表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
セントティーナの夜  作者: たむ
アルク編
33/36

流青の魔女

 勢いよく入り口のドアを開ける。

「!」

受付のおじさんはビクっと震えながら自分を凝視する。

少々やりすぎたか、これでは客観的に見て強盗などの犯罪者にしか見えないだろう。

なので声をかけた。

「すみません、急いでいたもので…」

「あ…はい。」

おじさんは依然、驚いた顔のままだが気にせず急いで階段を駆け上がる。

上りきった後も他のお客さんに迷惑にならない程度に早歩きをする。

そして自分たちの泊まっている部屋のドアを今度はゆっくりと開ける。

「こりゃあ何かあったに違いないな。ティラ、探しに行…!」

二人は先ほどのおじさん同様、驚いた顔で自分を見る。

「クーロ!どうした、やけに遅かったな。何かあったのか?」

「も~。あまりにも遅いから心配したのよ。まあ、おつかい頼んだのは私だけど…」

ティラの声が少しずつ小さくなる。

「ああ、大丈夫。みんな、心配かけたね。」

「どこか怪我は?」

トーダが聞く。

「いや、怪我はしてないんだけど…少々巻き込まれてしまってね。」

「?」

二人はぽかんとした顔を浮かべる。

「それじゃ最初から話すと…ハックシュン!!」

手を口に当てるのが間に合わず二人の顔に均等に唾がかかる。

「…」

「…まずはお風呂入ったら?」

ティラが外気と同じような冷たさで言った。

「はい。そうします…」



 あつあつのお風呂で十分に温まった後、自分はこれまでの経緯を話した。

「えぇ…この短時間にそんなことがあったの?」

ティラが少々引き気味に言う。

「それで、問題はその依頼を受けるかどうか…」

「そもそもその『ノア』って人は信頼できるの?私たちを罠にはめようと

してるんじゃないの?」

ティラの疑問にトーダも頷く。

「そうだな。そもそも掲示板に依頼が出てない上に強引に店に連れ込んだ時点で相当

信頼度は低いな。」

「普通の人は知らない人の腕引っ張ったりしないもんね。」

ティラが苦笑いしながら言った。

「…いや、相当困っていた、とも捉えられるよ。」

「う~ん…けどなぁ…」

三人は腕を組み考え込む。

「…ふぁ〜あ、眠い。」

ティラは大あくびをして目をこする。

自分は時計に目をやると午後十一時半を指していた。

「頭ん中で考えていても埒が明かないな。とりあえず明日、三人で行ってみるか。

そして今日はもう寝よう。」

「さんせ〜」

ティラは数秒後に夢の中へ行ってしまいそうな声を出す。

「クーロも眠いだろ?」

「うん。あんな事が突然起こってへとへとだよ。」

「ははっ」

自分の返答にトーダは少しだけ笑う。

「それじゃあ、おやすみ。」

三人はそれぞれのベットに入り眠りについた。



 翌朝、三人は予定通りノアのマッサージ店を訪れた。

「いらっしゃ〜あら、あなたたち!来てくれたのね。」

ノアは笑顔で三人を出迎えた。

「初めまして。私はトーダといいます。そして…」

「私はティラです。よろしくお願いします。」

二人は軽くお辞儀をした。

「わざわざ来てくれてありがとう。私はノア。ここアルクでマッサージ店

を経営しているわ。さっ、立ち話もなんだし奥へどうぞ。」

三人は店の中を歩くと昨日の自分と同じような反応をした。

「わぁ〜キレイ〜」

ティラが思わず声を漏らす。

「ふふっ、夜になるともっと凄いのよ。ねっ、クーロさん?」

「うん、昨夜は光がキラキラ乱反射してて凄かったよ。」

「へ〜」

案内された店の奥のソファに三人は座る。

「それで、答えは?」

ノアは昨日同様、三人の前に紅茶を差し出す。

自分はそれを横目に軽く咳払いをしてから言う。

「まだ、結論は出ていません。なぜならあなたをまだ信頼できていないからです。」

その返答にノアは顔色を変えなかった。

「そう…。まあ客観的見ると当然よね。」

「まだ依頼を受けないと決まった訳ではありません。」

今度はトーダが声を上げた。

「これから私達はトルマンやアマースの店長に話を…」

ちゃりん、と鈴の音が鳴った。

「あら、誰か来たみたい。」

ノアは席を立つと入り口へと向かう。

「やあ、ノア。調子はどうだい?」

「あら!ジョウ、いいところに!ちょっとこっちに来て。」

「あ!もしかして…」

ジョウ、と呼ばれた少々小太りな犬獣人男性がノアに連れられ、

自分たちの前に来た。

「紹介するわ。こちらアマースの店長、ジョウ・エルワールよ。

そしてジョウ、こちらが例のあの件に興味を持ってくれた人たちよ。」

「はじめまして。」

「よろしくお願いします。」

互いに軽く挨拶を交わす。

「あなた方には迷惑ですが私達の依頼、受けて頂けませんでしょうか?」

「ねっ、嘘じゃないでしょ?」

ノアはウインクをしながら言った。

「う〜ん、どうする?」

ティラが唸りながら言った。

「…自分は受けてもいいよ。」

「!」

二人は自分の言葉に驚いた様子だったが、

「…クーロがそう言うなら、私もいいわよ。」

「…しょうがない、俺もいいぜ。」

それぞれ三人の考えを聞いたノアとジョウは歓喜の声を上げた。

「まあ、受けてくださるの!?」

「ありがとう、助かるよ!」

三人は同時に頷いた。

「はい、お任せください。」

その後、三人は依頼の詳細を聞いてノアールを後にした。



 期限はしあさっての朝まで。

それまでにタナスを最低でも三頭確保しなければならない。

店を出ると時刻は正午前だった。

「どうする?今から捕まえに行くか?」

「うん、そうだね。今回はあまり時間無いし…ティラは大丈夫?」

「ええ、問題ないわよ。」

ティラはコクッ、と頷いた。

「よし!それじゃ、一旦ホテルへ戻って準備するか!」

「うん!」


 ノアとジョウの話によるとタナスはこの町の南東にある草原に

生息しているらしい。

また確保した際、運ぶのが大変だということでラパと荷台を貸してくれた。

「今回は魔物じゃないから二人共、力加減には気をつけろよ。」

町の門を出たところでトーダが突然そんなことを言ったので二人は吹き出した。

「いやいや、トーダが一番危ないって。」

「うんうん。」

二人の言い分に慌てたトーダは咳払いを一つ。

「俺は、大丈夫だ。」

そう言うトーダだが説得力は微塵もなかった。

「ふふっ!」

「ははっ!」

「何がおかしい!」

トーダが顔を赤くしながら抗議する。

本人だって理由は分かってるはず。

「だって…あれ?」

「ん?」

「どうかしたの?まさかタナス!?」

突然の異変に二人は疑問を持つ。

「あそこに座っているのは…人?…女の子?」

「え?」

二人は自分が指差す方を見る。

「…確かに。誰かいるわね。」

まだそこそこ距離があるためぼんやりとしか見えないが

道端の木の根本に誰かが座っている。

「とりあえず行ってみよう!」

自分はそう言って走り出すと段々と容姿が見えてきた。

やはり女の子で恐らく自分たちよりも年下、十歳ぐらいだろうか。

見た感じネズミ族で毛は白色。

髪は薄い青色で目をつぶっていて動かない。

「寝ているのか?」

トーダがまじまじと彼女を観察しながら言った。

「そのようね。」

耳をすますとすぴー、すぴーとなんとも可愛らしい音が聞こえる。

「保護者は?」

そう言って周りを見渡すがそれらしき姿は無い。

「こんなところで一人で昼寝か?危険すぎるだろ。それに…なんだこの杖?」

彼女は先端にきれいな水晶が付いた木の杖を抱きしめながら眠っていた。

「気になることが沢山ね。寝ているところ悪いけどちょっと事情を聞いてみましょ。」

「よし、自分が聞いてみるよ。…あのもしもし?」

自分は恐る恐る声を掛けた。

「…」

反応なし。

「もしもーし?」

「…」

さっきより大きな声を出した。が、反応無し。

こうなったら…

「あの〜」

自分は彼女の肩を叩いた。


びびびびびびび!!!


「えっ!?」

突如響き渡るサイレン。

「むっ!お前達何者だ!」

彼女は杖を軽く振るとサイレンは止まった。

「さては盗賊か。だが残念だったな、私はこう見えても…」

すると彼女は聞いたことない言葉でぶつぶつと言い始めた。

「待って、違うの!私達はあなたが心配で…!」

ティラがとっさに言った。

「…そうか。」

彼女はゆっくりと杖を降ろした。

「あ、あの…あなたは?」

自分は先ほどよりも恐る恐る質問する。

「私…私はソフィア、ソフィア・アルバーシュデン。あなた達は?」

疑いの鋭いまなざしが三人に向けられる。

「自分はクーロ。そしてこっちがティラとトーダ。」

「よろしく。」

「よろしくね。」

三人の名前を言うと幾らかは和らいだ。

「そうですか。それで、寝ている私をなぜ起こしたのです?何か困り事でしょうか?

けど、見た感じそのようには見えませんが…」

ソフィアはまじまじと三人を見ながら言った。

「いや、こんな道端で一人で寝ているから心配で声を掛けたんだ。」

トーダが理由を説明するとソフィアはぽかーんとした。

「ああ、そうだったの。けどご心配なく。

私に触れると先ほどみたいに警報が鳴るので。」

「けど、その後は…」

「まあ、場合によっては氷漬けにするわ。」

「…氷漬け?」

聞き間違いか、と思ったがティラとトーダもあ然とした顔だったので間違いでは

無さそうだ。

「…ぷっ!はっはっは!氷漬けなんてどうやってやるんだ?」

「ちょっと、トーダ。」

ソフィアのとんちんかんな答えにトーダは笑った。

「こうやってやります。」

「え…?」

トーダの顔が笑ったまま止まる。

と、裏腹にソフィアは杖を掲げた。

「~~~~」

そして何かぶつぶつ言ったと思ったら杖をトーダに向けた。

「レイニング・アイスティナ!」

すると鋭い光線が放たれトーダは氷漬けに…はならず、

代わりにトーダの後ろにあった岩が犠牲となった。

「え…ええっ~~~!」

自分とティラは大声を出して驚いた。

トーダは声すら出ないようだった。

「どうです?これで納得して頂けましたか?」

「あ…ああ。」

トーダはいつの間にか腰を抜かして地面に尻をついていた。

「それでは、私は昼寝の続きをするので。」

そう言うとソフィアは再び木の根元に座り目を閉じる。

「あ、あ、ちょっと!」

「まだ何か用ですか?」

今度は迷惑そうな視線が向けられる。

「さっきのって何!もしかして…魔法!?」

ティラが目をきらきらさせながらソフィアに迫る。

「はい。魔法ですが。」

「ええ~!ってことはレノーズから来たの?」

「…はい。」

ソフィアは少々引きながら返事をした。

「私たちもレノーズに向かう予定なんだ。」

「そうですか。…う~む、見た感じ軽装ですけど大丈夫ですか?

トラトス山は厳しいですよ?」

「あんただって身軽じゃないか。」

今まで腰を抜かしたまんまだったトーダが立ち上がりながら言った。

「私のこの服は魔力によって温かいの。それに私が使えるのは氷だけじゃないのよ。」

炎系も使えるのか。

「いえ、今からではなく数日したら向かう予定なの。」

「あら、そうだったの。それじゃあなぜここへ?」

「自分たちはある依頼を受けてタナスを探しにきたんだ。」

「そうだったの。」

「ソフィアさんはなぜここへ?」

今度はティラが逆に質問する。

「私は…とある物を探しにセラスまで行ってきて帰る途中。」

「そうなんだ。探していた物は見つかったの?」

「ううん。」

ソフィアは首を横に振った。

「一日中探し回ったけど見つからなかったわ。」

ソフィアはため息をついた。

「その物っていうのは具体的に?」

「あなたたちに言っても分からないと思うわ。…まあ、簡単に言うと石について…」

「石!?」

自分は大声で言った。

「ちょ、そんな驚くことじゃないでしょ?」

「い、いや、すみません。自分も石を探しているので。」

「そうなのですか。石の名前は?」

「大樹の石です。」

「大樹の石ですか…」

そう呟いたソフィアは立ち上がり背伸びをした。

「すぅー…ふぅ~」

そして深呼吸を一つ。

「突然ですがあなたたちの旅に同行したいのですが…駄目ですか?」

「…えっ!?」

三人はタイミングを揃えて驚きの声を上げる。

「本当に突然ね…」

ティラが独り言を呟くように言った。

「どうして?」

「大樹の石、それはとても魔力の高い石です。おそらくこの世で一番でしょう。

そんな石が知識のある悪者の手に渡ったら大変なことになる、との事で

レノーズの大魔女『クウェスティーナ』から命を受けたのです。」

やはり。

ソフィアのあの石はただの石ではないことを再認識した。

「それで、あなたたちはなぜ大樹の石を探して?」

客観的に見たら当たり前の疑問を投げられ、自分はどきっとする。

さすがに初対面で理由を話す訳にはいかない。

「ごめん、それはちょっと言えない。」

怪しまれないことを祈りながら答えた。

「…そう。まあ見た感じ悪者では無さそうだし知識も無さそうだから

詳しくは聞かないわ。」

ソフィアの言い方にトーダはむっとした表情になる。

「ちょっと待て、俺からも質問がある。」

鳥族特有の鋭い目が光る。

「大樹の石は何十年も前に発掘された代物だ。なのになぜ今になってあんたたちは

それを探しているんだい?」

トーダの質問にソフィアは困った顔をする。

そして少々間が空いた後、ソフィアの口が開く。

「あなたの問いに答えられない訳ではありません。

ただ、話すと長くなってしまうのです。それでもいいですか?」

「ああ。」

トーダは即答した。

「それでは。」

ソフィアは軽く咳払いをした。

「大樹の石はノルマティー公国にある小さな村で発掘されました。

とても綺麗で神秘的なその石は瞬く間に国内で話題となり沢山の観光客が

訪れました。そしてそのような騒ぎを背景に国はその石をノルマティー公国が

運営するヴェアルディ博物館で保管・展示したいとのことで持って

いってしまいました。まあ、ここまではいいのですが…」

ソフィアは一旦間を空けた。

「展示されてから数日後、何者かによってその石計七つが盗まれてしまったのです。

国は全力で捜索しましたが結局一つも見つかりませんでした。

そして盗まれてから数ヶ月後、国内ではこのような噂が流れます。」

ソフィアは真面目な顔を更に真面目にしてから言った。

「大樹の石に触れたものは数日経つと死んでしまう、と。」

「え…?」

ピー、とラパが鳴いた。

「どうやら大樹の石には何か…こう…信じられないかもしれませんが

生気を吸い取ってしまうようなんです。」

「生気を吸い取る?そんな馬鹿な。」

トーダは翼を横に振った。

「私も直接この目で見たわけではないので断言出来ませんが…

私達の所へ来た『手紙』にはそう書いてありました。」

「手紙?」

「はい。数日前ノルマティー公国のお偉いさんから手紙が来ました。

内容を端的に言うと大樹の石探しに協力して欲しい、と。」

「え?なんで数十年前に諦めた石を今更になって協力して欲しいなんて。」

ティラは人差し指をほっぺに当てながら顔を傾けた。

「はい、そこなんです。手紙にはその事に関して一切書かれていないのです。

私達もなぜ今になって、と思っています。」

「最近になって石に関する噂が出てきたのか…?」

トーダが頭を捻りながら言った。

「なんとも言えませんがその可能性は高いと思います。」

「あの…自分からも。なんでソフィアの所へ協力の依頼が来たの?」

「一般の人たちは生気を吸い取られてしまうけど魔女なら

吸い取られるどころかその石の魔力を引き出すことができるのです。

まあ、今回は魔女だと安全に扱えるからという理由で呼ばれたのですけどね。

また、あちらの国には魔女がいなくなってしまったというのも理由ですね。」

「ん?ちょっと待って。特殊な石は他にも?」

「はい。少数ですが他にも力を持った石はいくつかあります。」

「へ〜、そうなのか。」

トーダはふむふむといった表情で頷いた。


「どうする?」

自分は二人に問いかける。

「う〜ん。…まあ私は別に良いわよ。」

「トーダは?」

「まあ…俺もいいぞ。魔法使いが仲間にいると何かと助かる。」

「よし、じゃあ決まりだね。」

三人は木陰の隅からソフィアの元へ向かう。

「ソフィア、同行してもいいよ。」

「ありがとうございます。心から感謝します。」

ソフィアは深く頭を下げた。

「それじゃ、まずはこの依頼を片付けるか!」

三人、ではなく四人は威勢の良いトーダの掛け声と共に右腕を

空へ突き上げたのであった。

こんにちは、たむです。


というわけではい、新キャラ登場です。

魔法が使えるということで今後の旅がより楽になることでしょう。多分。

そして彼女、いろいろと抱え込んでいるみたいです。

それも徐々に明らかになるでしょう。


今後の活躍に期待!

それでは。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ