物語の始まりは。
「ちちうえ、このごほんがいいです!」
寝台の上で、寝支度を整えた息子が、一冊の御伽草子を差し出す。
隣では、愛しい妻が、まだ生まれて間もない娘を寝かしつけているところだ。
「またこれが良いのか?まだ意味も理解出来ぬというのに・・・分かった。だが、話が終わったら、直ぐに寝るのだぞ。」
「はい!」
黒髪に、紅い瞳。私に良く似た我が子。笑顔は妻によく似ている。愛おしいな。
古びた書物を捲る。題名は消えかけていて、読めない。表紙のところに、妻の故郷である、異世界の日本語という言葉で『かつらぎ』と書いてあるのが辛うじて読めるだけだ。ある日中庭で遊んでいた息子が見つけ出してきた。池の辺りで拾ったという。
その書物は、妻によると、妻が異世界でよく読んでいたという書物に、よく似ているそうだ。所々に挿絵があり、自分では読めもしないというのに、その日から息子の宝物になった。
この書物は、恋物語だ。一人の孤独な魔王と、異世界から召喚された娘の。
不思議だが・・・ここには私達の物語が書かれている。
始めの頁を開き、寝台の横の椅子に腰掛ける。息子は紅い瞳を輝かせている。
「物語の始まりは、遠い昔のこと・・・」
・・・創造主が世界を作った、人間と妖精、亜人を作って500年様子を見たが、やがて争いを始めた。
次に創造主は、魔物を作って放しさらに500年様子をみたが今度は弱い人間が絶滅しかけた。
そこで、魔族のなかで一番強いものを魔王にし、不老不死の命と理性を与えた。
名もなき魔王は1000年均衝を保ったが、孤独だった。
しかし伴侶を得ると不老不死の命を失う。
かわりに、己と同じ魔力を持つ子孫を残すことが可能になったが、力の均衝の為に、伴侶を魔族からは選べない。
しかたなく魔王は人間から生け贄にした娘を伴侶にした。
人間の娘を伴侶にしても、愛し方を知らなかった魔王は、三人の娘を伴侶にし、子を得たあと直ぐに娘達を殺してしまった。
四人目の生け贄の娘は人間界で聖女と呼ばれた娘だった。
聖女は、魔王から他の娘達の命を救うため、自ら妻になり、魔王に名を与え、愛を教えた。
愛し合う二人は、四番目の子を授かり、幸せだった。魔王の子は、人間と人間の娘を愛したが、そのせいで魔王を恨む人間達との間で戦争が起きた。
戦争によって多くの命が失われ、最後は魔王と聖女自らが事態を収めるためその命を捧げ、休戦になった。しかし、長かった戦の影響でひとつの大陸は四つに割れた。残された四兄弟は魔王と聖女の遺志を継ぎ、東西南北四つに割れてしまった大陸を、それぞれ治める事にした。そして、盟約を定めた。
・・・妻は異世界から召喚すると。




