魔王の欣幸
魔王編完結です!完結後にさらに番外編を2話。ちょっとだけ、未来のお話です。(詳しくは、活動報告にて!)
ユリと話し合い、活発過ぎる息子に、専属の世話係を付ける事にした。
オームの悪魔族からは、次期王としての教育を施す者を、フラーの不死族からは、身の廻りの世話や、礼節を教える者を、フェイの竜族とシャンの獣族からは、遊び相手に程良いまだ生まれて間もない者達を。
この様にしたのには、理由があった。・・・ユリの腹の中には、新しい生命が宿ったばかりだった。
息子の時よりも、悪阻が重く、食事も通らない日が続く事もある。その上息子の相手など、到底出来る筈もなかった。
しかしまだ幼い我が子にとっては、矢張り母の側に居られない日が続くと寂しいのだろう。不貞腐れ、甘え泣く事も多く、時には魔素を使い暴走する。皆扱いに苦労しているようだ。
「エルファス、まだ不貞腐れているのか?」
今日は朝餉の後から執務室に居る私の脚に張り付いて、もう一時以上も離れようとしない。
「エル様!父上様は、お仕事が有るのですよ。此方へ・・・。」
「イヤ!!」
世話係が引き剥がそうとするが、必死にしがみついてくる。
愛おしい。父も、ここしばらくはお前の母が心配でお前に構ってやれなかったな・・・。
「・・・退がって良い。仕事は後にしよう。エル、今日は父と四阿に行こう。」
小さな手を引き、中庭を歩く。小さな手で、嬉しそうに私の手を握る我が子のその姿に、私は既視感を覚えた。
(・・・そうだ。私も幼い頃、母の側に居られずよく泣いていた。そんな時に、私の手を引き四阿に連れ出してくれたのは、あれは、確か父上ではなかったか?)
無口で、感情をあまり表さない人だった。母上が亡くなられてからは、互いに歩み寄ろうともしなかった。だが、父上の手の温もりは覚えている。
「ちちうえ!あのしろいのは、なんというはなですか??」
「あれか?・・・あれは、確か茉莉花という花だ。」
「まちゅり、か?」
池の辺りに咲く、白い可憐な花。小さくて、今までは気にも留めていなかった。そうだ、あの花は母の名と同じ花。この世界で寂しがる母上の為に、きっと苦労して探し出したのだろう。あれを植えたのは・・・父上だった。母に贈ると、話してくれた。この花を美しいと言った幼い私に、父上は言った。
『セルファス、私は、女人を初めて、美しいと思った・・・まるでこの花の様に。』
父上は、あの時、笑っていた。土いじりなんて、した事も無かったのだろうに。汗をかき、手も衣服も泥だらけにして・・・愛おしそうに優しく花に触れた。
母が熱を出せば付きっきりで看病し、母を喜ばせる為に・・・いつでも母の為に・・・
(ああ、そうか。父上は、母上に確かに『恋』をしていた。心から母上の事を愛していらしたのだ・・・。)
ユリがこの世界に来て、城の様子も変わった。中庭は丁寧に手入れがされ、いつでも花が咲き乱れる。
「まちゅりか、きれいですね!」
「ああ、エルは、嬉しいか?」
「はい!だってちちうえがいっしょだから!」
私という息子が居て、父上も、同じ様に感じてくれていたのだろうか。愛しい妻と子が出来て、漸く私は父上の心も理解出来た気がする。
「セル様、エル!」
ユリが中庭の入り口から此方に手を振る。血色は悪くない。今朝よりも、大分体調が良くなった様だ。私は安堵する。
「ははうえーーーー!!!」
息子は、母の姿を見つけた途端に私の手を離すと、一目散に母の元へ駆けて行く。衣服が乱れる事など、構いもせず。仕方がないな。
「エル、朝はごめんね。もう大丈夫だから、今日はお昼ごはん、一緒に四阿で食べよう?」
ユリが手に持っていたのは、何時もの弁当。重い物など、持ってはならぬとあれほど私が申したのに!!
丁寧に包まれたそれを急いで受け取り、ユリと一緒に息子の手を引き四阿へ向かう。今日は陽射しも風も優しい。花の香りもする。
(・・・ああ、本当に心地良いな。こんな気持ちは、ユリが居なかったら知ることもなかったのだろうな。)
「セル様?何か、あったんですか?」
「いや・・・ユリ、ありがとう。」
「えっ!?なにが?」
「何でもない。・・・今日の昼餉も楽しみだ。」
笑う私に、ユリもつられて笑う。その様子をじっと見ていた息子が言った。
「ちちうえ、ははうえ、だいしゅきです!!」
ユリと出会えて良かった。私はいま・・・至幸を感じている。
欣幸 きんこう しあわせに思って喜ぶこと。




