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セントティーナの夜  作者: たむ
バーサル編
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ティラの過去

 宿屋に戻りそれぞれ買ってきたものを食べ終わるとティラはお風呂へ行ってしまい、部屋には自分とトーダが残った。

トーダはこの町の本屋で買った小説を読んでいる。自分はというとベットで横になっていた。

この世界にはスマホやパソコン、テレビなどの電化製品がないためやることがなくなってしまう。

トーダと一緒に本を読んでもいいが今持っている本はすべて読み終わってしまった。

ああ、もう少しで(現世での)起床時間か。明日は修正したエビデンスをチェックしてもらわないと。

そんなことを考えていると

「クーロはティラの過去、知っているのか?」

突然トーダが話しかけてきた。

「いや、詳しくは知らないけど大体は…」

「そうか…」

「トーダは知ってるの?」

「いや俺も詳しくは知らない。」

「そっか。」

その後トーダは再び本を読み始めた。やはりこのような話題は本人に聞けるタイミングがない。

しばらくするとティラが戻ってきた。

「ふう~気持ちよかった。次どちらかどうぞ。」

「トーダ、先いいよ。」

「お、わかった。じゃあお先に失礼~」

そう言ってバスルームに入っていった。


 自分とティラの二人だけの空間。旅を始めたばかりの頃は緊張していたが今となっては慣れてしまった。

と言いたいところだがそれは理論上無理だ。だってお風呂上がりでいい匂いがするモフモフが目の前に

いるのだから!現世では絶対に体験できないこと。興奮で頭がぼんやりしてくるがそれはいつも通り。

そんな感じで幸せに包まれていたのだが、しばらくすると先ほど言われた事が頭をよぎった。

『ティラの過去、知っているのか?』

自分から聞くことはできない、ティラを苦しめるだけだ。しかし一方で過去になにがあったか気になる自分がいるのもまた事実。そんなことを考えてティラを見つめていると目があった。

「あ!ちょっと!か弱いレディをそんないやらしい目で見ないでよ!」

「い、いや、誤解だよ!」

「じゃあ何考えていたか言ってみなさい!」

本気で怒っていない。いつものじゃれあいだ。そうわかっていたはずなのに…

自分はその場の勢いでこんな言葉を口に出していた。

「ティ、ティラの過去について…」

ティラは動きがピタッと止まった。自分はやっと我に返り後悔を始めた。

「い、いや、ち、違うんだ!か、過去といっても自分とティラが出会った頃を思い出していて…」

ティラは動かない。

自分は動けない。

部屋に静寂が訪れた。どうしよう。このままでは…

「私のママとパパはね、医者だったの。」

唐突にティラが口を開いた。

「え…」

「サンタクロークという町に…」

サンタクロークとはティラが生まれ育った町だと前に聞いたことがある。

「何不自由なく幸せに暮らしてた。なのに…なのに…!あの黒いフードとマスクをした男が来たら…!」

ティラの顔から雫が一粒落ちた。

「病気が流行り始めたの!」

「で、でもその男が病気を持ってきた証拠なんて…」

「言ったでしょ?私の両親は医者だって…症状が現れた人から事情聴取を行ったの。そしたら

全員に共通するのがその男と話したってこと。」

ゴクリ、と唾を飲んだ。

「それでママとパパはその男が止まっている宿屋を訪ねたの…だけどもういなかった。」

この後は話の中で最も辛い箇所。自分は間一髪でそれに気がついた。

「…わかった。それ以降はもう言わなくていい…ごめん。」

「いいの。いつかは言わなきゃいけないってわかっていたし。ああ、トーダがいないからあと一回話さなきゃ。」

そう言ってティラは無理やり作った笑顔を見せた。

「…ちょっと外の空気吸ってくるね。」

と言うと同時に走って部屋を出て行ってしまった。頭の中では追うべきか追わないべきか迷ったが体は無意識に反応していた。

 獣のスピードで宿屋の玄関まで行き、ドアを開ける。しかしティラの姿はどこにも見当たらない。

現世なら捜索が難しいがここは異世界ヴィーリアス。自分は獣人。匂いを頼りにして後を追おう。

そう考え足を前に出した瞬間、後ろから何者かに飛びつかれてしまい地面に倒れた。

「まずは事情を説明しろ!」

「ティラを…!ティラを追わなきゃ…!」

思いっきりじたばたするが自分よりも一回り大きい体格のトーダに抑えられているので不可抗力だ。

こうして段々と抵抗する力が弱くなっていき最終的には涙をこぼしていた。


「なるほど、そういうことか。」

部屋に戻り先ほどの出来事をひと通り話すとトーダは辛そうな顔でうなずいた。

「だから後を追って謝らないと。」

「まあ待て。今はそっとしておこうぜ。」

「でも!」

「ティラはもう子供じゃないんだ。きっとクーロのことを嫌いになったりしてないさ。」

「…」

「一時間待って帰ってこなかったら探そう。」

自分ももう子供ではない。素直に従った。

「それじゃあ風呂入ってこい。」

「あ。」

そういえばまだだった。そそくさとタオルと服を用意し備えつけのバスルームに入る。

部屋の中には浴槽はなく、蛇口と桶、椅子がある簡素な作りだった。自分は服を脱ぎ

体を洗い始める。ボディーソープとシャンプーの境目は未だに分からない。が、この世界には

一種類の石鹸しかないので心配はいらない。みるみる全身があわあわになっていった。

さて流すか。そう思い桶にお湯を溜め始めた瞬間バスルームのドアが勢いよく開いた。

「大変だ!」

「わっ!ちょ、開けないでよ!」

「それどころじゃない!ティラが!」

「え!?」

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