0編 天音海斗
黒く、ストン、と整えられた短髪。日本人らしい、黒い瞳。そして、平均的な日本人高校生らしい、どこにでもいるような平凡な男子高校生。それが、俺、天音海斗だ。俺は昔からお人好しで、頼まれたら断ることも出来ず、悪く言えば、騙されやすい性格だ。とはいえ、友人たちの間で俺を騙したってやつは一人もいなくて、皆いいやつばかりだ。
ある日のことだった。俺は、街で黒いローブの人に話しかけられた。
その様子というのも大分異様で、よくゲームとかに出てくる、敵の魔法使いって言ったような感じだった。つまり、目元まで深くフードをかぶっていてその表情は見えず、手には怪しげな珠の浮かんでいるような杖をしっかりと握っている人物であった。
「もしもし、そこの方。よろしければ私を助けてはいただけないでしょうか」
その声は、明らかに低い男性の声だった。
「え?良いですけど、一体どうしました?」
俺の問いかけに、彼はこう答えた。
「少し、来てもらいたい場所があるのです。何、別に何かするってわけじゃありませんよ」
「分かりました。俺でよければ……」
俺が二つ返事で了承すると、その人は、目を輝かせて、
「ああ、本当ですか!?ありがとうございます、非常に助かります!」
その人は、嬉しそうにそういうと、俺を人目のつかない廃屋の中(と言っても、ボロボロになったビルであるが)に連れ込んだ。
そして、彼はこういった。
「いやはや、助かりますよ!……ようやく、私の代わりに、異世界に行ってくれる人が見つかって!」
「……は!?異世界!?」
流石に突拍子もなさ過ぎて驚いた。
「いやいや、流石にラノベとか、アニメとかじゃないんですし、異世界なんて……」
俺はそういったものの、ローブの人物が杖を振りかざしているということ、そして、それと同時に、俺の足元に、紫色に光る、魔法陣のようなものが浮かび上がっていることに気が付いた。
理由は分からないが、身体が一切動かせなくなっている。
「お、おい!?これは、一体どういう……!?」
「頑張ってきてくださいよ~!私には任務が重すぎて、出来そうにもなかったので!……ああ、あの世界に名前なんて在りはしませんよ。この世界に、名前がないのと同じように、ですよ!」
「え、ちょっ……」
紫色の光が異様なほどに強くなり、俺は目を開けてはいられなくなった。
次に目を覚ました時。俺は、怪しげな魔法陣が描かれた床の上に立たされていた。先ほどまでいたはずの廃ビルではなく、ちゃんとした(?)儀式用の部屋らしく、天井にはシャンデリア、壁はしっかりと石で出来上がっている。
そして、何よりも違ったのは、周りに、白いローブを来た、杖を持った、5・6人程度の人間がいた、ということであった。
その中の一人が、こういった。
「せ、成功した……!本当に、呼び出せたぞ!」
その一言で、周りの人たちは、大声で狂喜した。




