JK、異世界に召喚される。
「・・・なんだ、コレは・・・。」
霧みたいな真っ白な煙の中で、大人の男の人の声が聞こえた。
冷たい声、だけど少し戸惑ってるみたいに聞こえる。何も見えない。
(・・・誰?っていうか何があったんだっけ・・・?学校行って、みんなとタピって、今日は楽しみにしてたマンガの新刊の発売日で、帰る前に本屋さん寄ろうと思って・・・)
シュウウウウウウ
煙が消えた、薄暗い。頭がぼーっとするけど、冷たい石の床に寝転がってるみたいだ。遠くに視聴覚室のカーテンみたいな真っ黒い布が見えた。服?ザビエルの絵みたいなマント・・・?
「子供、か?これは一体、どういうことだ。」
さっきと同じ、冷たい男の人の声。ザビエルマントを着てる人の声だった。
「だ・・・れ・・・」
(声が出ない、体が動かない。なんでーーー!?)
頭の中がパニックになってるわたしの後ろの方では、ざわめきが聞こえはじめる。
「黙れ、今すぐ答えぬか!」
ザビエルが怒鳴る。まだ視界はぼやけてる。顔も見えないけど。ざわめきがぴたっと止んだ。
(声はイケボかも・・・。)
静まり返った室内?の後ろからおじいさんの声が聞こえた。
「・・・恐れながら、我が王よ、その娘こそ貴方様の妻となられる方で御座います。」
(は?なにこのファンタジーなセリフ・・・夢?)
これは、夢??陰キャな大学生のお兄ちゃんがやってたゲームの世界か、マンガの世界か、そもそも本屋さんに行こうとしてたところから記憶がない、わたし、死んじゃったのかな、いや死んだ記憶すらない。
(なんなの!?なにがどうなってるのーーー!?)
またザビエルが怒鳴った。
「そんなことは解っている!そうではない、まだ幼い子供ではないか!」
(はあ!?それわたしのこと!?これでもJKなんですけど!!)
さっきよりも、ゆっくりと、諭すようにおじいさんが静かに話し出した。
「我が王よ、この娘こそ、確かに奥方様に間違いは御座いません。我らの召喚の術は神の御業にも引けを取らぬ完成度。人間供の真似事とは違い、間違いなどあろうはずが御座いません。・・・成人はしておらぬ様ですが、娘の歳は十六。契りを結ぶには問題無いかと。先々代の王妃、貴方様の御祖母上様がこの城へ嫁いできたのもその歳のことで御座いました。」
「・・・昔とは時代が違うだろう。このように幼くては、我が妻として務めなど果たせぬのではないか、親元に帰りたいと騒ぐのではないか。」
深いため息をつきながらザビエルがとんでもない事を言った。
「・・・ッ妻・・・って、ど、ういうことですかーーー!?」
声が出せた!遠くの椅子に腰掛けてるザビエルがこっちを見たのが分かった。視界もはっきりしてきた。ザビエルは・・・女の人みたいに肩まである長い髪、黒くて・・・背は高そうだ。長い脚に、すらりとした身体。マントを着てるからあんまりよく見えないけど。顔は・・・イケメンだ!!顔が良い。友達に教えてもらったK–POPのアイドルみたい!いや、アジア人じゃないのか?少し切れ長の目は赤く光ってて、スッと通った鼻筋に、形の良い唇、イケメンっていうより、神?・・・尊い。今まで見たこともないような美しい顔立ちの人が、わたしを見つめて・・・る!!!
「目が覚めたか・・・。」
ザビエル、いや、神サマが眉をしかめながら美しい顔でまたため息を吐いた。
「・・・では如何致しましょうか。我が王が気に入らぬと申すのであれば、地下牢にでも閉じ込めておきましょうか。」
今度は学校の先生みたいな、よく通る声。おじさん、とまではいかないけど、なんか怒られたくない年上のお兄さんみたいな。
後ろを振り返ろうにも、身体はまだ言う事を聞かない。っていうかいま地下牢って聞こえた?・・・言ったよね!?
「気に入らなかったのではない。幼さに驚いただけだ。手荒な真似はするな。地下牢ではなく、妃の部屋に連れて行ってやれ。混乱しているようだから、泣き騒がれても困る、落ち着くまで、この娘の声は私が預かろう。それから勝手に城の外に行かぬように、契約の腕環を着けさせろ。」
「はっ、我が王の仰せのままに。・・・お連れしろ。」
喉が光ったと思ったら、また声が出なくなった。なにが起こってるの!?動かない身体の上に、バサッとなにかシーツみたいなものが掛けられた。それからすぐに眠気を感じて、意識がまた遠のいていった。
JK語広辞苑 令和二年監修
タピる タピオカを飲む様
イケボ 良い声、ないし心地良い声の略語
影キャ 姿形の様、大人しめの性格などを表す用語 対義語 陽キャ、ないしパリピ
JK 女子高校生の略語 読みジェーケー
顔が良い 顔立ちが整っている様、同義語 かっこいい、ないしイケメン
尊い 価値がある 類義語 好き