女神の元へ
三人はバックからつるはしと袋を取り出し、せっせと採掘を始める。
そして袋いっぱいになったところで…
「よし、これくらいの量があれば十分だろ。」
「うん。」
「それでこれは誰が持つの?」
ティラの素朴な疑問。
誰が持つのか。
宝石が入った袋は重い。
重いものはいつもはトーダが持ってくれているが今は負傷中。
自分も持てなくは無い重さだが傷口が開いてしまうかもしれない。
ティラはあまり力が無い。
二人もこの問題に気づいたらしい。
「…村人に助けてもらうか。」
「だったら私が行くわ。」
ティラはばしっ、と手を挙げた。
「じゃあ俺とクーロはここで待たせてもらおう。もう魔物はいないと思うが気をつけてな。」
「うん!」
そう返事をし、颯爽と行ってしまった。
残された二人は特にすることも無く、青白く照らされた洞窟をただ眺めていた。
ティラと村の住人が到着するまでまだまだ時間がある。
自分にはトーダに聞きたいことがあった。
「トーダ?」
「ん?」
トーダはゆっくりと自分の方へ顔を向けた。
「あの…前から聞きたいことがあって…」
躊躇するには訳があった。だが、今しかチャンスはない。
「えっと…」
「俺の過去についてか?」
自分はビクッとした。
「はっはっは。図星か。」
「…うん。」
トーダはいったん下を向いてからゆっくりと顔を上げた。
「それじゃあ俺が覚えている一番古い記憶から話してやるよ。」
自分はコク、と頷く。
「俺はとある村で両親と六人の兄弟で暮らしていたんだ。父も母も優しく、
兄弟とも仲が良かった。幸せだったよ。八歳までは。」
ぽちゃん、と水が跳ねる音がした。
「ある日、俺は母からお使いを頼まれた。にんじんとお芋を買ってきて、と。
店は村の中にあり、家から歩いて数分だった。別に大した事じゃない。俺はすぐに出発した。」
疲れも相まって自分はぼーっと青白い光を放つ宝石を見て話を聞いていた。
「頼まれた食材をさっと買って店を出るとなんだか村が騒がしい。そして鳥でも分かる焦げ臭さ。
俺は嫌な予感を抱きながら家を目指した。」
「もういいよ。」
自分は視線を宝石からトーダに移し言った。
「…」
「なんかごめん。」
「いや、いいんだ。俺もいつか言わなきゃいけないと思っていた。それに……危ない!!!」
振り向くより先に痛みが走った。痛い、痛い、痛い。そして今度は寒い。
「くそっ、まだ生き残りがいたのか!」
「ぐぎゃあ!!」
もはや目を開けることすらままならない。
「クーロ!!大丈夫か!」
トーダの声が聞こえるが返事が出来ない。声が出ない。
「死ぬなよ!クーロ!」
その言葉を最後に意識が途切れた。
目を開ける。しかし辺りは真っ暗。
手を動かす。だが動かした感覚があるだけ。
ここは夢の中なのだろうか。それともあの世なのか。
「ようやく起きましたか。」
無機質の女性の声がどこからともなく聞こえた。
「あなたは死にました。地球でも、ヴィーリアスでも。」
唐突に告げられた。
「あなたは?」
「私は…そうね、あなたたちが勝手に呼んでいる神って存在かしら?」
こんなに頭がこんがらがりそうになったのは初めてヴィーリアスに来た時以来だろう。
「まあ現実をうまく飲み込めないのも仕方ないわ。この後あなたは無へと帰って…ん?これは…?」
ん?さっきまで堂々としゃべっていたのになんだか様子がおかしい。
「まさか、これは…!」
その言葉を聞くと同時にとてつもない温かさが自分の意識の中に流れ込んできた。
「あなた、大樹の石を持っているわね?」
自分の持ち物を思い返してみたがそんな物はおろか、名前すら聞いた事が無い。
「これは確かに大樹の石だ。良かったな、生き返ることが出来るぞ。」
ついさっき死の宣告を受けたばかりなのに今度は生き返ることが出来る、ますます混乱する。
「…だがな、生き返ることが出来るのは一つの世界のみ。」
神と名乗る者は自分を置いて話を進めていってしまう。
「すなわち、地球かヴィーリアスか、だ。」
いつの間にか究極の選択を強いられていた。
「まあ時間はたっぷりとある。悔いの無い選択をするんだな。」
その言葉を最後に長い沈黙が訪れた。
聞きたい事が山ほどあるが自分の呼びかけに反応しない。どうやら答えを出して事を進めるしかないようだ。
自分は大きくため息をついてから(実際には感覚しかないが)真剣に考え始めた。
地球かヴィーリアスか。
当たり前だがこの選択はとても難しい。
単純に考えればヴィーリアスの世界の方が楽しいだろう。しかし地球には親や友人がいる。
……かなりの時間を費やして考えたがやっぱり出せない。
その時、また神と名乗る者の声が聞こえてきた。
「あ、言い忘れていたけれど石を使わずにこのまま無に帰るという選択肢もあるわよ。」
そしてまた沈黙の時が訪れた。
石を使わずにこのまま死ぬ、か。
それが良いかもしれない。
生き返った先が地球だろうとヴィーリアスだろうと苦しみながら残りの人生を歩むだろう。
親や友人に会いたい、ティラやトーダに会いたい、と。
ならいっそのこと、死んでしまおう。
そうして答えを言おうとした時、ある言葉が頭に浮かんだ。
「死ぬなよ!クーロ!」
自分が最後に聞いた言葉。
答えが喉元まで来ていたが一旦飲み込む。そして深呼吸。
そうだ。こんな時こそ落ち着かなければ。
自分はもう一度今の状況を整理した。
与えられた選択肢は全部で三つ。
地球で生き返るか。
ヴィーリアスで生き返るか。
このまま死ぬか。
あれ?そもそも自分はこんな選択肢も無く死ぬはずだった。
会話を思い返してみる。
…そうだ、大樹の石を持っていたから生き返ることが出来るんだ。
けど自分はその石がなんなのか分からない。
もしかしたら地球の自分が持っていたのかも、と一瞬考えたがそもそも石を集める趣味なんて無い。
やはりヴィーリアスの自分が持っていたに違いない。
…だとすればヴィーリアスで生き返ってもう一つ石を探せばいいんじゃないか?
そうだ!それだ!
自分は意を決し、ゆっくりと息を吸い込む。
そして目一杯の大声で叫んだ。
「大樹の石を使ってヴィーリアス世界の自分を生き返らせてくれ!」
しかし返事はなかった。
その代わりにどんどんと温かくなっていく。と同時に一面真っ暗だった辺りが明るくなっていく。
そして温度と光が最高潮に達した時、自分はゆっくりと目を瞑った。
トーダ、ティラ、待っててね。今から戻るから…。
お久しぶりです。たむです。
前回投稿から日が空いてしまいました…
理由としてはリアルでの生活が忙しかったからです。(残業減らして欲しい…)
今後も投稿ペースは遅いと思いますが気長に待って頂いたら幸いです。
今のところ途中で筆を折るつもりはないです。
さて、今回の物語で初めて女神という存在が出てきました。
今までの話では宗教的な要素は出てきませんでしたが、これを機に今後も少しずつ入れていこうかなと思います。
あ、女神のインパクトが大きくて忘れていましたが冒頭でトーダくんの過去が少し語られています。
これでティラちゃんとトーダくんの過去が分かりましたが、皆様お分かりのとおり二人とも暗いです。
しかし、クーロくんと出会ってからは前向きに生活しています。本人は気付いていませんが
二人の生きる源となっているようです。これは意地でも生き返らなければなりませんね、クーロくん?
クーロくんは無事に二人の元へ戻れるのか?そして大樹の石を見つけることはできるのか?
次回もよろしくお願いします!
たむ