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セントティーナの夜  作者: たむ
アルク編
35/36

歓迎会

本当はもっと色々な事を話したかった。

だが、町中で話すにはリスクが大きい。

大抵の人はたとえ耳に入っても軽く聞き流すだろうが

世の中何が起こるか分からない。

変な輩に絡まれるかもしれない。

なのでこの話題以外ならしゃべっていいと思うのだが…

「今日は一段と寒いね。」

「そうですね。」

「冬到来だね。」

「はい。」

このように会話が長続きしない。

初めて会ってから間もないからかそれともしゃべるのが嫌いなのか…

頭の中であーだこーだ考えて歩いているうちにアマースの目の前まで来ていた。

「着きましたね。」

「トーダとティラは居るかな?」

自分は店のドアを開ける。

「いらっしゃいませ~おや、あなたは。」

アマースの店長、ジョウ・エルワールは動かしていた手を止め

こちらへ歩いてくる。

「やっほ~」

そして奥のテーブル席にはティラとトーダが座っていた。

「いや~本当にありがとうございます。これで最低限はどうにかなりそうです。

…そちらの方は?」

ジョウは自分の左後ろに視線をやる。

「ああ…この子は自分の仲間のソフィアです。」

「ソフィア・アルバーシュデンと申します。以後お見知りおきを。」

「私はこのアマースの店長、ジョウ・エルワールだ。よろしく。

それにしてもかわいいお嬢ちゃんだ。」

自分は最後の一言でソフィアの顔色が悪くなったのを見逃さなかった。

もしかしたら子ども扱いされるのが嫌なのかもしれない。

「ささっ、こちらの席へどうぞ。」

ジョウに案内された席にはもちろん、ティラとトーダが居た。

「お疲れ様。」

「おう。夕飯はここでいいよな?」

「うん。ソフィアもいいよね?」

「…えっと…ここのお店は肉料理しかありませんか?

私、お肉は食べられないのです。」

ソフィアは申し訳無さそうな表情を浮かべた。

「まあ、そうだったの。野菜は…あるにはあるけど…」

アマースは肉料理がメインのお店だ。

野菜はサイドメニューとなりあまり豊富ではないことが安易に想像できる。

「私少食なので…野菜料理が少しあるのであれば大丈夫です。」

四人がけの席にティラとトーダが対面で座っていたので

自分はトーダ側、ソフィアはティラ側に座った。

「タナス料理は作れないがそれ以外だったら任せてくれ!」

ジョンは自信満々に言った。

四人はメニュー表を見ながら食べたい料理を伝える。

「よし、それじゃあ少し待ってくれ。」

ジョンは速歩きで厨房へ向かって行った。

「いや~それにしてもタナスを捕まえに行ったら仲間が増えるなんてな。」

「世の中何が起こるか分からないね。」

「ほんと、クーロといると苦労が絶えないわ。」

「今のだじゃれ?」

「…たまたまよ。」

ティラは呆れ顔で言った。

「あの、みなさんはどの様にしてお知り合いになられたのでしょうか?」

「ん?僕たち?僕たちはとある孤児院で知り合ったんだ。」

「ということは皆さんの親御さんは…」

「ああ、この世に居ない。」

「すみません。失礼な質問をしました。」

「いいのよ、私たちはもうとっくにその現実を受け入れているわ。」

トーダは何も言わずこくっ、とうなずいた。

「それに今はクーロとトーダ、そして孤児院のみんなという家族が居るわ。」

ティラはそういうとにっ、と笑った。

「そうでしたか。」

ソフィアは机に置かれているポットから水を注いだ。

「ソフィアの家族はどんな感じなの?」

自分はその質問を口に出した後、後悔した。うっかりしていた。

ソフィアは自分と同じ『現実』から来たのだ。

だったらこの世界に血が繋がった家族が居るわけがない。

ソフィアは『地球』から来たことを隠したがっている。

「あっ!無理に答えなくても…」

自分は焼け石に水程度のフォローを入れた。

「私もあなたたちと同じようなものです。」

「ん?ということはソフィアも孤児院で育ったの?」

ティラは興味津々で掘り下げようとする。

「うーん…孤児院ではありませんが…

私はクウェスティーナ様に拾われたのです。」

「クウェス…ティーナ?」

ティラは首を傾げる。

「そういえば初めて会ったときにもその名前言ってたな。」

「はい。クウェスティーナ様はセルトティナ魔女学院の学院長です。」

「セルトティナ…魔女…学院?」

再びティラは首を傾げた。

「セルトティナ魔女学院はレノーズにある唯一の魔法学校です。」

「へ〜そうなんだ。」

「私はそこで拾われた後、必死で魔法を勉強しました。」

「魔法って確か素質がある人でかつ血のにじむ努力が必要だと

聞いたことがあるが…」

「え、そうなの?」

今度は自分が驚いた。

この世界では人間と動物が交わった獣人が何の変哲も無く暮らしている。

そんなファンタスティックな世界では魔法くらい簡単だろうと思っていた。

「はい。魔法を取得するのは言葉では言い表せないほど大変です。

私だって魔法使いを名乗っていますが使える魔法は三種類くらい。

そして威力も低いものです。」

ソフィアはまだまだ修行が足りない、と言うかのようにため息を吐いた。

「まあ、ソフィアはその年齢で魔法使えることが凄いと思うよ…」

自分は困惑気味に言った。

ん?そういえば…

「ソフィアは何歳なの?」

「あ〜!クーロ、そうやって女性に年齢聞いちゃう?」

まるでデリカシーのない男だ、と言うような口ぶりだ。

「いいだろ、もう仲間なんだから。ティラは気にならないの?」

「ぷっ、冗談よ冗談。私も気になるわ。」

ティラは笑いながら言った。

まったくもう…

「まあ、ソフィアが答えたくなければいいけど。」

「いえ、私は十一歳です。あなたたちは?」

「自分は十六歳。」

「私は十七歳。」

「俺は二十歳。」

「ということは私が一番年下ですか。」

そんなこんなで話し合っているとカラカラという音が聞こえ始めた。

「あっ!早い!」

「今日はお客さんが少ないからな。」

ジョンと料理が乗ったカートが到着する。

「暇を持て余していたのよ。」

ジョンは次々と料理を机の上に移動させる。

「わぁ〜おいしそう!」

ティラが頼んだのはモルスハンバーガー。

「お、キタキタ!」

自分とトーダはモルスステーキ。

「あ、ありがとうございます。」

ソフィアは六種類の野菜を使ったサラダと野菜ジュースを頼んだ。

そして最後にソフィアを除く三人にビールが手渡される。

「よし、それじゃあ乾杯といくか。それじゃあクーロ、よろしく。」

「ええっ、いきなり!?」

トーダの顔を見るがにこやかに笑っているだけ。

他の二人も同じ表情。

…仕方ない。

「それじゃあ…新たな仲間ソフィアが加わったことに乾杯!」

「乾杯!」

チン、というガラス音を合図に夜の宴が始まったのだった。



 宴会は明日も狩りに出かけなければならないため二時間程でお開きとなった。

宴会中、ソフィアは三人から質問攻めにあっていた。

好きな食べ物は?

その杖はどこで手に入れたの?

クーロとトーダ、どっちがかっこいい?

多岐多端な質問にソフィアはたじたじだった。

「うぃ〜酔った酔った。」

ホテルへ向かう途中、トーダは少々フラフラした足取りで言った。

「いつもこんな感じなのですか?」

そして対照的にソフィアがつまらなそうに聞く。

「まあ、そうだね。」

「ふうん…」

やはり宴会などわいわいした事に関しては興味が無いみたいだ。

「まあ子供だとお酒飲めないしつまらないわよね。」

「…子供扱いしないでください。」

ソフィアはむすっとした表情を浮かべる。

「さてと、明日はタナス二頭目だね。」

「ああ、魔法使いのソフィアも加わったことだし今回はスムーズに

行きそうだな。」

トーダは活きの良い声で言った。

「そうね。もしかしたら明日で依頼達成できるかも。」

「確かに、それも夢ではないな。」

二人はわはは、と笑った。

新しい仲間が増えた。

喜びが溢れるのも仕方ないだろう。

だが、なぜかその本人は違った。


私は普通に生きたいのに…


自分の耳はソフィアの本音を聞き逃さなかった。

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