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1編 神代魔術都市国家ウェルギリアへようこそ

「え、えっと、ここは……?」


 俺は周りを見回して、そう尋ねた。すると、その数人の中でも好青年そうな人物がこう答えた。その人物は、真っ白なローブで、横側に足元から真っ赤な十字が描かれているだけの、シンプルなデザインであった。


「ああ、ここは神代魔術都市国家ウェルギリアですよ!……いやぁ、まさか本当に転移魔法で異世界から呼び出せるとは!」


「ウェ……?ごめんなさい、もう一度……」


「ウェルギリア、ですよ。どうやら貴方、異世界の東島(オーステンインゼル)の人物みたいですね。なかなか国の名前が覚えられないのは分かりますよぉ。ここにくる東島(オーステンインゼル)人とか、異世界の人とか、だいったいそうなんで!まぁ、ゆっくり覚えていってくださいよ。多分、これから嫌というほど聞く羽目になるんで!」


 嬉しそうに言うその人は、俺が混乱しているまま、こう続けた。


「では、自己紹介から。僕はイェルド・ゼロヴェスタです。イェルド、とお呼びください。ここで、宮廷魔術師をしているものの一人です」


 その人がフードを外すと、そこから見えたのは、短くはねた白い髪に、黄色の細くちょっとつった瞳で、ある程度顔立ちの整っている青年だった。


「海斗です。天音海斗。よろしくお願いします」


「カイトさんですね?よろしくお願いしますね!」


 軽く自己紹介をしあうと、すぐにイェルドさんはこう話し始めた。


「さて、この国、神代魔術都市国家ウェルギリアは魔法と、少々の錬金術で成立している国です。『錬金の街クロイツ』『港町エアリス』『風の村ウィンネール』『学術都市メルディア』『神都アルクウェイド』『霊却の谷コルフィス』『聖都クレイスデント』この七つでできています。そして、この土地はその中でも神都アルクウェイドと呼ばれる土地です。領主様であるオルトリア・アルクウェイド様が統治なさっています。ここまでで質問は?」


「え、あ、ないです……」


 勢いに押されてしまい、質問ができる気配がしなかった。


「そうですか!……さて、早速ですが、貴方の魔力量と、魔力形質について調べていきますね!」


 イェルドさんがそういうと、俺が了承するまでもなく、手を取って、手相を見るかのように両掌を眺めてきた。


「え?両手?普通、何か大きな魔昌石な物にかざす……とかじゃ?」


「あぁ、これ、簡易計測ですよ。しっかり測れる魔昌石のは、簡易検査であんまり化け物染みて高すぎるる場合とか、あんまりにも魔力量が薄すぎる場合に、再検査として使われます」


 しばらく眺められていると、彼は突然、こう言いだした。


「ああ、やっぱり。異世界人特有の『魔力量が多い』ってのと、『全部の属性が使える』ってのがありますね。……しかも、もしかしたら神都(うち)の銀髪金眼クラスじゃないですかぁ!こりゃすごいですよ!!」


「そ、そうですか……。それって、凄いことなんですか?」


「はい?どれのことでしょうか?」


「『魔力量が多い』ってのはともかく、『全部の属性が使える』とか、『銀髪金眼クラス』とかって……」


 俺がそう尋ねると、イェルドさんは一瞬戸惑ったような顔をした。

 何か、間違ったことを尋ねただろうか。

 そんな心配はなかったらしく、彼はすぐ、笑顔に戻り、こう言ってきた。


「ああ、確かにその辺りも言ってなかったですね!これはこれは失礼しました!……こっから話は長くなりますので、ちょっと部屋を移動しましょうか。ここには座る場所もないので」


 イェルドさんはそういって、他の人たちとともに、俺を別室に連れていった。その部屋は先ほどとはうってかわり、本当によくある客室のような、少し豪勢な部屋であった。

 学習机や本棚、ベッド、ソファー。そういった単純なものが置かれている。敢えて言えば、本棚には沢山の本がある、といったところだろうか。


 俺をソファーに座らせ、彼は本棚から1冊の茶色い本を取り出してきた。

 その文字は、アルファベットを上下左右逆さまにした文字であり、今の俺には読むことが出来そうになかった。


 イェルドさんは俺が読めないことに気がついたのか気がつかないのか、本を開きながらそのまま解説した。


「まず、属性について解説しますね。この世界……というより、ウェルギリアにおいては、属性は7つあります。絵にある通り、『火』『水』『風』『土』『光』『闇』『精霊』。『精霊魔法』に関しては、精霊の力を借りて、その他すべての属性の魔法を使う、ないしは精霊を召還する……と言った、高度な物ですね」


「つまり、6属性+1属性ってことですか?」


「まぁ、異世界人からはよくそう言われますねぇ。神都(アルクウェイド)ならそれでいいですけど、聖都(クレイスデント)でそれ、言わないでくださいよ?あそこ、精霊魔法に強いとこですし、純粋にかなり失礼にあたりますからね?」


「あ、はい……。スミマセンでした……」


 イェルドさんは軽く息をつくと、こう続けた。


「僕もそうなんですけどね、普通はあまり沢山の属性を使えないんですよぉ。多くても精々4つが限界です。ですが、たまにいるんですよ。凄腕の魔術師だと、7つ全ての属性を使える方が。領主様達は基本的にそうであるって言われてますね」


「なるほど……」


「また、『銀髪金眼』というのは、『その地域で一番の魔力量を持っている』ということの証明だと言われてます。それほどまでに強い魔力量がある、と考えてください。白髪黄眼も魔力量は多いのですが、それでも銀髪金眼の足元にも及びません。地域によって銀髪金眼の魔力量は変わりますがね」


 俺はそこでふと疑問に思った。

 この人は、度々、「異世界人は~」というように話す。つまり、過去にもここに来た人たちがいた、というわけだ。しかも、かなりの人数。


「そういえばですけど、まるで、多くの異世界人を見てきたかのように話しますね、イェルドさん」


 そう言うと、ケロリとした表情で、彼はこう答えた。


「そりゃかなりの数いましたもん。今でもいるのではないですかねぇ」


「えっ………」


 こちらが驚いていると、彼はこう続けてきた。


「何か、暴漢に突然教われて~とか、何かに轢かれたとか~とか。そういうのすっごい多いんですよぉ。ウェルギリアも一時期異世界人だらけで、適当に石投げたら異世界人に当たる、なぁんて言われてたほどですよぉ?」


「えっ………そんなにいるんですか?」


「とはいえ、異世界人が多かったのは一昔前の話ですよぉ。今となっては文化とか規則の面倒くささとか、『なんか思ってたのと違う』とか、そういうのが積み重なり、元の世界に帰る人が増え、ほとんどこの世界からはいなくなりました。中には、『自分の代わりに他の人を異世界に飛ばす』なぁんてことする人もいまして。そんなにこの世界嫌なんですかねぇ……?」


 何処と無く寂しそうな声で、イェルドさんは言った。


「この世界、楽しいですよぉ……。少なくとも、僕はこの世界の、ほんの一握り……神都しか分かりませんけども……悪くはない筈ですよぉ……」


「………」


 寂しそうで、何処と無く泣きそうな声だった。

 俺は、少し悩んだ。

 他の人達のように、多分、帰ることも出来る。その為の方法を、この人達は知っている。

 けれども、召還した、ということは何かしら困っていることがある筈だ。また、こんな泣き言だって言ってこない筈だ。

 あの黒いローブの男が、俺に何も言わずに俺を異世界に飛ばしたのも、本当は多少の良心があったから、なのかもしれない。


「これから俺、何をしたらいいですか?俺に出来ることがあれば、何でもしますよ。ここで会ったのも、きっと、何かの縁があってのことでしょうし」


 俺は、そう尋ねた。

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