他愛のない
翌日は予定通りアルクの掲示板を見に行った。
「あっ、あった!」
ティラが指を差しながら真っ先に駆け寄る。
二人も後に続いて掲示板にたどり着く。
「えーと、どれどれ…」
三人は掲示板をまじまじと見る。
「いち、にい、さん…五件か。」
「それじゃあ右側から見ていくか。」
まずは一つ目。
「これは…道路脇の花壇の手入れをする仕事ね。」
「お!これは良いんじゃない?」
配達員とは違ってのんびりできそうな仕事だ。
「だけどここを見ろ。」
トーダの翼が指す先には募集人数が書かれていた。
「…二人か。」
自分たちで決めたルールには三人一緒の職場で働くというものがある。
理由は雇い主や仕事関係者とのトラブル防止、
また起きてしまった際にはすぐ対処出来るようにする為だ。
「仕方ないわね、次は?」
視線を隣に移す。
「戦闘のプロ求む!モンスター退治。」
「…」
「…無理だな、次。」
タイトルを読んだだけで無理なことが分かる。
「次は…あっ!私達が今泊まってるホテルだ!」
「内容は部屋の掃除か。」
「掃除か。配達ほどでは無いと思うけど疲れそうだね。」
何せ掃除機なんて物はなく、モップやほうきぐらいしかこの世界には
ないからだ。
「まあ最悪ここね。」
「いや、ここもダメだな。」
トーダが翼で示す先には…
「ああ、期間が六ヶ月…」
期間にもルールがあり、長くても一ヶ月くらい。
理由は単純、旅が出来なくなってしまうからだ。
「次は…子守か。」
「募集人数は一人だししかも子育て経験者、これも無理だな。」
「次が最後だね。」
目線を一番左端に移した。
「マッサージ従業員募集…?」
「期間は…無期限か。」
「これも無理ね。…ってことは?」
「条件に合う仕事が無いな。」
トーダは頭を掻きながら言った。
「これは困ったね。」
「ほんとに五件だけ?」
ティラは掲示板の裏を見たり貼られた紙が二枚重なっていないか
など調べた。
「やっぱりこれだけか〜。」
「仕方ない、町中回って困っていそうな人を探すか。」
「そうだね。」
三人は掲示板を離れ、まずは大通りから探すことにした。
お店を一軒一軒回って聞き込む、という訳にも行かず、
通りを歩いて困った様子の人がいないか観察した。
「…もう端っこまで来ちゃったね。」
ティラが後ろを振り向きながら言った。
「どうだ?困ってそうな人、いたか?」
「いや、いなかったな。」
「私も。」
「それじゃあ次は路地裏に行くか。」
三人は路地裏に入り、見て回った。
路地裏と聞くと暗くて危ないイメージがあるかもしれないが
そんなことはなく、住民同士が他愛のないおしゃべりをしていたり
子どもたちが鬼ごっこなどをしていて微笑ましかった。
が、肝心の困っていそうな人がいない。
「こりゃあ次の町に狙いを定めた方がいいかもな。」
トーダが困った表情で言った。
「この規模だから何かしらあると思ったのにな。」
「まあ、悩み事がないのが一番よ。」
自分とトーダはティラの方を見る。
「…たまに良いこと言うよね。」
「そうかしら…って『たまに』って何よ、『たまに』って!」
「まあまあ、二人とも。そろそろ切り上げようぜ。」
空を見るとオレンジ色に染まっており、辺りも薄暗くなっていた。
「うん。」
「明日以降の計画は今晩、部屋で話し合おう。」
「分かったわ。」
三人は路地を縫うようにホテルへと向かったのだった。
ホテルに着いた三人は早速明日以降の計画…ではなく、
腹が減っては戦はできぬ、ということで
晩ごはんは何にするかについて話し合っていた。
「今日大通りを歩いている時においしそうなお店見つけたよ。」
「どんなお店?」
ティラがベッドの端に座り、足をバタバタさせながら聞いた。
「詳しくは分からなかったけど…ぱっと見た感じお肉系のお店だと思う。」
「肉ばっかり食べてると病気になるぞ。」
暇つぶしを兼ねて翼の手入れをしていたトーダが言った。
「だったらあのお店が良いかも。」
「どこ?」
「私も今日町を歩いているときに見つけたんだけど、肉や野菜、魚など
色々メニューがある食堂を見つけたよ。」
「お!そこ良さそう!」
「よし、今晩はそこにするか?」
トーダが毛づくろいを止めてこちらを向いて言った。
「うん!」
自分とティラは元気よく同意した。
「それでお店の名前は?」
「えーっと、確か…『トルマン』だったわ。」
お店の名前を聞いたトーダはすかさずパンフレットを取り出し
探し始める。
「どうトーダ、あった?」
「えーっと、あ!あった!」
トーダの返答に自分とティラはパンフレットを覗き込む。
「なになに…『庶民に親しまれている創業五十年の食堂』だとよ。」
「おお〜」
トーダが続きを読み上げる。
「名物はガラル川で釣った魚定食。」
「ガラル川って?」
聞いたことのない川の名前だ。
「この町の近くを流れている小さい川だ。夏になると川遊びスポットになるらしい。」
トーダはそのことが書いてあるページを見せながら言った。
「ところで、何の魚かしら?」
先ほどのページに戻る。
「…下に注釈文が書かれているな。…『魚の種類は日によって変わります。』」
「行ってみないと分からないってことか。じゃあ早速…」
「行きましょ!」
「そうだな!」
三人は身支度を行い、再び町中へと繰り出した。
お店はホテルからそう遠くはなく、歩いて五分ほどで着いた。
場所は大通りの裏側にひっそりと建っており、建物自体も古く、
所々にひびが入っていた。
「ここか。」
中を覗くとそこそこ人は入っているようだ。
「それじゃあ入るか。」
トーダが先行してお店のドアを開ける。
「いらっしゃいませ〜何名様ですか?」
中に入ると明るい犬獣人のお姉さんが出迎えてくれた。
「三人です。」
「それではこちらの席へどうぞ。」
三人は部屋の奥の席へ案内され、席に座る。
「さてと…」
自分は立て掛けてあったメニュー表を取り、テーブルの真ん中に置いた。
「へぇ〜思っていたよりも色々あるのね。」
確かに、肉メインから野菜メイン、魚メインまで幅広く揃えられている。
「俺は予定通り魚定食だな。」
「自分も。」
「私も。」
「お、今日は決めるのが早いな、ティラ。」
驚いた顔でトーダが言った。
「もう!いつも決めるのが遅いと思わないで!」
「はははっ、悪い。」
「それじゃあ、店員さん呼ぶね。」
自分はそう言いながら辺りをキョロキョロと見回す。
するとちょうどこちらへ歩いてくる店員が見えた。
「すみま…」
「すみませーん!」
自分の声は呆気なく隣に座っていた男性猫獣人の声でかき消されてしまった。
「ふふっ、残念ね。」
ティラは笑いながら言った。
「このタナスハンバーグを二つお願いします。」
「お客様、申し訳ございません。ただいま諸事情によりタナス肉を使った
料理は提供を中止させて頂いております。」
店員はぺこり、と頭を下げた。
「そっか〜どうしようか?」
男性は向かい側に座っている女性猫獣人に聞いた。
「それじゃあ、このモルスステーキにしようか?」
「そうだね。じゃあモルスステーキを二つで。」
「かしこまりました。」
店員はメモを取り終えると厨房へ戻ろうとした。
「すみませーん!」
「あっ、はい!」
今度はうまく呼ぶことが出来た。
「魚定食を三つお願いします。」
「かしこまりました。…ご注文は以上でよろしいでしょうか?」
「はい。」
それから数十分待つと予定通り魚定食が三つ運ばれてきた。
「お待たせしました。こちらアマウスを使った魚定食になります。」
「おお〜!」
自分とティラは目を輝かせた。
「それではごゆっくりどうぞ。」
三人の目の前に置かれた料理はまだ多少湯気が出ていた。
定食なのでもちろん魚以外にも色とりどりの野菜を使った煮物やポテトサラダに
似たもの、スープやご飯などが付いてきた。
「それじゃあ早速…」
「いただきます!」
まずはアマウスを食べてみる。
「ん!うまい!」
今回初めて食べる魚ではないが鮮度が良いのか、それとも育った環境が良いのか、
とても美味しい。
白色だが味や食感は現世の鮭に似ており、こちらの世界でも人気のある魚種だ。
「おいしいわね〜」
ティラはうっとりしながら言った。
「こんなにうまいと酒が欲しくなるな。…二人ともどうだ?」
「じゃあ、頼もうかな。」
「私も!」
三人はビールを追加で注文し、ゆったりと料理を堪能したのだった。
今回は『飲み会』と言う訳ではなかったのと明日以降の予定を
話し合うため三人ともお酒はほどほどにした。
それでも酔いは回っていたが、外に出て冷たい風に当たると
酔いが冷め、ホテルに着く頃にはほぼ平常時に戻っていた。
「それじゃあ、明日以降の予定について話し合うか。」
部屋に着き、二人が落ち着いてきたのを見計らってトーダが言った。
「うん。」
「それじゃあ、まずは俺の意見なんだが…」
ゴホン、とトーダは軽く咳払いをした。
「俺は明日、この町を発った方がいいと思う。理由は二つある。
一つ目は今、お金に困っていないからだ。」
「確かに、セラスで石売った時の大金があるからね。」
「その通りだ。無理に掟を破る条件の仕事をするまでも無いと思う。」
トーダは翼を組みながら言った。
「そして二つ目の理由は次の町の方が規模が大きいからだ。」
「次の町…?」
ティラが首を傾げて言った。
「次、俺らが目指す町はあの山を越えた先…」
トーダは翼を窓へ向ける。
今は夜で町の明かりぐらいしか見えないが確かに、昼間は大きな山が見えていた。
「魔術都市『レノーズ』だ。」
「魔術都市…?」
「レノーズ…?」
自分とティラはぽかんとした。
トーダはすかさず国全体の地図を机上に広げた。
「俺たちがいるのはここ。」
トーダの翼がアルクと書かれた所を指す。
「そしてレノーズは…」
翼はアルクを離れトラトス、と書かれた所に移行する。
どうやらあの大きな山の名前はトラトスと言うらしい。
「山を超え…たすぐの所にある。」
トーダはレノーズをとんとんと叩く。
「なるほど…そのレノーズというのは…」
「魔法使いが居るの!?」
ティラがきらきらした目でトーダに問い詰める。
「ちょっと落ち着け。魔法都市と言われているが魔法使いが繁栄していたのは昔の話。
今じゃほとんど居ないぞ。」
「確かに、今まで魔法なんて見たことないもんね。」
「そんな…」
ティラはがっくりと肩を下げる。
「まあ、絶滅したって訳じゃないから可能性はゼロではないぞ。運が良ければ見れるかもな。」
トーダは少々笑いながら言った。
「さて、話が脱線してしまったがレノーズはセラスより少し下ぐらいの大きさだ。
そっちの方が仕事を見つけやすいと思うんだ。」
トーダは地図を丸めながら言った。
「自分も次の町に狙いを定めた方が良いと思う。」
「私もそう思うわ。」
「おいおい、俺の話に流されていないか?」
「トーダがそう言うんだったら大丈夫よ!」
「それを流されていると言うんじゃないか…?」
トーダは困惑気味に言った。
「いや、自分は流されていないよ。自分も早くこの町を出るべきだと思っていたんだ。」
「そうか…じゃあ明日の午前中、アルクを発つということで異論はないか?」
「うん。」
「ええ。」
「よし、決まりだな。さっきも話題になったが次のレノーズに行くには
山を超えることになる。必要な物は大体セラスで揃えたが、念のため再度補充してから
この町を出よう。」
二人は頷き、話し合いは終わった。
お久しぶりです、たむです。
いやぁ…一ヶ月以上空いてしまいました。
なかなか書く時間が取れないんですよね。その上書くスピードも遅いので…
どうにかしたいと思っている今日このごろ。
さて、物語の方ではあいにく(?)イベントが起こっていません。
クーロたちにとってはこれがいいんでしょうけど読む側としては…ね?
まあ、みなさん気長に見守ってやってくださいm(_ _)m
それではまた。




