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セントティーナの夜  作者: たむ
アラルス編
6/36

アラルス村

 穏やかな日差し。心地よい風。暑くも寒くもない気温。

こんな日は誰でも仕事を放り出して昼寝をしたいものだ。

と、いうことで能動的に昼寝をしている訳だが何事もいつかは終わりが来る。

「ちょっと!そろそろ出発するっていったでしょ?準備しなさい!」

尻尾を軽く引っ張られる。

「んん…分かったよ。」

勇気を振り絞り上半身を曲げる。が、そのまま寝てしまいそうだ。

「ティラはネコ族なのによく眠くならないね。」

「ネコ族が全員眠るのが好きなわけじゃないのよ。」

そういってスタスタと行ってしまった。

自分は頭を掻き、そして立ち上がった。

気を引き締め直し、足を一歩前に出した。

さあ、目指すは次の町、「セラス」だ!



 「次の町までどれくらい?」

自分は現世でいうラバみたいな動物、荷物係「ラパ」の手綱を引きながら聞く。

「そうだな…このままのペースでいくと三日、四日ぐらいで着くだろう。」

ピー、とラパが鳴いた。

「て、言うことは最低連続三日は野宿かぁ~」

ティラが深いため息をついているが隣を見るとトーダがくすくす笑っている。

「…トーダもできればベットで寝たいでしょ?」

「ああ、そうだが…ごほん」

トーダは咳払いをしてから続けた。

「この先村が無いとは誰も言っていない。」

ティラははっ、と顔を上げる。

「じゃ、じゃあ…」

「ああ、明日の夜はそこの村で一泊しよう。」

「やったあ!」

ティラはネコ特有の高いジャンプをした。

「クーロもそれでいいよな?」

「もちろん。」

 隣から今日野宿したら明日はベット、今日野宿したら明日はベット、という独り言を聞きながら

三人は歩き続けたのであった。



 「んん…」

現世での仕事を終え、「ヴィーリアス」での朝を迎えた。空はまだ薄暗く二人はまだ寝ている。

普通ならここで二度寝するべきだが、自分の場合は現世に戻ってしまうので起きていることにした。

「…とりあえず顔を洗うか…」

野宿した場所は近くに川が流れている。二人を起こさないようゆっくり歩き、川のほとりに着いた。

手で水をすくい顔を洗い始める。

「冷たっ!」

思わず顔をぶるぶる横に振った。

「うへ~やっぱり秋になると早朝は冷えるな。」

そしてもう一度顔を洗おうとしたそのとき、川の対岸で何か動いたような気がした。

すくった水を落とし、とっさに剣に手をかけた。が、誰もいない。

「この辺はモンスターが少ないってトーダに聞いたけど…自分の見間違いか…はたまた害の無い野生動物か…」

数分間向こう岸を見つめていたが変化は無かった。

「ふう…まだ疲れが取れていないのかな。」

 ティラが誘拐された事件から今日で二週間経つ。事件後、数日間休んだのち軽い依頼を少し引き受け、

達成してから町を出た。

「またあんなことが起こらないようにしっかりしなきゃ。」

 気合を入れ直すためばしゃばしゃと何度も顔を洗ったのだった。


 野営地に戻ると二人はまだ寝ていた。バッグの中から懐中時計を出し、蓋を開けると午前五時半。

大体六時には起きだすのであと少し。

 特にやることも無いので座って周りの風景や二人の顔を眺めたりしていた。

…あ、そうだ。やることがあった。火をおこすために枝を拾わなきゃ。

自分は立ち上がって辺りを見回た。幸い辺りには使えそうな枝が大量に落ちていた。

「…おいしょっと」

一通り枝を集めると後ろから声が聞こえた。

「朝からご苦労さん。ありがとよ。」

「あ、トーダ。おはよう。」

「おはよう。」

と言うのと同時にティラがトーダの影からひょこっと出てきた。

「おはよう、クーロ。」

「おはよう。」

「そんじゃあ、火ぃおこして飯とするか。」

「うん!」

二人は元気よく頷いた。



 目的の村「アラルス」はそこまで遠くは無かった。

「あ!あれがアラルス村?」

「恐らくそうだな。」

「思ったより早く着いたね。まだお昼前だ。」

外見は貧弱そうな柵が村を囲っており、その中に家が数十軒ほど立っている。

また、畑や家畜小屋などもあり大人は農作業、子供たちはその周りではしゃいでいた。

 村の入り口付近まで行くと農作業をしていた村人が気づき手を振った。

「おーい、旅の方かね。何か御用かな。」

「はい、できればでいいのですがこの村で一泊したいのですが。」

六十歳くらいの犬老人はタオルで顔を拭いてから答えた。

「一応この村、アラルスにも簡易的な宿屋はあります。案内しますよ。」

「…よし!」

また隣から何か聞こえた。

「ありがとういございます。」

三人は頭を下げお礼を言って老人の後について行く。

「申し遅れましたが私はジルといいます。以降お見知りおきを。」

ジルは振り向いて軽く頭を下げた。

「自分はクーロと言います。そしてこちらがティラ、トーダーです。」

「よろしくお願いします。」

軽く挨拶を済ませ、村の中を歩いていると子供たちに話しかけられた。

「ねえねえ、どっから来たの?」

「私たちはね、バーサルから来たのよ。」

「バーサル!バーサル!お店いっぱいある!」

一人の子が飛び跳ねる。

「それでどこに行くの?」

「セラスよ。」

「セラス!セラス!もお店いっぱい!」

先ほどと同じ子がまた飛び跳ねる。

「こらこら、お客様なんだから静かにしてなさい。」

「いえいえ、大丈夫ですよ。」

ティラは微笑んだ。

 そして子供たちと別れ再び老人の後をついていくとある一軒の家に着いた。

「ここがこの村唯一の宿屋です。あ、そちらのラパはあの小屋へ。」

ラパを小屋へ預け、宿屋へ入る。

「シーラさん、シーラさん。」

少し間が空いて声が聞こえた。

「はーい、ちょっと待ってね。」

奥から出てきたのはネコ獣人のおばあさんだった。

「ジルさんごきげんよう、あら?」

「はじめまして、トーダといいます。」

「クーロです。」

「ティラです。」

おばあさんはにっこりして言った。

「私はシーラ。この村で宿屋を経営しているわ。とはいってもあまりお客さんが来ないからもっぱら

農業が主業なんだけどね。」

「確かにバーサルとセラスはそこまで離れていませんからね。野宿で済ませる人が多いのか。」

トーダが興味深そうに考える。

「自分とトーダは野宿でも良かったんですがティラがどうしてもベットで寝たいと言うので…っ!」

何者かにお腹の肉をつままれている。

「ふふ、そうよね。乙女は毎晩ベットで寝たいわよね。」

つままれた方角を向くとティラが恥ずかしそうにうつむいていた。

「えー…ごほん。私たちは困ったことを解決する仕事をしているのですが…

何かお困りなことはありませんか?」

ジルとシーラは顔を合わせる。

「うーん、困ったことねぇ~」

ジルが髭を触りながら遠くを見る。

「…今のところ村全体で困っていることは無いわね。けど個人的な問題で困っている人はいるかも。」

「分かりました。…あの荷物を宿に置いたら村長にご挨拶したいのですが。」

ジルとシーラはくすっと笑った。

「あら、村長なら目の前にいるわよ。」

とシーラが言うとジルが話し始めた。

「私が二十代目アラルス村長、ジル・ヘハインドです。」

自分とティラは尻尾に、トーダは翼に驚きが出てしまった。

「あなたが村長さんでしたか。」

「いやはや、伝えるのを忘れてしまってすまない。」

「いえいえ、改めてお世話になります、村長殿。」



 一行は部屋に荷物を置き、村の中を見て回ることにした。

村民は赤ん坊から老人まで幅広い世代が暮らしており現世でいう少子高齢化は起きていないようだった。

また、村ということもあってのほほんとした雰囲気だ。現世で仕事が辛い自分にとっては癒される。

「う~ん、何か問題を抱えている人はいなさそうだな。」

「まあ、何もないのが一番よ。」

ちょっと意地悪したくなるのは自分の悪い癖。

「じゃあベットも無くていいんじゃない?」

むに、と尻尾をつかまれた。

「何か言った?」

トーダはまたか、とばかりに翼を顔に当てた。

「いや何も。気のせいだよ。」

「このネコミミを誤魔化せるとでも~?」

一段と尻尾を掴む力が強くなる。

「いてて、トーダ、助けて…」

「…トリ族の俺でも聞こえたぞ。」

「なんて?」

自分はトーダと視線を合わせ必死に目配せした。

「それはだな…」



 村を一通り回り宿屋に戻ってきた。

「シーラさーん。」

シーラさんはちょうどカウンターにいた。

「あら、何か御用ですか?」

「今夜の夕食プラン変更したいんですがー。」

シーラさんは時計を見る。

「ええ、大丈夫よ。どのコースに変更します?」

渡されたメニュー表を見てティラは迷わず最上級コースを指差した。

「このコースを二人分。で、もう一人は…このコースで。」

どうやら自分は最安のコースみたいだ。

「え、ええ…。なんか…大丈夫ですか?」

この「大丈夫ですか?」には色々な意味が込められているはずだ。

「エエ…ダイジョウブデス。ゼンブジブンガワルインデス…」

「そ…そう。」

ティラはるんるん気分で部屋に向かってしまった。

「すみません、よろしくお願いいたします。」

トーダは丁寧にお辞儀した。

「ちょうど今から準備しようとしてたところだから。平気ですよ。」

二人は軽く会釈し部屋へ向かう。

「トーダ、空気読んでよ。」

「前から言ってると思うが俺は嘘をつかない主義でな。」

「そんなぁ~」

「それよりも自分の言動について反省したらどうだ。」

「うぅ…」

そんな会話をしている間に部屋に着いてしまった。

「よ、お疲れさ…」

「ティラ、ごめ…」

二人とも言葉が途切れてしまったのは予想外の光景を見たからだ。

ティラと五歳、六歳くらいの少女が窓を介し話をしている。

「あ、クーロ、トーダ。なんか部屋に着いたらこの子が…」

少女と目が合った。

「あ、あの、お願いがあります!ほ、宝石を採ってきて欲しいんです!」

「…はい?」

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