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セントティーナの夜  作者: たむ
アラルス編
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少女の願い

 とりあえずトーダがその女の子を抱っこし、部屋の中へ招き入れた。

女の子の見た目は白くてふわふわなヤギ獣人だ。

「で、宝石が欲しいのか?」

トーダが切り出した。

「はい。あの…五日後、私のママの誕生日なんです。最初はネックレスをプレゼントしようかと考えましたが、

宝石が手に入ったとしても加工できる人がいなくて…せめてきれいな宝石をと…」

三人はうなずく。

「あ、そういえばまだ自己紹介をしていませんでしたね。私の名前はニーナと言います。年齢は十歳です。

このアラルス村で父と母、三人で暮らしています。」

…やはりこっちの世界だと見た感じの年齢が分からない。

「じゃあ、今度はこっちが自己紹介するね。僕はクーロ。よろしく!」

「私はティラ。よろしくね!」

「俺はトーダ。よろしく!」

互いに名前を知ったところで話を本題へと戻す。

「宝石が取れる場所とかは分かる?」

「はい。アラルスとバーサルをつなぐ道のはずれに洞窟があるらしくて…数十年前までは大人たちが採掘に行って

村の特産品にしてたみたいなんですけど、ある時からモンスターが出るようになって中止になってしまったみたいです。」

「モンスターか…」

トーダは苦い顔をした。

「やはり、ダメでしょうか?」

ニーナは不安な顔をしている。

「いや…僕たちはモンスター狩りみたいな依頼はあまり受けたことがなくて…ちょっと考えさせてもらってもいいかな?」

「…分かりました。」

三人は一旦部屋を後にし、会議を始めた。

「まず最初に多数決を取ろう。この依頼を受けたい者は挙手を。」

腕が二本と翼が一枚。

「はは、やっぱりな。」

トーダがにこ、と笑う。

「当たり前よ。」

「でもどうしよう。僕たちだけでモンスター倒せるかな?」

「そうだな。それが一番の問題だ。どのくらいの強さなのか知りたいな。」

「出発はいつにする?」

「そうだな…」



 こうして細かいところまで打ち合わせを行い部屋へ戻った。

ニーナは窓際の椅子に座り空を眺めていたみたいだが自分たちに気づいた瞬間立ち上がった。

「あの!それで…」

「ああ、引き受けるよ。」

その言葉を聞いた瞬間、ニーナはぱあ、と顔を輝かせた。と、その後また不安な顔に戻ってしまった。

「まだ不安なことでも?」

「はい…あの…料金はいくらでしょうか?」

そうか。

 僕たちは料金は取らないつもりでいた。でもさすがにこの後の生活が苦しくなりそうなので

自分たちもその洞窟で宝石を採って次の町「セラス」で売却しようという考えに至った。

「お金なら心配要らないわよ。」

「え…」

ティラが胸を張りながら言った。

「なんと無料で引き受けちゃいます!」

「え?…ええっ!」

ニーナは驚き、口に手を当てた。

「そ…そんな…わ、悪いですよ!」

トーダがあたふたしているニーナを落ち着かせるために説明を入れる。

「俺たちもついでに宝石を採ってきて町で売ることにしたんだ。」

「はあ…なるほど。けど本当によろしいのでしょうか?」

「いいのよ、いいのよ。お母さんを喜ばせてあげて。」

ティラは少し悲しそうな顔をしながら言った。

自分もその思いに共感する。

「わ、分かりました。みなさん、ありがとうございます!」

ニーナは深く頭を下げた。

「それでニーナさん。その洞窟について詳しく知っている人はいますか。」

「ん~だいたいの大人は知ってると思いますが…やっぱり一番詳しいのは村長ですかね。」

「わかった。それじゃあティラ、トーダ、早速村長さんのところへ行こう!」

ドアがある方へ向きを変え、足を一歩前に出したところで茶色い翼に進路妨害された。

「クーロ、時間。」

自分は懐から懐中時計を取り出すと午後六時前。

「さすがにこの時間じゃ悪いわね。」

「うむ。明日の朝に行こう。」



 翌朝。

現実世界の方でも特に変わりはなく、またこの世界に来た。

…それにしてもお腹がすいた。まさかあんな少ない量だったなんて…

 昨晩の夕食はティラの予定通り自分は最安のコースだった。

運ばれてきた料理は一目で分かる草食獣人向けの料理。まあ一言で言ってしまえば草。

肉食獣人の自分でも草は食べられないわけではないが、辛い。

ティラとトーダもこの現状に気まずい顔をしていた。

 そして最終的には二人とも食べ物を分けてくれたがそれだけでは物足りなかった。



 そんな回想をしているとティラが起きた。

「んん…クーロ…おはよ…」

「おはよ。」

ティラは目を擦りながら聞いてきた。

「ねえ…昨日のこと怒ってる?」

自分は少し間を空けてから言った。

「いや、怒ってないよ。そもそも悪かったのは自分だしね。」

「…ごめんね。」

「いやいや、そんな気にしてないって。」

「…あのね…朝食は最上級コースをこっそり頼んだの…クーロの分だけ…」

「え!?それはうれしいな!」

思わず尻尾がぶんぶんゆれる。

「ありがと、ティラ。」

自分とティラはお互いに両腕を広げ、抱き合った。


「まったく…朝から何をやってるんだか。」

二人はその声を聞き、とっさに離れる。猫の機敏さで。犬の素早さで。

「と、トーダ!…いつから起きてたの…?」

「んーそうだな…最初からだな。」

「最…初…から?」

ティラはそうつぶやくと疾風のごとく部屋を出て行ってしまった。

そしてトーダが一言。

「…そこはドアじゃない、窓だ。」

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