魔王の感傷
ーーーーーーーパアッ
「うわあああああ!!!」
眩い光が拡がり、それと同時に、ユージが叫ぶ。一瞬、眩さに視界をやられ、何も見えなくなった後、光は段々と小さくなっていった。
・・・そして、光と煙が収まった時、ユージは消えていた。
「う、ぐ・・・」
成功した、のか・・・?
身体から、一気に溜まった魔素を放出した私はその場に崩れ落ちた。
「セル様!!!」
フェイとシャンに庇われる形で守られていたユリが、髪を揺らし、涙を眼に溜め、此方に駆け寄ってくる。
「・・・ユリ、無事、だった、か・・・」
横たわったまま、ユリに手を伸ばそうとするが、力が入らずに上げようとした腕は落ちてしまう。
「セル様!!わたしは、大丈夫です!!もう、しゃべらなくっていいから・・・」
「無事で、良かっ、た・・・」
ユリが私の手を握ってくれた。ああ、ユリの温もりだ。私は眼を閉じ安堵する。しかし・・・
「・・・・・すまない。お前を、元の、世界に帰し、てやることが、暫く出来そ、うにない・・・。」
ユリの、私の手を握る力が強くなる。
「そんなの・・・そんなのもう良いんです!・・・わたしは、セル様の妻、ですから!!これからも、わたしはセル様と、ずっと一緒に生きていくんです!!!」
ユリの言葉に驚き、思わず、閉じた眼を見開く。
・・・お前はそれで、良いのか?私の側に居てくれると言うのか?
ユリの瞳は、潤んでいるが・・・だが初めて会った時の様に、強い意志を湛えている。
「それで・・・お前は・・・後悔は無いのか・・・?」
「もちろんです!!セル様に忘れられるのも、セル様が理性なくなっちゃうのも・・・死なれちゃうのも嫌です!!!」
ユリが私の身体をきつく抱き締める。
それで、本当に良いのか・・・?私は・・・この娘を離さなくても、良いのだな・・・。
視界が滲み、私の眼から何かが流れた。この水は、何だ。・・・おかしいな、悲しいわけでも、辛く苦しいわけでもないというのに。ユリが悲しむ時にいつも流す『涙』とは、また違う。
・・・溢れる水を、私は抑えられない。愛しい者が側に居てくれるという、己の願いが、叶った歓び。ユリはいつでも・・・私に新しい感情を教えてくれる。
「だから・・・セル様、もう、休んで下さい!大丈夫です、きっと良くなりますから!!」
先程まで私を包んでいた黒い炎は、もう無い。
力が入らず、動けない私はユリに抱き締められたままで・・・そのまま意識を手放した私は・・・・・夢を見た。
見た事もない庭。花が咲き乱れる庭の・・・奥。城の四阿によく似た造りの、あの部屋の中に横たわる少女は、誰だ?少女の横顔は美しく、だが哀しそうだ。私はその面影を誰よりよく知っている。
・・・そうだ、あれは、私の母だ。・・・私の記憶の中の母よりも若い。静かな部屋で、母は一人きりだ。だが、時折眼を輝かせ、笑顔を見せる。誰かいるのか?
近付くと、そこには青年と呼ぶにはまだ早い、若い男が立っている。此方からは背中しか見えない。だが、母は嬉しそうだ。誰だ。母の掌に、男が何かを落とす。
あれは・・・紅い石だ。私の指環に付いている石。その事に気付いた途端、母達の姿は見えなくなる。
場面が突然変わった。今よりも昔だろうか、城に、赤子の泣き声が響く。黒い髪に、紅い瞳。赤子は母を求めている。あれは、私か?少しやつれた様子の母は、その瞳を見て涙を流す。・・・だが、愛おしそうに、赤子を抱き寄せた。またその姿が見えなくなる。
私もよく知っている、此処は、池の辺りの四阿だ・・・帰ってきたのか?しかしそこには私によく似た男が居た。その男は母の隣に腰掛ける。あれは・・・父だ。痩せ細り、儚い母に触れようとし、躊躇う。力無く落としたその手に、母の手がゆっくり重なった・・・。
(これは一体、なんだ。母の記憶か、それとも石の記憶か?)
暗闇の中で一人考える。何も聞こえず、何も見えない。
(私は、この暗闇で・・・一人だ。また・・・一人になってしまったのか・・・。)
どれぐらい時が過ぎた?永遠に、このまま暗闇で一人きりなのか?
・・・孤独に絶望し、暗闇の中を彷徨う私に、微かな声が聞こえた。
(誰だ?)
「・・・ル・・・ま・・・セル・・・様・・・セル様!!」
無邪気な、愛しい声。
(ああ・・・これはユリの声だ。)
光が此方に向かってくる。
ユリの声だと気付いた途端、私の中に様々な感情が押し寄せてくる。
これらの感情は・・・全て、ユリと出会ってから私が初めて知ったものだ。大切な、『心』は、全てユリが、教えてくれた・・・そうだ。愛しいユリ、ユリの元に帰らねば・・・
私は光を掴もうと手を伸ばす。もう少し・・・もう少しで届く。あと少し・・・
「ユリ・・・・・」
優しい光に、私の身体が包まれた。
感傷 かんしょう 物事に心を痛めること。心が感じやすく、傷つきやすいこと。




