに笑みを零してから、透の名前を呼んだ。

 名前を呼ばれた本人はようやく亜莉香の存在に気が付いて、顔がタコのように赤く染まった。透につられてリリアの耳も赤くなって、お互いにぎこちなく距離を取る。

 今更離れても遅いと思うが、何も見なかったことにして亜莉香は訊ねる。


「先に帰ってもいい?」

「俺も帰る!今すぐ、さっさと!」


 両手を上げて、何もしていないと主張する姿が白々しい。


「別に、ゆっくりしていても構わないよ?追って来る敵には気を付けてね」

「て、敵!?」


 状況が全く呑み込めていなかったようで、透の声が裏返った。トシヤは一部始終を聞いていて、腰に付けていた日本刀の柄に右手を添えた。亜莉香を見ると眉間に皺を寄せる。


「敵に追われていたのか?」

「はい。血まみれの少女に」

「それで、裸足?」

「それは当たらずとも遠からずで、簡単に言うとリリアさんに貸しました」

「…悠長に話してないで。逃げるなら、さっさと行こうぜ」


 落ち着きを取り戻した透の一言で、話が中断した。

 トシヤはあからさまにため息をついて、空いていた左手で亜莉香の右手を掴む。しっかりと結ばれた手に、亜莉香が口を開くより先に、独り言のような小言が聞こえた。


「目を離すと、すぐに厄介事に首を突っ込むから困る」


 好きで首を突っ込んでいるわけでもないが、何も言い返せずに口を閉ざす。

 定位置である頭の上に移動したフルーヴが案内を開始して、トシヤに引っ張る形で歩き出せば、まだ顔が仄かに赤いリリアを透が背負っていた。

 亜莉香の隣に並ぶように透はやって来て、それで、と口を開いた。


「誰に追われているって?」

「血まみれの…黄色の髪の女の子かな」


 上手く表現する言葉がなくて、曖昧に答えた。具体的なことは言えなかったのに、透には思い浮かぶ人物がいたようだ。

 渋い顔になって、小さな舌打ちが聞こえた。


「そいつ、首あった?」

「うん?あったよ」

「首は刎ねたし、凍らせた後に砕けて消えたと思ったのに」


 実際にそんなことをしたのか、聞く勇気はなかった。

 それが行われていたと仮定してみる。そうだとしても出会った少女は身体があり、血で赤く染まりながら動いていた。全身からは黒い光が溢れ出ていて、ふらついていたが、黒い光を宿した黄色の瞳には亜莉香の姿が映っていた。

 消えてはいない、と思えば、一歩前を歩くトシヤが問う。


「それって、トオルが倒した奴だろ?」

「まあな。そう簡単に消えないとは思っていなかったけど、厄介だよな。あれは何度も生き返るゾンビみたいなものだぜ」

「ぞん…何だって?」


 お互いの顔を見ずに、会話が飛び交った。知らないうちに名前で呼び合う仲になったトシヤに、透が丁寧に説明する。

 説明を聞いても納得出来ないトシヤの顔を覗き見て、亜莉香は視線を前に戻した。


 地上で挨拶ぐらいしたのかもしれないが、出会ったばかりであるはずの二人の間に壁はない。どちらも人見知りする性格ではないし、遠慮するような性格でもないとは言え、一応トシヤの方が年上のはずだ。

 どっちも気にしていないと思えば、それまでの話。

 落ち着いて話が出来るようになったら、透と話し合いたい。護人や魔力のこと、色々と聞きたいことがあって、すべて聞いたら時間がかかる。セレストにいる間に聞ければいいが、そもそも透はこれからのことを考えているのか。

 呑気に考えていると、トシヤに名前を呼ばれた。


「アリカ、話を聞いていたか?」

「…え?」

「やっぱり聞いてない」


 あからさまに透がため息を零した。トシヤは肩を落とし、リリアからは困った顔をされて、亜莉香は瞬きを繰り返す。

 何の話だったのか聞こうとすれば、フルーヴの嬉しそうな声に遮られた。

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