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4編 宮廷魔術師と光の城

 西洋風の、大きな真っ白な白。それがこの「アルクウェイド城」である。綺麗なステンドグラスには、様々な天使や、女神などが描かれている。

 天井からぶら下がっているシャンデリアのすべてに火がともされている。これもまた、魔法の一種なのだろう。

 個人の部屋に戻り、食事の時間になるまでは待つ、とのことであった。


「いやぁ、買い物は楽しかったですねぇ。久々に外に出られて満足満足、ですよぉ」


 イェルドさんは嬉しそうにそういった。


「久しぶり、とは?」


「ああ、僕、ずっと異世界人の召喚のための研究に付き合わされてたんですよぉ。その為、ずっと城の中にいたんですよぉ。とはいえ、僕よりも長いことこの城に閉じ込められてる人もいますからねぇ」


 確かに、研究をするのに外にいるよりも、中にいて調べ事をしていたほうがいい。研究にもよるものの、今回のような場合は、様々な場所に行くよりも、古い文献とにらめっこ、の方がいい研究とも言える。


 まるで夢を語るように、イェルドさんはこういってきた。


「僕、いつか神都(アルクウェイド)の外に出てみたいんですよぉ。クロイツの陶芸やガラス工芸を家族への見上げに買うのもいいでしょうね。僕、海見たことないんで、海がきれいだと有名なエアリスもいいですね。メルディアの大図書館で本を読み漁るとかも楽しそうです。コルフィスの綺麗な星空を見ながら、あそこの星占術も試してみたいです!………ああ、ウィンネールで、動物たちと遊ぶのもいいですねぇ。クレイスデントも雪景色がとっても美しいらしいんですよ。白銀の雪と、様々な色に光る霊脈。その二つが美しいと、もっぱら有名でして!」


「そんなに外に憧れているんですね」


「はい!僕、本当に神都の外に出たことなくって、長年の夢なんですよぉ。……僕、このウェルギリアのいろんな場所を見てみたいんですぅ。会えるものなら、各地の『銀髪金眼』とかも、会ってみたいんですぅ。どんな人たちなのかなぁって。……あ、でも、クレイスデントのには会えないと思うのですよぉ。それ、魔力量強すぎて生まれた時に死んでますからねぇ。生きてたとしたらそれ、相当強すぎる化け物ですよぉ?」


「なるほど……」


 彼は窓の外を眺めた。それと同じように、外からの夜空を眺めた。ここから見える夜空は綺麗だが、これよりも綺麗なのだ、と知るとすごく気になってくる。


「昔は、この城からも自由に出られたのですがねぇ……」


 と、イェルドさんは呟いた。


「何があったんですか?」


「いえ、ある時から領主様の様子が少しずつおかしくなりましてねぇ。数か月ほど前から、この城からの出入りもそうそう許してもらえなくなったんですよぉ」


「さっきは外に出られたのに、ですか?」


「ありゃ領主様に許可をもらったから、ですよぉ。そうじゃなきゃ首を斬られちゃいますよぉ」


 それを聞いた瞬間、俺の表情が凍った。


「えっと、それは、その、宮廷魔術師をやめさせられる、という意味ですよね?」


「違いますよぉ。そっちじゃありません」


 どことなく悲しそうに、イェルドさんはこう続けた。


「最近の領主様はどこかおかしいんですぅ。昔は、とってもいい人だったんですぅ。詳しくは言えませんが、だいぶ変わってしまったんですよぉ……」


「それも、魔王が原因で?」


「それは分からないですぅ……。すみません……」


「そうなんですか……」


 星を見上げながら、イェルドさんはこう言った。


「多分、領主が魔王の影響を受けてるとしたら、そこの宮廷魔術師はきっとつらい思いをしてますぅ。……カイトさん、どうか、どうか、助けてあげてください……」


 どことなく弱弱しい声で、彼はそういった。

 俺は、イェルドさんのためにも願いを叶えてあげなくちゃならない。

 その決意を新たにし、その日は終わった。

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