魔王の切望
「我が王よ、曾祖父上様の書が、見つかりましたのでお持ち致しました。」
オームが差し出したその書には、曾祖父上が友人であったユージを心配し、力になりたいという言葉が書かれていた。
『人間であるユージの理性は、このまま行けばいずれ魔素の暴走によって、破壊されるであろう、それは、魔力を元々持たぬ人間が、己の限界以上の魔力を求めた代償だ。この世の物事の理には、総てにおいて常に対となるものが存在する。なれば、ユージの理性が全て消える前に、此方の世界に喚ぶと同じく還す事も可能ではないか』
「・・・召喚と、送還は、対になる、か。」
曾祖父上の書を読み終えた私は、卓上に積まれたオームの悪魔族秘術の書と、フラーの魔術書を眺め、読み返す。
(・・・それでは、召喚した時と同じ状況を創り出してはどうだろう。)
召喚の儀とは、異世界から此方へ来る際、喚ばれた人間に、膨大な負荷が掛かる。
負荷により、その肉体と精神体は破壊され、離れるか消滅しそうになるが、その様な事にならぬよう、予め魔方陣には人間の肉体と精神体の破壊を食い止め、修復する魔術を組み込んである。
然し、ユリが召喚された時に此方の世界に持ってきた薄い『すまほ』と言う板、それは壊れていなかった。他の荷物もそうだ。
それはつまり、精神体を持たぬ物質だけならば、異空間の移動において破壊されない可能性があるという事だろう。
その原理だと、人間の肉体という物質そのものだけならば、移動する事は可能だ。
(・・・それならば、肉体から精神体が離れず、修復出来る様にすれば良い。)
魔素は此方だけのもので、異世界には存在しない。あちらの世界に着いてから肉体と精神体が離れるのを防ぎ修復する事は遅い上に難しいだろう。
最悪の場合には、着いた瞬間にどちらか、或いは両方とも消滅してしまう可能性もある。
では、肉体と精神体をそれぞれ別に守り、そこに更に結界を張れば・・・魔素のないあちらの世界に着く瞬間にその結界が壊れるとしても、その身は守られた状態で移動する事になり、肉体と精神体は破壊されず、消滅する事も無いだろう。
精神体を持たぬ物質のみの移動が可能なのであれば、精神体の完全なる分身を創り出し、それを魔素のある依代に移し、そこに修復の魔術を組み込む。
そうすれば、修復の魔術により、もしもユリの精神体の本体に、何か起こったとしても・・・肉体と精神体が離れてしまうのも防ぐ事が出来るはずだ。
契約の腕環は、私とユリを繋ぎ、ユリの肉体そのものを守る。では、精神体の方は・・・以前送った首飾り、あれは魔石だから、それを依代にし、ユリの精神体の分身を修復の魔術と共に組み込めば・・・。
「オーム!フラー!居るか!」
(この原理ならば、ユリを還す事が出来る!)
私はオームとフラーを呼び、この方法をより完全なものにする為に、更なる議論を続けた。
・・・ユリには、母上の様な思いはさせたくないのだ。私は、どうなろうと構わない。だが、あの娘だけは・・・愛しいユリの笑顔だけは、何を犠牲にしてでも守ってやりたい。
切望 せつぼう 心から強く望むこと。




