さくらと雑草
桜の花びらが僕達を祝うように舞い散っている。
春と言えばどんな花を想像する、と訊かれた時、きっとほとんどの人は"さくら"と答えるのではないだろえか。
春に咲く花はさくらだけじゃないのに。
春にしか咲かない花だってあるのに。
それでも人はキレイで目立つものを覚えてくれる。
僕は、きっと春の花に例えるとなんだろうか?
━━━━━━━━━━雑草、なのかもしれない。
僕にとって春は悲しい季節だ。
世間一般では冬を悲しい季節と見るのではないだろうか。
別れの季節、冬。
僕にとって別れは決して悲しいものではない。
別れてよかったと思えることだってある。
そんな季節と情緒を混同させながら、新しい下駄箱を開けた時だった。
「よっ、志麻!久しぶりだな」
強く背中を叩かれて後ろを振り向くと、中学からの連れである集が笑顔を携えていた。
新田集。
僕にとっての唯一の友達と言える人物だ。
"青春"という文字が良く似合うニューDK(男子高校生)である。
「久しぶり。まさか集が受かってるなんて思ってなかったよ」
「なんだよ〜開口一番それって〜。ま、でも奇跡だよな、今考えたら」
「奇跡か。確かに受験終わった時の集の顔、人生終了みたいな顔してたもんな」
そう、集は確かに雰囲気から表情から青春を醸し出すような男だが、勉強に関してはからっきしダメだ。高校受験前日まで熱心にクラスメンバーと勉強会をしていたのを覚えている。もちろん僕も参加していたが、集に関しては推薦組と喋っていた姿しか記憶していない。
結果、夜中に僕と勉強することになった。
それでも受かったのはよかったと思う。
また一人ぼっち生活に戻るのもきつかったからな。
別に一人が嫌というわけではない。
だけど、集団で行動するのも苦手だ。
行き着いた結論として、僕はきっと目立たない2,3人くらいのメンバーでいるのが一番落ち着くという事だ。
「さってクラス発表されてるっぽいし、早く見に行こーぜ」
集はさっさと靴を履き替えて、小走りで掲示板へと向かった。
僕もマイペースに集の通った道を辿った。
「集、どうだった?」
「おっやっと来たな。ほら見てみ。志麻と俺、一緒のクラスだぞ。なんならあの柏崎姫とも一緒だぞ!」
集は指を指しながら興奮を抑えきれないようだ。
「柏崎、姫?」
「お、おい·····じょ、冗談だろ?あの柏崎姫をしらないのか!?」
集の悲壮な表情と僕の肩が乗せられた集の手に握られてめちゃくちゃ痛い。
「男の妄想を体現したようなあの美少女、柏崎吹姫を知らないのか??貴様はなんのためにこの高校に通ってるんだ!!」
目が血走って怖い、というか素でやばい。
「いや学校は勉強するために来てるんだろ」
「勉強など青春、恋愛の次なのだ!青春、恋愛を置いて学校というものは存在してはならないのだ!!それを貴様はっ!!猛省しろぉぉ!!!」
「分かった、分かったからその血走った目と血管がはち切れんばかりの手を俺の首に向けるな」
なんとか集の怒りもとい変態熱を冷ましてから再度訊いた。
「それで、柏崎、さんって誰なんだ?」
さすがに、人の名前の語尾に"姫"を付けるのは抵抗があった。
「柏崎姫ってのはな·····」
と、集が話そうとした瞬間だった。
「おい!見ろよ!」
「柏崎姫だ!」
「すげぇ、やっぱ美人だな」
周囲が一斉に僕が歩いてきた下駄箱方面を見ていた。
野次馬はまるで見えざる力に押されるように壁に寄り添って、通路を空けている。
その源流にいたのは、正しく美少女だった。
「お、おい、志麻!何してんだ!下がれって!」
「えっ?」
集に言われて周りを見てみると、僕以外全員が壁際に下がっていて、空いた通路にいたのは僕と柏崎さんだけになっていた。
柏崎さんと僕の距離が5メートルを切った。
「あなた、どうしてそこを退かないの?」
キレイな声が全体を震わせた。
「あぁごめん。僕、そういうルールだってこと知らなくて」
傍目に映った集はガクガク震えていた。他の連中もそう見えた。
「そう」
1つ返事を返して下を向いた柏崎さん。分かってくれたかな。
「分かってくれるか?ありが·····っ!!」
礼を言おうとした時、顎に強い衝撃を感じて僕は空中に浮いていた。
ドサッて床について僕は意識を失った。