日常と変化
なし
暗い視界から一気に明るい世界に引き戻される。
眠りから覚める感じだ。いや、むしろそう言われるそれだ。
そっと、重たいまぶたが開き、自分から見える視界を眼球と首を動かして確認する。
保健室か?
そう理解し、重い体を起こす。どうやら僕は吹き飛ばされた後、意識を失っていたらしい。運んでくれたのは集かな。
ベットから下りると養護の先生がカーテンを開ける。
「あ、起きた?えっと、高坂志麻くんよね?」
「はい」
「柏崎さんに蹴り挙げられたんだって?頭とか大丈夫?」
それはどういう意味で聞いているのだろうか?若作りした表情からはそれは読めない。
「それなりに正常です」
「そう?それならよかったわ。もう始業式も終わってるから早くホームルームに向かいなさい」
「そうですか。それでは失礼します」
「ええ、今度は蹴飛ばされないようにね」
「気をつけます」
僕がおかしいのか、この学校の常識が狂ってるのか、少なくとも中学の時はこんな事なかった。
僕はのろりと階段を上がり、四階の一年の教室が立ち並ぶ廊下を歩く。
まだざわつきが鳴り止まない廊下は緊張と期待が入り交じっていた。そんな中、前から心咲が歩いてくる。僕に気づいて早足でこちらに向かう。
「兄さん、大丈夫?」
「ああ、蹴られたこと知ってるのか?」
「うん、なんならその現場を靴箱で見てた」
「そっか、恥ずかしいところ見られたな」
「それより兄さんとは別のクラスになっちゃったね」
それよりは酷いな。結構痛かったんだぞ。少なからず気絶するくらいには。
「そうだな。心咲は僕の隣のクラスだったか?」
「うん。一つ隣。また帰りは一緒に帰れるね」
「そうだな。ホームルーム終わるの遅い方の教室で待つってことでいいか?」
「わかった!またね」
そう言い残してパタパタと去ってしまう。なんか、あいつは兄妹の前と僕単体の前では全然印象が変わる。女って不思議だな。
そんなことをボケた頭で考えながらホームルームに向かう。
「よっ志麻。平気だったか?」
「お前は人を運ぶだけ運んですぐ教室向かいやがって」
机に持たれつつ周りの男子数人と話していた集が僕に気づき、集団から抜けてこちらに来る。
「お前が丈夫なのは知ってたし、車に跳ねられても平気なやつを心配するより、高校での新しい友好関係の方が大切だろ?」
「外道め」
ぽつりとこぼして黒板に書かれてる自分の席に向かう。窓際の一番後ろ。最高の席だ。
車に跳ねられても生きていたのは自分でもびっくりした過去。
それは超能力者だからなのか、はたまた僕が特殊なのか、それは分からない。
今更ながらに気づいたが、みんなこそこそと僕を見ながら何か話している。
廊下側の前の席には僕を蹴飛ばした主犯はみんなに囲まれながらこちらを見向きもせず会話していた。
僕はみんなから向けられる視線を無視して、窓の外の風景を眺める。
この席から見える景色を僕は嫌いじゃない。
中学の時も小学生の時も変わらないこの気持ち。
今度はこの景色が日常になる。
大きな変化ではあるが、あの日の変化に比べれば大したことはないのだろう。
なし