セラス郵便局
その後三人はタトタトやそれ以外のモンスターの種類や特徴など、今後役に立ちそうな話を聞いてから研究所を後にした。
「こっちの世界も色々複雑な事があるんだね。」
自分は石を蹴りながら言った。
「ああ。最近は理不尽な事も増えてきたな。」
やはり文明が発展していくと世の中はより複雑になり、不都合が多くなるのか。
自分は現代社会には無い、人々がのんびり気ままに暮らしているこの世界が好きなのだが、もしかしたら
そう長くは続かないのかも知れない。
「あ、また難しい顔してる。」
ティラが隣から顔をのぞかせる。
「…いや、なんでもないよ。それより次はどうする?」
「そうね…掲示板、見に行ってみる?」
ここから遠くないし、と付け加える。
「そうだな。ここでの仕事早く見つけたいしな。」
「じゃ、決まりだね!」
掲示板は町の中央あたりにあった。
町や大都市には大体掲示板が設置されており、その張り紙の中から仕事を見つけることが出来る。
さて、良さげな案件は…?
「これなんかどう?『料理に自信がある人求む!』」
「う〜ん。確かにティラは料理上手だけど自分は…」
「…やっぱり三人一緒の依頼じゃないとだめ?」
ティラはトーダの方を見て言った。
「何かトラブルが起きた時に大変だからな。」
「う〜」
「三人で出来る仕事…これなんかどうだ?」
トーダの翼が示した先は…
「庭の草むしり?」
「これならみんな出来るだろう?」
「却下!」
ティラは両腕でバッテンを作って言った。
「なんでだ?」
「汚れるのが嫌だからです!」
今度は両手を腰に当てて言った。
「これまでの旅でも散々汚れたろう?」
「だからと言って町の中まで汚れたくはないわ。」
「む〜そうか。楽な仕事かと思ったんだが…」
これくらいの町の規模になると様々な仕事がある。
先ほどもあった飲食店関係やベビーシッター、家庭教師などなど。
三人とも出来そうな仕事ならいくらでもあるが今回、いや今後は違う。
出来るなら仕事ついでに『大樹の石』の情報を集めたい。
掲示板をぐるぐる見渡して自分が選んだ仕事は…
「これなんかどうかな?」
自分はとある貼り紙を指差して二人に声をかけた。
「郵便局?」
「配達員募集中?」
「うん。ここなら配達しながらついでに大樹の石について情報を集められると思うんだ。それに…」
自分は体を二人に向けてから言った。
「三人とも方向オンチじゃ無いでしょ?」
「まあ、それはそうだが…」
トーダとティラは貼り紙を見ながら頭を軽く捻り考える。
そして最初に声を上げたのはティラだった。
「うーん。私は別にこの仕事でいいわよ。町の中巡るの楽しそうだし。」
次に真剣に悩んでいたトーダが口を開けた。
「条件は昼間勤務で七日間、給与は一人三千テルか…いいんじゃないか?」
「じゃあ決まりでいい?」
「うん!」
「おう!」
自分は再び掲示板の方を向き、お目当ての貼り紙を破れない程度に勢いをつけて剥がす。
「じゃ、早速向かうか。」
三人は郵便局がある方へ歩き始めた。
郵便局は町の中央からやや北の方にあった。
「思っていたよりも大きいわね。」
ティラに釣られて自分も建物を見上げていた。
「さすが大都市ってところだな。さて、早速入るか。」
「うん!」
中に入ると荷物を送りに来た人、切手を買いに来た人などでごった返していた。
「人、多いね。」
「そうだな。さて…とりあえずあの窓口に行ってみるか。」
トーダの視線の先にはたった今、客との話し合いを終えフリーになっている窓口があった。
「あのーすみません。」
猫獣人の女性局員は顔を上げた。
「はい、どんなご用件でしょうか?」
「町の掲示板でこの貼り紙を見まして。」
自分は上着の内側ポケットから例の紙を取り出し、机の上に置いた。
「ああ、アルバイト希望ですね。少々お待ちください。」
女性局員は貼り紙を持って席を外した。
そして数秒後…
「お待たせしました。どうぞこちらへ。」
女性局員の後に付いていくと『応接室』と書かれた部屋に案内された。
「担当の者が来るまで少々お待ちください。あ、どうぞお座りください。」
三人は言われた通り席に着く。
「やっぱりこの時が緊張するわね。」
「うん、そうだね。」
面接は現世ほどきっちりしていない事が多いが、幾度も経験を重ねた自分でも多少は
緊張するもの。
トーダの方も顔は冷静なままだが多少翼が震えていた。
この世界でも緊張なしで生きるという願望は叶わない、か。
そんなどうでもいい事を考えているとドアがノックされた。
「はい!」
三人は元気よく返事をする。
そして扉が開かれると現世でイメージが定着しているヤギ獣人…ではなく
顔の周りにもさもさのオレンジの毛が付いたライオン獣人だった。
「アルバイトを希望したのはあなたたち三人かな?」
見た目と声の渋さから推測して五十代か六十代くらいのおじさんだった。
うう…会社の怖い課長を思い出す…
「はい、そうです。」
「そうか…」
おじさんはそう言うと自分たち三人をじろじろと見始めた。
そして…
「採用!」
「へ?」
突然の採用に三人は間抜けな声を出す。
「採用って…あの…」
「いやはや、驚かせてすまんね。実は今ここの郵便局は人手不足でね。貼り紙を出してても
なかなか人が集まらなかったんだ。」
「はぁ…」
ティラがため息に近い声を出した。
「そして今日、いきなり三人が面接に来た。これは採用するしかないだろう?」
おじさんはにかっ、と笑った。
それに対して自分たちは苦笑いをする。
「それじゃ早速、細かい打ち合わせをしようか?」
「は、はい…」
どうやら無事(?)に試験に合格したみたいだ。
「私はセラス郵便局の局長を務めているロイス・フォーマスだ。これからは気軽にロイスと呼んでくれ。」
そう言った後、手を差し出されたので一人ずつ握手をした。
「それでは早速、詳細な契約内容と仕事内容について話をしたいがよろしいかな?」
「はい、よろしくお願いします。」
「それではまず勤務期間についてだが…」
こうして細やかな説明と契約を結び、晴れて三人は臨時郵便局員となったのだった。




