抽象画
鼻血が出てきた。
寸前まで、
チョコレートを
食べていたし、
部屋が暖かかった
せいかもしれない。
血は、子供の頃から、
すぐに止まることが
多かったので、
さほど気にはしない。
ティッシュをとり、
ちぎって丸め、
左の鼻の穴に詰め込む、
詰め込む、
詰め込む、
どんどん詰め込む。
この鼻の穴に
詰め込む行為は、
何度やっても
間抜けな感じがする。
クリスマスに一番、
相応しくないだろう。
しばらくして、
恐る恐る、詰め込んだ
ティッシュを抜いてみた。
タラリ、おいおい、
止まらんのかい。
止まると思っていたのに、
唇に血が伝い、
胸元や足元に
真っ赤な抽象画が
描かれていった。
それから、
何度かティッシュを
詰め替えてみたものの、
抽象画は色濃く
なるばかりだった。
三十分ほどして、
やっと止まった。
人生で一番長い、
鼻血の時間だった。
血気盛んな若者なら、
いざ知らず。
着替えるとき、
その抽象画が、
自分の泣き顔のように
見えて、
ほんとに悲しくなった。
一度、頭を冷やそうと
庭へ出た。
そこは、底冷えのする
夜になっていた。
星の微かな光が、
お疲れ様と言う。
そう言えば、
クリスマスカラーの赤は、
キリストの血の色らしい。
今夜だけ、鼻血でも、
罪を贖えたらいいのに。




