2編 神都アルクウェイド領主
「これから俺、何をしたらいいですか?俺に出来ることがあれば、何でもしますよ。ここで会ったのも、きっと、何かの縁があってのことでしょうし」
俺がそう尋ねると、イェルドさんの表情は一気に明るくなった。
「え!?カイトさん、それって、残ってくれるってことですかぁ!?」
「え、あ、はい。そう……なりますね」
しどろもどろになりながらも答えると、イェルドさんは更に嬉しそうな表情になり、ガッツポーズをした。
「ああ、よかったよかった!!これで僕、領主様に怒られずに済みますぅ!!ほんっとうにありがとうございますっ、カイトさん!」
「えっ、領主様に怒られる?どういうことですか?」
こちらの問いかけにも答えずに、イェルドさんは、両手を掴んできて、勢いよく上下に振った。
「ありがとうございます、カイトさん!では早速、領主様に会いに行きましょうか!」
満面の笑みで、イェルドさんは俺の腕を引っ張った。
イェルドさんに引っ張られながらも、建物の中を見回してみた。
まるで何か、立派な屋敷にいるかのように数えきれないほど多くの部屋のある、広い廊下。
窓から見える、あまりに立派な庭と、青く晴れ晴れとした空。
ところどころに飾られた、シャンデリアや絵画。
この時点で、俺は、どことも知らない豪邸にいるのでは、と分かった。
しかも、恐らくながら、ここの……神都アルクウェイドの、領主の屋敷。
しばらく引っ張られながら歩いていると、一つの部屋の前についた。扉は他の部屋に比べて豪勢な装飾が施されており、両開きのもの。特徴的ともいえる、茶色で、ずっしりとした扉である。
「この中に、領主様はおられます。どうか、御無礼のないようにお願いしますね。下手やらかしたら僕が殺されてしまうのですよ」
絢爛豪華な調度品の数々、だだっ広く、まるで王にでも謁見する場所であるかのような荘厳な世界。
そして、目の前にはよくゲームであるような、ある程度丸々とした、王様らしい服装をした40代ぐらいの男がいた。
「おお、イェルド。よく連れてきたな。そやつが『協力者』か!」
どこか嬉しそうな声で、その人は言った。
「はい!領主様!」
イェルドさんは嬉しそうにそう答えた。俺はそれに続いて自己紹介した。
「海斗です。よろしくお願いします」
そう言って、お辞儀をした。それでいいのかはわからなかったが、多分許されるだろう。
「ほぅ、カイト、か。余はオルトリア・アルクウェイド。この、神都アルクウェイドの領主をしておる者だ」
目の前の人物からは、穏やかな表情ながらも、確かにそれらしい威厳を感じられた。
「カイトよ、早速ですまない。この国を、救ってはくれないだろうか」
「一体、何があったんですか?」
尋ねてみると、彼は深刻そうな表情をしてこう言った。
「実はな、この国は魔王エイルードの手によって、支配されようとしている。様々な街とその領主が、その魔王に支配されつつあるのだ。特に、その影響が強いのが聖都クレイスデント。あそこの領主たるハンス・クレイスデントは魔王エルイードと契約をし、この国の魔力の源ともいえる霊脈をわが物にしてしまった。敢えて救われる点としては、あやつ自身に霊脈を操るほどの魔力がなかった、という点だろう」
「何故、そんなことを?」
「そればかりは分からぬ。ただ、あやつはまだ若く、まだ領主になってそこまで年月を経ていない。また、あやつは魔力を持たぬ黒髪黒目。……他の領主が魔力を持っているにも関わらず、自分自身が魔力を持っていないとするならば、心を閉ざし、世界に恨みを抱き、世界の一つや二つ、ひっくり返してしまおうと望んでもおかしくなかろう?」
「そんな、身勝手な理由で……」
「そうだ。……それだけじゃない。あやつには、優秀な弟がいる。優秀な、魔術師の弟が。魔力量が異様に高く、全ての属性が使える、と噂にもなる程なのだ。そんな弟に嫉妬してか、その弟を傀儡化し、意のままに操ろうとしている、とも言われている」
俺はそれを聞き、どんなに酷いやつなのだろう、と想像した。
自分の嫉妬の為に、魔王と契約し、国を滅ぼしかねない自体に追い込んでいるだなんて。
「あやつはまだ若い。きっと、説得をしたらあっさりと心を開いてくれる筈だ。カイト、頼む。そなたにしか頼めぬことなのだ。なんとしてでも、全ての街の領主達を、そして、霊脈を取り戻してくれ。頼む」
「分かりました。その仕事、引き受けます!」
俺は二つ返事で答えた。