救出
階段はそこまで長くはなく、降り始めてから三十秒ほどで着いた。
辺りはところどころにたいまつが設置されており、視野に関しては問題はなかった。
まあイヌ科は夜目が効くからたいまつなど必要ないが、トリ科のトーダにとってはありがたいことだろう。
そして目の前には扉が一つ。
「それじゃあ、開けるぞ。まだ敵がいるかもしれないから剣に手をかけておきな。」
シェバはそう言ってゆっくりとドアノブに手をかけた。ゴクリ、と唾を飲み込む。
「…む?鍵がかかっているな。」
もう少しでティラに会えるのに…がっかり。
「じゃあ鍵を探すか。」
そう言って後ろを向いた途端、背後からすごい音が聞こえた。何かを壊したような音だ。まさか…
慌てて振り向くとドアノブ部分が完全に破壊されていた。
「探す必要は無いよ。」
「ちょ、…さすがにやりすぎじゃあ…」
自分が戸惑っているとシェバが言った。
「それより、目の前を見た方がいいぜ。」
開かれたドアの先、部屋の中を見る。そこにはなんとティラがベッドの上で横たわっていた。
「ティラ!!」
自分は急いで彼女の元に駆け付け、体を揺さぶった。
「ティラ!ティラ!」
しかし目を覚まさない。
「そんな…もっと早く…見つけられれば…」
目から雫が流れ始め、やがて川となった。どんどんと水量は増える。
「ちょっとどいて。」
シェバはティラを抱き寄せ、呼吸を確認した。
「クーロ、大丈夫だ。ティラは眠っているだけだ。」
「へ…?」
確かに落ち着いて耳を澄ませばティラから呼吸音が聞こえる。
「もうちょっと様子を見てみよう。」
「…うん。」
それからシェバは一階で気絶または眠っている三人の悪事を町長に知らせるため、
居なくなってしまった。残ったのは自分とトーダの二人。
ティラは特に怪我をした様子もなくスースーと静かに音を立てて眠っているようだった。
だが、外見は異常なくとも体の内部は分からない。
毒薬を飲まされて白雪姫みたく目を覚まさないのかもしれない。
「…まあ顔色も悪くないから大丈夫だろう。」
「…許さない…」
自分はティラが目を覚まさないというもどかしさでつい口走ってしまった。
「そんな焦るな。確かにあいつらがやったことは許されない行為だが…」
「だが?」
トーダは咳払いをしてから真剣な眼差しでこう言った。
「まさかこのままティラが目を覚まさなかったら三人を殺すとか思ってないだろうな?」
「…っ!」
「いいか、よく聞け。シェバが戻ってくる間に三人を殺害し、急いでこの町を出ることも可能だろう。」
自分は、はっと顔をあげた。
「だが俺たちには明日がある。明後日がある。人を殺した、という過去を背負って生きていくだなんて俺はごめんだ。」
「トーダに復讐心はないの?」
トーダは視線をティラに移した。
「いや、あるさ。俺だってあいつらをひっぱだいてぶん殴りたい。けどな…今後のことを考えるとな…」
トーダの目から雫がこぼれ始めた。
「そんな…!」
自分はへとへとと座り込んでしまった。
それからは沈黙の時が流れた。
自分はちらちらとティラを見ながら体育座りでじっとしていた。
三十分ぐらい経ったのだろうか、地下室のドアが開いた。
「お、二人とも…まだティラは目を覚まさないんだな。」
シェバが話かけてきたが二人とも答えなかった。
「…上にいた三人は町長に引き渡した。これでティラが目を覚ませば一件落着なんだが…。」
シェバは自分とトーダを交互に見た。
「…どうやら二人の間でひと悶着あったようだね。しょうがない。あの手を使うか。」
シェバはそう言うとバッグの中から現世でいう猫じゃらしみたいな植物を取り出した。
「…え…まさか…」
「そのまさかだよ。」
「お、おい!」
唐突な展開についていけず固まってしまった。
「ほ~ら、こしょこしょ~」
シェバは猫じゃらしでティラの鼻をくすぐっている。
「や、やめろ!」
やっと理解が追いついた自分とトーダは止めに入った。
「ん、もうちょっとだから、ねえ、」
シェバも抵抗して三人が取っ組み合いになった。
「おい、さすがに強引だぞ!」
「そうだよ!」
「は、はっくしょん!!」
「しかも、シェバがくしゃみして、どうするんだよ!」
「そういえば自分、植物によっては、くしゃみが、止まらなく…ってあれ、俺、くしゃみして、ないよ。」
「え…」
時が止まったかのように三人は固まった。
「はーくしょん!はっくしょん!…うぅ…」
「え!ティラ!?」
「あれ…ここは…?確か私…捕まって…あっ!」
「ティラ!ティラ!」
自分は思わず抱きしめてしまった。
「っ…ちょ…苦ぢい…」
「よかった、本当によかった。」
トーダは翼を広げ二人を包んだ。
「ふっ、ようやくハッピーエンドだな。」
ピッ!ピッ!ピッ!ピッ!
あれ?
ピピッ!ピピッ!ピピッ!ピピッ!
まさか…!?
ピピピッ!ピピピッ!ピピピッ!ピピピッ!
ばしっ!
目覚ましを止めた。
「…そうか…寝ちゃったのか…」
今思えば(向こうの世界で)全く睡眠をとっていなかった。
「もっとティラと話したかったけど…まあいっか!」
自分はさっさと身支度をし、夢も希望もない会社へと向かった。
「よし、オーケー。」
「ありがとうございます。」
やっとエビデンスの許可を貰った。いや~大変だった。
「あ、かわいいですね。そのネックレス。」
「あら、ありがとう。このネックレス旦那に買ってもらったの。」
自席に戻ると前の席の女性社員二人が話をしていた。
「うちの旦那はプレゼントなんてくれやしないわ。そうねぇ…最後は結婚指輪かしら。」
自分は半分仕事、半分聞き耳を立てていたがぎょっとして手を止めた。
なぜならその女性は今年で五十歳になるからだ。
「ええっ!!それはひどい!」
「ははっ、嘘、じょーだん。」
「も~」
真実が分かったところで仕事に戻る。
あ~あ、このペースだと今日も残業だ。
くたくたになって家に着いた。時計を見ると午後十時半。自分の家は会社からそこまで離れていない。
距離で言うと二キロぐらいだ。
それなのにこの時間。
は~、とため息をつきコンビニを電子レンジで温める。
ヴィーと音を立てながら回る弁当を見ながら考える。
ヴィーリアスでは何があったんだっけ?えーと、ティラが助かって…喜んで…そして…喜んで…喜ん…ん?
そうだ、その場で寝てしまったんだ。だとすると…目覚めは宿屋かな。トーダが運んでくれたと仮定して。
チン!と音が鳴った。レンジから弁当を取り出し、食べる。
そしていつものように風呂に入り、歯を磨き、そして布団に入った。
さあ、今日はティラと沢山喋ろう。あ、そうだ、シェバにはお礼しないと。一応。
全てが終わった、というほっとした気持ちで眠りについた。
…ん、ここは…?
ゆっくりと目を開ける。…宿屋の天井だ。
横を見るとトーダが椅子に座り翼を組みながらコク、コク、と眠っていた。
次に反対側を見るとティラがベットで寝ていた。
今の現状を踏まえ自分は考える。話しかけるべきか起きるのを待つか。
あれ、そういえばシェバは…?
自分は起き上がり部屋を出た。
フロントまで行くと宿屋の主人が心配そうな顔でこちらに来た。
「お客様、ご気分はいかがですか?」
「あ、はい。大丈夫です。」
主人はほっとした顔になった。
「最初運ばれて来たときはびっくりしましたよ。」
「あ、あの、そのとき自分より背が高くて帽子を被った男の人いませんでしたか?」
続いて険しい表情になり、
「はて、そのようなお方は…いませんでしたよ。」
「そうですか…ありがとうございます。」
「いえいえ、こちらこそお役に立てず…」
主人と別れ、外に出た。正確な時間は分からないがそろそろ夜が明けようとしている。
ひとまず左右顔を動かし、どうしようかと考える。と、そのとき頭上から聞きなれた声がした。
「シェバならもう行っちゃったよ!」
後ろを向き顔を上げるとティラが窓から身を乗り出し手を振っていた。
「ティラ!」
「もう、起きたなら一声かけてよ。」
「ごめんごめん、二人とも熟睡してたから。」
やがて朝日がティラを照らし始めた。と、そのとき、ティラが何か言ったような気がした。
「ティラ、何か言った?」
「え?何も言ってないわよ。」
「…気のせいか。とりあえず部屋に戻るね。」
朝日に照らされ一際立派に見える宿屋に向けて走り始めた。ティラに会うため。トーダに会うため。
宿屋のドアを思い切り開け、全速力で階段を駆け上がる。宿屋の主人が今度は何事!?というような顔をしていたが華麗にスルー。
部屋の前まできたら立ち止まって一呼吸。晴れ晴れとした気持ちでドアノブに手を掛け、
飛んで行ってしまうくらい全力で尻尾を振りながらドアを開けたのだった。
こんにちは。たむです。
一応この話でこの章は完結です。小説を書くのは人生でこれが初めてで(たぶん…もしかしたら小中学校で書いたかも…)読みづらい、想像しづらい、説明不足の箇所が多々ありますが温かい目で読んでいただけたら幸いです。
さて、今後についてですがこの物語はまだ続けようと思っています。
次のネタもふわふわと浮かび上がってきています。
また、それとは別に今回の章(1話~5話)をティラ視線で書いた小説をpixiv BOOTHで販売しようとか考えています。(こんな初心者なので100円くらいで。)まあ、いつになるか分かりませんが要望があったらできるだけ早く動きたいです。
ケモノを題材にした小説、少なくて不満だよな。
たむ、動きます。
(これがやりたかった。)
最後になりますが評価、感想等よろしくお願いいたします。
また、最初に評価につけてくださった方、ありがとうございます。とても嬉しかったです。
小説を書き続けようという気になりました。
それでは、次の章で。