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Last Crown  作者: 香山 結月
第1章 月明かりと牡丹
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27-2 Side留依

 年季の入った小刀と真新しい日本刀を重ね、ルイはトウゴの攻撃を受け止めた。身長差で言えば、ルイよりトウゴの方が高い。振り下ろされた日本刀を真正面から受け止めて、本来なら澄んだ水色の瞳を覗き込んだ。

 顔を寄せても、表情は読み取れない。

 いつもと雰囲気が、気配が違って違和感を覚える。ルグトリスと似た気配でもあり、時々本来の気配が見え隠れする。

 澄んだ水のように掴みどころのない、水色と青の混ざった気配が今にも消えそうだ。見つけ次第、本来なら正当防衛の状況を作り出して殺すつもりだった。友人を見捨てて、勝手にいなくなって、裏切った人間に情けをかけるつもりはなかった。結界の破壊を目論むなら尚更、斬り殺す対象としては問題ない。


 例え、世話になっているトシヤとユシアが庇っても。

 例え、どんな事情があろうとも。


 それなのに、と思いながら、ルカの傍に居る少女の姿がルイの瞳の片隅に映った。何やら話をしていて、ルカが騒いでいるのは離れていても分かった。

 また何か起きそうだな、と心が躍った。

 いつだって予想外の行動に驚かされて、その結末に期待してしまう。

 無意識にルイの口角が上がって、トウゴにしか聞こえないように顔を寄せて囁く。


「それにしても元気そうだね」

「…」

「返事くらい返しても、誰にも聞かれないよ?」


 押されているフリをして、絶妙な力加減でトウゴを優勢に見せかける。お互いに譲らないように見せたまま、会話を続ける。


「結界を破壊することが狙いなの?」


 答えがない。


「それが君の家族を守ることに繋がっているの?」


 二つ目の質問で、トウゴは目を細めた。睨むように、ようやく感情を露わにしたトウゴに、ルイはにやりと笑った。


「本当に当たり、なんだね?」

「お前には関係ない」

「まあね。僕は結界を破壊しようとする敵を、排除したいだけかなっ――」


 力を込めて日本刀を弾き返して、一歩よろめいて下がったトウゴに迫る。

 身を低くしたまま、左手に持っていた小刀で首を狙った。小刀では届かない距離と分かった上で攻撃を仕掛けて、一瞬焦った顔になったトウゴが日本刀で防いだ。咄嗟の反応に対しては、平均的な動きだ。それなりに戦う訓練はしていたのかもしれないが、力の差は歴然としている。


「やっぱり戦闘に慣れていないよね」

「お前達と一緒にするな」

「一緒だなんて微塵も考えてないよ。僕はどんな理由であれ、大切な人が悲しむことはしないから」


 大切な人、と言われたトウゴが誰を考えたのか。

 瞳の奥が揺れて、迷いと焦燥が生じた。すでに戦い疲れていたルカを戦わせないために戦闘を開始してみたものの、このままでは早々に決着がついてしまいそうだ。

 身動きを取れなくしてしまえばいいのだが、縛って動けなくする物が近くにない。気絶させる一撃を与える加減は出来なくもないが、その前に戦意喪失でもしてくれればいいのに、と呑気に考える。


「あのさ、今からでも話し合いにしない?」

「…無理だ」

「決めつけるのは良くないよ」

「無理だって言っているだろ!」


 叫んだトウゴが押す力を強めて、ルイは攻撃を受け流して身を回転させた。再び武器が激しくぶつかると、妙に冷静な気持ちになった。

 人並みの感情を露わにする度に、いつものトウゴの気配が湧き上がる。

 説得するなんて柄じゃない、と思いつつ言葉を重ねる。


「無理だと決めつけているのは、トウゴくん自身だろ」


 淡々とした声は、冷ややかな声でもあった。


「誰のための犠牲なのか、僕には知る由もなければ興味もない」


 だけど、とやけにはっきり声が響いた。


「君の家族は君を庇い、帰って来て欲しいと願っている。君が見捨てた本人はお人よしで、怪我人なのに連れ戻そうとしていた。その人達を裏切るのは――正しいことなのか?」


 静かな声に、目を見開いたトウゴの力が弱まった。

 その隙を見逃さずに、日本刀を横に払う。踏み出した左足を軸にして、右足で思いっきり脇腹を蹴った。

 うつ伏せに倒れ込んだトウゴの右手は日本刀を手放さなかったが、地面に平行の状態では反撃は無理だ。それなりに力を込めた蹴りの威力はあったようで、左手は蹴られた脇腹を押さえていた。

 起き上がる前に、トウゴに歩み寄ったルイは左足で日本刀を踏みつける。

 武器を使わせまいとすれば、見上げたトウゴと目が合った。


 肝心なことは言わないくせに、何かを決意して強い光を宿した瞳。


 ひとまず気絶でもさせるかと、爪が手のひらにくい込む程に強く握りしめていた右手の日本刀を振り上げると同時に、肩の上に白い兎が飛び乗った。


 何が起こるのか、瞬時に理解する暇はない。

 白い光を集めたピヴワヌは何も言わずに、辺りに眩い光が放たれた。

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