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セントティーナの夜  作者: たむ
バーサル編
4/36

突撃!

 自分とトーダは驚いてしまった。い、いや、まさか…あんな優しそうな女性が…そ、そうだ、名前が同じなのかもしれない。

今度はシェバが困惑しながら話を続けた。

「…五十代くらいの女に騙されたんだ。」

「ま、まさかな。」

トーダはくちばしをなでながら苦笑い。自分はというと口をぽかんと開けていた。

「その様子だと知り合いのようだな。」

「知り合いもなにも僕たちはその人から今依頼を受けているんだ!」

「なんだって!?」

シェバは目を見開いて驚いた。

「まあ、まだ確証は取れないが…もしそうだとしたら最初からはめられていたのか。」

「依頼の内容は?」

「紛失した指輪探しだ。おそらくそれも偽造だろうがな。」

シェバは大体のことが分かったのか、顔を手で覆い隠す仕草をしてからこう言った。」

「とりあえずこの家から出よう。あんたら二人はそのままの恰好だと危険だ。俺のバッグの中にコートがあるから貸すよ。」

そう言ってバッグからフード付きのコートを出した。

「しかしよくこんなもの持ってるな。」

「仕事上必要なんでね。」

「俺たちはそこまで高度な依頼は受けないからな。なるほど。」

トーダは納得した顔でコートを羽織った。

自分もコートを羽織ったが、サイズが大きくてぶかぶかだった。

「はは、子犬ちゃんはサイズあっていないけど我慢してくれ。」

現世では背は高い方だがここでは背が低い方に入る。なので背が低いね、みたいなことを言われるのはなかなか斬新的だ。

「さて、それじゃあ宿屋で作戦会議だ。そして今日の午後に決行する。それでいいな?」

「もちろん!」

「了解だ!」

シェバはバッグを背負い、自分とトーダはフードを被ってボロボロの家を後にした。



 作戦会議が行われる宿は自分たちやシェバが予約している宿ではなく、別の宿屋で新しく部屋を借りることになった。

なぜかというと、まあ当たり前だが二人が生きている、暗殺に失敗した、ということを奴らに気づかれないためだ。

何もトラブルなく無事に部屋に入るとシェバが言った。

「さて、早速だが作戦を立てよう。二人とも分かっているとは思うが奴らに気づかれるのは時間の問題だ。」

「それは分かっているけど…これからどうするの?」

「なあに、簡単なことだ。マーベルの家に乗り込むのさ。」

「えっ!!」

「憶測だがそこまで敵数は多くない。俺たちなら行けるだろ?」

自分は困ってしまった。あっちには人質がいる。

「待て!俺の作戦を聞いてくれ!」

トーダが突然声を上げた。

「まずシェバがこの袋を敵に渡すんだ。」

バッグの中から出てきたのは当初使用するはずだった袋。

シェバは袋を手渡され、中を見るとパンが数枚入っていた。

「ほう?これは?見た目はただのパンみたいだが…」

「このパンには強力な眠り粉がまぶせてある。これを渡すんだ。」

シェバはマズルを袋に突っ込み、くんくんと匂いを嗅いだ。

「しかし薬の匂いがしないぞ?」

待ってました、と言わんばかりに答えた。

「それはティラが調合した薬だからね。彼女は薬を作るのがうまいんだ。」

「ほう。ではこれを相手に食べさせ、眠っている間に束縛、ティラを救出ってことか。」

「そういうこと。」

トーダは自慢げに答えた。

「…かなり無茶な作戦だがこれが一番安全かつ望みがあるな。」

その後、三人は細かい部分の打ち合わせをし、時計を見ると午後一時を回っていた。

「…っと、そろそろマーベルのところに行かないと怪しまれる。二人とも準備はいいか?」

「うん!」

「大丈夫だ!」

「よし、それじゃあ計画通りに頼む。」

こうして本日二回目の作戦が始まった。



 いつも通り、丁寧にドアをノックする。

「マーベルさん居ますか?」

少し経ってからドアが開いた。

「おや、シェバルトかい。どうぞ、早くお入り。」

シェバは素直に従い、家の中に入った。

「で、早速だけど仇は取れたかい?」

「ええ、取れました。まったく、、あんなかわいい子を乱暴するなんてとんだ輩ですよ。」

「ほんと。夜中に突然訪ねてきたときは何事かと。逃げられて不幸中の幸いだったわね、彼女は。」

「そうですね。そういえば彼女は?」

「自分の家に帰ったわ。もっとゆっくりしていっていいよって言ったんだけど早く両親に会いたいって言われてね。」

シェバはマーベルの後ろを歩き、二階の部屋に案内された。

「さあ、そっちの椅子に腰かけて。」

シェバは大人しく座った。

「では早速、本題に入りましょう。奴らから五万テルを奪い返しました。」

そう言うと同時にシェバは大金が入った袋を渡した。

マーベルは中身を確認する。

「まあ、ありがとう。それで…こういうのも何なんだけど…乱暴した二人は倒せた?」

「はい。でもまずは証拠をお見せする前にこちらを差し上げます。」

これからこの作戦の山場に入る。さすがのシェバも手に汗を握っていた。

「あら、これは…パン?」

「奴らが持っていました。どうぞお食べください。」

「じゃあ一枚食べてみようかしら。」

マーベルは袋から一枚取り出し食べ始めた。

よし、第一段階成功!

「おいしかったわ~これはこの町一番人気のツィラさんが作ったパンね。」

「食べただけでお店が分かるとは。」

「そうよ。あそこのパンは…」

シェバはマーベルの話を聞き流しながら次のことを考えていた。

薬の効果が表れ始めるのは食べてから五分後。それまでにティラの居場所のヒントを見つけ出さなければ…!

「そういえばマーベルさん。」

マーベルはパンの種類について話していたが口を止めた。

「なにかしら?」

「前々から思っていたんですけど素敵なお宅ですね。」

「あら、ありがとう。」

「二階建てですか?」

「そうよ。あと地下室もあるわ。まあ散らかってるから見せられないけど。」

そう言ってマーベルはニコッと笑った。

 となると地下室が怪しそうだな。シェバはそう思いつつ棚に置いてある時計を見た。

…あと一分!できれば更に情報を聞き出したい。

「今はお一人で暮らしているんですか?」

「ええ、前は主人がいたけど亡くなってしまって…」

「そうですか。」

マーベルは一人と言っているがもしかしたら家来がティラを監視しているかもしれない。

そう考え質問してみたがどうやら家来はいないらしい。だとするとティラは誰の監視も受けず檻に閉じ込められているか、

はたまた戦闘のプロである傭兵に監視されているか…

 その時、マーベルは額に手を当てた。

「…ごめんなさい、ちょっと気分が…」

言い終わる前にマーベルはどさっと机に突っ伏してしまった。が、まだ意識はあるらしい。

「…あ…んた…パンに…何か…仕込んだわね…」

「ご名答。さあ言え。ティラはどこにいる!」

「ふん、そういう…ことかい…うかつだったわ…そんな…居場所なんて…言う…わけ…ないじゃない…」

その解答を聞くや否や、シェバは立ち上がりマーベルの髪を掴んだ。

「言えよ。どうせ地下室に閉じ込めているんだろ?」

マーベルはうつろな目でシェバを見ながら鼻で笑った。

「なんだい…分かっている…じゃないか…けどね…助けられるかしら…あそこには…」

 言い終わる前に完全に意識を失ってしまった。

「くそっ、眠っちまったか。」

 薬が効き始めてから二時間は目を覚まさないと聞いたがシェバは念のためマーベルの手と足をロープで縛った。

「まさかあんたが悪人だったとはな…」

そうつぶやいてシェバは部屋を後にした。



 その頃、クーロとトーダは家の前付近で待機していた。

「シェバ、遅いね。」

「もうじき来るだろ。」

その時、ガチャ、とドアが開いた。さて、出てきたのはシェバか、どれとも意に反してマーベルか。

「お、シェバだ!」

トーダは翼をばたつかせた。

「遅くなってすまない。マーベルは今ぐっすり眠っている。そして肝心のティラだが

どうやら地下室にいるらしい。」

「よし、早速行こう!」

なに振りかまわずドアに向かって駆け出したがシェバに腕を掴まれた。

「そう一筋縄ではいかない。なにか罠がある。」

「だろうな。」

「…そっか。」

自分は後先考えずに走り出してしまったことを反省した。

「まあ恐らく傭兵みたいなプロが守っているんだろ。俺も戦闘はかなりこなしてきたからな。ここも任せてくれ。」

「え…でも…」

「いいからいいから。それじゃあ二人とも、準備はいいかな?」

「う、うん。」

「おう。」

トーダも戸惑い気味に返事をした。

「それじゃあ、まずは入り口探しだ。」

その言葉を聞いて戸惑度が増した。

「すまない。入り口を聞く前に寝てしまったんだ。」

「いや、シェバが謝ることはない。俺たちじゃ出来ないことをやってのけた。感謝する。」

「その言葉は彼女を救出してから貰うよ。」

そう言ってシェバは歩き始めた。二人も後に続き作戦第二段階への入り口へ向かったのだ。



 家に入ると早速、手分けして地下室への入り口を探すことになった。

部屋の面積はそれほど広くない。なのですぐに見つかるだろう、と思っていたが

これがまたなかなか見つからない。

「トーダ、どう?」

「入り口はおろか、怪しいところすら見つからない。そっちは?」

「同じく。」

うーん、と唸っているところにシェバが戻ってきた。

「なかなか見つからないな。こうなったら人が出てくるまで待つか。」

「待ち伏せか。」

「ああ。」

この時、自分はある危機に面していた。にょ、尿意が…

このまま我慢しながら敵と戦ったら漏らしてしまいそうなので素直に申告した。

「あ…あの…」

「おっ、クーロ!何か案があるのか?」

「いやそういうわけじゃなくて…トイレに行きたい…」

二人はポカーンとしていた。

「あのなあ、こんな大事な時にな…」

トーダは翼を頭当てた。

「まあここは俺らに任せて行ってきていいよ。」

「ごめん。」

自分はそそくさとトイレに向かった。

この世界にももちろんトイレはある。町の中だったら洋式で水洗式が多い。

この家も洋式で水洗式だった。

ズボンを下ろし、用を足す。ああ、至福のとき。

かなり溜まっていたので出終わるまで時間がかかる。

 そんな最中にこんな声が聞こえてきた。

「くそ〜なんで地下室にトイレないんだよ。めんどくさ。」

え!?

そして間も無くしてドアが開いた。そう、鍵をしていなかったのである。

「え…」

「え…」

自分と見知らぬ相手は二十秒ほど固まった。

「うわっ!!!」

「き、貴様は何者だっ!」

相手はすかさず剣を抜いた。自分も便座から立ち上がり剣を抜く。

今にも戦闘が始まろうとしていた時、聞き慣れた声と聞き慣れない声が聞こえた。

「おい、どうした!?」

一方はトーダの声。もう一方は今目の前にいる相手の仲間だろう。

「ちっ、ハンス!敵だ!あの女の仲間だ!」

「なんだって!?すぐ向かう!…あだっ!」

「ハンズ?どうした!?」

おっとこれは…トーダかシェバがやってくれたのかもしれない。

残るは今目の前にいる奴だけか。

「どうやらお仲間さんはやられたようだね。」

「っく…!そんなことより自分の心配をした方がいいのでは?」

「それはどうかな?」

「ふん、そんな威張っていられるのも今のうちだぜ…ぐはっ!」

相手は気を失い前のめりに倒れた。

「ふう、助かったよ。トーダ、シェバ。」

「まあ、あまり広くないからな。この家。」

「悲鳴が聞こえたら数秒で駆け付けられるぜ。」


 その後、恐らくティラを監視していた二人を縄で縛り、家の中を再度探索した。すると…

「お~い、あったぞ!」

とシェバの声。声が聞こえた方向に行くと既にトーダがいた。

「あ、トーダ…ってこれは…」

トーダとシェバの目線の先を追うとそこには地下へと続く階段があった。

そしてその入り口の左右を見ると本棚。…なるほど、そういうことか。

「ドアを本棚にカモフラージュしていたのか。」

「古典的だがそのようだな。」

シェバはドアを閉めた。すると本棚が綺麗に揃った。

「ハンズ?だっけか…そいつがドアを開けっ放しにしたおかげで助かったぜ。」

シェバは棚にある本を押した。するとカチッ、と音がしてドアが開いた。

「さあ、ティラを助けに行こうぜ。」

自分とトーダは顔を見合わせて頷き、シェバの後を追った。

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