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セントティーナの夜  作者: たむ
アラルス編
10/36

準備

 ジルを見送って部屋のドアを閉める。

「よし、それじゃあ持ち物の確認をしよう。そして足りないものがあったら…」

「の、前に何か忘れてない?」

ティラが割り込んだ。

「え?」

「ほら、依頼主のニーナちゃんに今の状況を伝えないと。」

「あ!」

自分とトーダは同時に声を上げた。

「すっかり忘れていたよ。」

「俺もだ。だが、今行っても居ないんじゃないか。」

「え?」

今度はティラが疑問を抱いた。

「だって、ほら。」

トーダは壁に掛けてある時計を見ている。ただ今の時刻は一時五十分。

「ああ、確かに。今の時間はきっと学校だね。」

「あ…」

ティラは顔を赤くしてこう言った。

「べ、別に今すぐ行こうとしてたわけじゃないわよ。」

「え?だけどさっき持ち物の確認の前に…もごご!」

突然、トーダの大きな翼で口を塞がれる。

「まあ忘れていたのは事実だしな。よし、まずは持ち物の確認からだ。」


 道具を確認すると一つだけ足りないものがあった。

それはランタンの燃料、すなわち油だ。

「セラスまでは持つと思っていたんだが暗い洞窟を探索するとなるとなぁ。」

「ちょっと心許ないね。」

「でもこの村で油は売ってるかしら?」

確かにティラの言う通りだ。大都市や町では普通に売っているが果たして村ではどうだろか?

暗くなったらろうそくを使用し、油が必要なランタンなどは使ってないのかもしれない。

「まあ、ひとまず店へ行ってみるか。」



 さっそく三人は宿を飛び出し、この村で唯一の店を訪れた。

「はい、いらっしゃい。」

出迎えてくれたのは牛獣人の女性だった。

「あの、油って売ってますか?ランタンに使用したいんですが…」

「ああ、油ね。はい。」

どん、と油がたっぷり入った瓶が目の前に置かれた。

「思ったよりすんなり手に入ったわね。」

ティラは瓶を見ながら呟いた。

「?」

店員は不思議そうな顔をしている。

「あ、すみません。この村に油があるか不安だったもので…」

「ああ、この村はよく旅人さんが訪れるのでランタン用の油も取り扱っているわ。」

「さすがバーサルとセラスの中間点だな。」

トーダが納得したようにうなずく。

「それで、油だけでいいのかな?」

「はい。」

「それじゃあお会計三千テルになります。」

自分はバッグの中から一枚の紙を取り出した。

「まあ、これは…」

店員は驚きながら紙を手に取った。

「…なるほど。分かりました。お代は要りません。」

「…なんだか、申し訳ありません。」

「いえ、いいのよ。村長の命令だし。それに…」

「それに?」

「例の洞窟へ行くんでしょ。なら、これくらい当然だわ。」

店員はにこっ、と笑った。

「恩に着ります。」

三人はお礼をして店を後にした。



店を出て時刻を確認すると二時三十分。もう少しで学校が終わる頃かな。

「この時間だとまだ学校かもね。」

「ああ。そうだな。」

「う~ん。何もすることないしとりあえず向かってみよ?」




 やや早いがティラの提案でニーナの家を訪ねることにした。

場所はこの前初めて会ったときに教えてもらった、丘の上に建つ一軒家だ。

「ごめんください。」

すると、

「はーい。」

という声とともにガチャ、とドアが開いた。

出てきたのはヤギ獣人の女性。

「あの…どちらさまでしょうか?」

女性は少し怯えた口調で訪ねてきた。

「いきなりですみません。驚いてらっしゃいますよね?」

「はあ…」

「自分の名はクーロ。ティラ、トーダとともに旅をしている者です。実はニーナちゃんから依頼された

仕事の進捗をお伝えしたくて…」

「まあ。私の娘が何を依頼したのですか?」

ここで大切なことを忘れているのに気づいた。

母に宝石をプレゼントしたいみたいで…なんてことは言えない。

「え、えっと…あの…」

「私たちはニーナちゃんに頼まれたんです。お花を採ってきて欲しいと。」

ナイスティラ。

「あら、そうだったの。けどなんでかしら?」

「家のリビングに飾りたかったそうです。」

「そうだったの。ということはお花を持ってきてくれたわけね。」

ん?またもやピンチ。今ここに花なんてある訳がない。

「はい!」

しかしティラは元気よく返事をした。自分とトーダは慌てながらティラの方を見る。

「ちょっと待ってください。」

すると持っているバッグの中から一輪の花を出した。

「とても綺麗ね。なんていう名前なの?」

「クリノ草と言います。秋に花が開く珍しいタイプなんです。」

女性はその花の美しさにうっとりしていた。対して自分とトーダはぽかーんとしていた。

後で問い詰めなければ。


 …そんな状況の中、ある少女の声が聞こえてきた。

「おかーさん、ただいま~、ってあれ?クーロさんたち?」

「あら、ニーナ。お帰り。今クーロさんたちがお花を持ってきてくれたのよ。」

案の定、今度はニーナがぽかーんとしていた。三人は必死に目配せをする。

するとニーナも分かってくれたらしく、

「ああ、私がお願いしたお花を持ってきてくれたのね。うれしいわ。」

ナイスニーナ。

「それじゃあお母さんはこの後用事があるからお留守番よろしくね。そしてクーロさん、ティラさん、トーダさん。ありがとうございました。」

ペコ、と頭を下げた。

「いえいえ、お安い御用ですよ。」

自慢げにそんなことを言ったらティラに足を踏まれた。



 ニーナの母が去った後、自分とトーダはティラに詰め寄る。

「なんで花なんて持ってんの?」

ティラはわざとらしく首をかしげた。

「え?この花はもともと傷薬を使うためのものだったの。ちょうどあって良かったわ。」

ああ、なるほど。

「ニーナのお母さんにはこれが依頼内容って言っちゃったからあげるわ。」

「あ、ありがとうございます。ということは母にはバレていないんですね。」

「ああ、これもティラのおかげだ。」

「へへっ。」

ティラは恥ずかしそうな、うれしそうな顔で笑った。

「それでみなさんが私の家を訪ねてきたのは…」

「ああ。本当の依頼内容の進捗を伝えたくてな。」

「!。と言う事は洞窟について何か分かったんですか!」

ニーナは身を乗り出した。興奮しているみたいだ。

「あ、取り乱してしまってすみません。ここで話すのもなんですし、家の中へどうぞ。」

一行はリビングに案内され、椅子に座る。

「あ!そうだ。ちょっと待っててください。」

ニーナはそう言うと下ろしかけた体を再び起き上がらせ、どこかへ行ってしまった。

と、同時にトーダが自分とティラの服を引っ張った。

「分かっていると思うが洞窟で起こった悲劇については話すなよ。」

「もちろん。」


 しばらくするとニーナが花瓶を抱えて戻ってきた。

「早くお水をあげないと枯れちゃう。」

急いで先ほどの花を挿す。

「これでよし。みなさんお待たせしてしまってすみません。」

「いいのよ。そのお花、大切にしてね。」

「はい、もちろん。」

「それじゃあ、本題に入るか。」

ニーナも今度こそ椅子に座り真剣な表情になる。

「まず初めに、洞窟の場所は大方見当がついた。」

コクッ、ニーナはうなずいた。

「で、出現するモンスターについても一応伝えておく、タトタトだ。」

その名前を聞いた瞬間、ニーナはぽかんとした顔になる。

「あの、タトタトというのはあの…」

「そうだよ。あのタトタトだ。けど例の洞窟で出現するタトタトは普通じゃないみたいなんだ。」

「とても凶暴化しているみたいなの。」

ティラが説明をつけ加えたが、どうも納得していない様子だった。

「まあ俺たちも完全に納得したわけじゃないからな。」

「大丈夫?」

固まってしまったニーナにティラが心配の声をかける。

「あ、はい。大丈夫です。ただ、疑問に思ったことがあって…」

「なんだい?」

ニーナは軽く咳払いをしてから話し始めた。

「モンスターが出ない洞窟だったのに突然出るようになって、しかも変異したタトタトって

なにか裏があるんじゃないかと思って…」

確かにニーナの疑問はごもっともだ。

「タトタトを捕まえて例の洞窟に放つことは簡単だろう。しかしタトタト、いやモンスターを

変異させることに成功した、という事例を俺は聞いたことがない。それにこんなことをしても誰も

得をしない。」

トーダは険しい顔をしながら答えた。

「僕たちもニーナと同じことを思ったけどトーダの言った通りなんだ。」

「そう…ですか。」

ニーナはうまく納得できていないようだ。

「現実的に考えるとたまたま突然変異したタトタトが何らかの理由で住む場所を探していて、

新たな住居にあの洞窟を選んだ、ってことだと思うわ。分からないことは多いけど…」

「確かに…まあそれが現実的ですね。」

依然としてニーナはうまく飲み込めていないようだった。

「それじゃあ、次に出発の日時についてだが…」



 少々時間が掛かってしまったが、一通り依頼内容の打ち合わせが終わった。

そして家を出ようとした瞬間、

「皆さん、待ってください!」

ニーナはポケットに手を突っ込み、何かを取り出した。

「これ…もし良かったら持っていってください。」

取り出されたのは綺麗な宝石の首飾り。

「これは…」

「昔お父さんから貰ったお守りなの。一応首から下げられるけど紐が切れてどっかに落としてしまうのが

怖くていつもポケットに入れてるの。」

ニーナはふふっ、と笑う。

「そんなに大切なもの、いいの?」

「いいのよ。このお守りはこれまで私のことを守ってきてくれた。だからきっと、今度は

クーロさんたちを守ってくれるはずだよ。」

自分は少し迷ったが、ありがたく受け取ることにした。

「ありがとう。」

「いえいえ。明日はよろしくお願いします。」

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