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第8話 マシュマロと変態

朝の集計で、ジャンル別3位でした。

1歩後退ですが、もっと頑張ります!

 ハラリ、と落ちたのは、白い包帯だった。

 現れたのは、雪のように真っ白な肢体だ。

 包帯の中に隠れていた火傷のような痕は、綺麗さっぱり消えている。


「きれい……」


 呟いたのは、側にいたルーナである。

 俺も同じようなことを思った。

 本当に綺麗な姿をしている。


 濃く女神のようなブロンドの髪。

 白い肌は見るからに柔らかそうで、まるで真綿のようだ。

 張り出した胸は大きく、畳んだ太股もむっちりとしていて、包容力があった。


 今にも背中から翼が生えてきそうなほど、神々しい姿をしている。


 皆が息を飲んだ。

 包帯の下に、こんなに美しいエルフがいたとは、誰も思わなかったのである。


 そのティレルもまた驚いていた。

 呪いが完全に解かれた己の身体を見つめる。

 顔を上げて、再び俺の方を向いた時、くすんでいた瞳がみるみる輝きを帯び始めた。


 やがて一条の涙が頬を伝う。

 ティレルは鳴きながら、小鳥のさえずりのような声を聞かせてくれた。


「私……。私の身体は……」


「ああ。安心しろ。どうやら、呪いは全部吹き飛んだらしい」


 俺はステータスを確認する。



  名前    四條 陸 

  年齢    22

  種族    人間

  職業    勇者

 ――――――――――――――

  レベル     1

  攻撃力   580

  防御力   320

  素早さ   320

  スタミナ  140

  状態耐性  810

 ――――――――――――――

  スキル   縛りプレイ

 ――――――――――――――

  現在の縛り なし

 ――――――――――――――

  称号    ギルドマスター

        呪解マスター



 『縛り』の項目がなくなっている。

 おそらく目的を達成したからだろう。

 つまり、ティレルの呪いは完全に消滅したと考えていいはずだ。


 我ながら凄いスキルだな。

 ステータス上昇だけじゃなくて、呪いまで解けるなんて。

 名前とは完全に真逆である。

 これなら、『縛り』にかこつけて、なんでも出来てしまう。


 まさに万能型スキルだ。


「ありがとうございます!」


 俺が自分のスキルに驚いていると、突然押し倒された。

 瞬間、むにゅっと柔らかな感触が、俺の胸に襲いかかる。


 ま、マシュマロ……!


 思わず変な奇声を上げそうになるのを必死で堪えた。

 見ると、ティレルが俺に抱きついている。

 そのわがままボディを、これでもかと密着させていた。


 俺が男のリビドーに耐えている一方で、ティレルは泣きじゃくる。


「まさか……。こんな日がくるなんて。ありがとうございます、勇者様」


 顔を上げたティレルの笑みは、どんな花々よりも可憐で綺麗だった。


 それを見た瞬間、彼女に抱きつかれていることも、包帯1枚隔てて密着されていることも、俺は忘れる。

 ただただ笑顔で返すことが、最高の返答だと思い、反射的に答えていた。


「良かったな」


「はい!!」


 涙の粒を弾かれ、宙を舞う。

 本当に嬉しそうだった。

 そして、それが本当のティレルの姿だった。


「お姉ちゃん、元気になってよかったね」


「ありがとう……。えっと……」


「ルーナだよ」


「私はティレル。ありがとう、ルーナちゃん」


 ティレルはルーナの頭を撫でる。


 すべてはうまくいった。

 そんな空気が流れる中で、男の下品な笑い声が響く。

 ゲルダだ。

 ティレルの首輪に付いた鎖を引く。

 たちまち彼女は、俺たちの元から引き離されていった。


「ありがとうよ、外れ勇者様。おっと、これは失礼な呼び方だったな、勇者様。あんたのおかげで、奴隷の商品価値が上がったぜ」


「おい。乱暴はやめろ!」


「いいんです、勇者様」


 立ち上がった俺を制止したのは、ティレル自身だった。

 笑顔のまま俺にこう言う。


「一生解けないと思っていた呪いがなくなったのです。……それだけで、私は幸せですから」


 頭を下げる。

 ブロンドの髪が緩やかにしなだれた。


「ありがとうございます、勇者様」


 そしてティレルはゲルダに引かれ去っていく。


 だが――。


「ちょっとぉ! もう! 遅いじゃない。いつまで、ワタシを待たせる気なの? どんダケー!」


 なんとも言えないイントネーションの男が天幕の中に入ってきた。

 男なのに化粧をしており、しかも分厚く、異様。

 煌びやかな装飾具を纏った小男だった。


 おそらく貴族。

 ティレルの買い取り先だろうか。

 その証拠にゲルダが揉み手をしながら、首を竦めた。


「お客さん、すみません。でも、喜んでください。なんと呪いが解けたんですよ。どうです? 別嬪でしょ? そこでご相談なんですが……」


「は? 呪いが解けたですって?」


「え、ええ……。そこで金額についてご相談が」


「何いってんのよ、あんた! 呪い憑きのリアル包帯少女がいるっていうから、はるばる2つ国を超えてやってきたのよ!!」


 …………へっ? リアル包帯少女?


「あ、ああ。そういう……」


 ゲルダは無理やり理解した顔で、目を背けた。


「な、なら……。包帯を巻けばいいじゃないですか?」


「あんた、何にもわかってないわね!」


 ゲルダは貴族に凄い剣幕で怒鳴られる。


「包帯少女はね。怪我がしてるからいいの! 動けない少女を愛でるからいいのよ! コスプレに興味はないの。アタシはね、本物の包帯少女を見たいのよ!! 苦痛に歪む、可哀想で幼気な少女を見たいのよ!!」


 うわぁ……。

 真性の変態だぁ……。


「ねぇ。リックお兄ちゃん、包帯少女って……え? なに? なんでもわたしのおめめを隠すの。お兄ちゃん」


 ダメです、ルーナ。

 見ちゃいけません。


「それを献身的に看病するワタシ! それがワタシが求めてるドラマなの! わかる?」


 一生わかりたくないわ!


「それになに? 首輪をつけて! 乱暴よ!」


「いや、これは――」


「可哀想じゃない! 奴隷の扱い方を知らないの? 商品なのよ、その子は?」


 お前が言うか……。


「悪いけど、この商談はなかったことにするわ」


「そ、そんな!!」


「なんか文句あるの?」


 すると、貴族の後ろから厳つい男たちが現れる。

 いずれも屈強な戦士だ。

 たちまちゲルダを取り囲む。

 鋭い眼光を飛ばし、ゲルダに向かって凄む。


「もう1度聞くわ? 何か文句ある?」


「な、何も文句ありません!!」


「よろしい。さあ、帰るわよ。ああ、ここまでの旅費はあんたに請求するから、そのつもりで」


「な――――!」


 そして貴族は男2人を伴い去っていった。

 まるで嵐のようだ。

 ゲルダは膝を突く。

 顔面は蒼白となり、頭を抱えた。


 その肩に手が置かれる。

 ボーヤーさんがニヤリと笑った。


「お前さんの商談は破談したようだな。優先権はこっちの兄ちゃんに移ったってことでいいよな」


「…………くっそぉ!! 勝手にしろ!!」


 ゲルダは握っていた鎖を地面に叩きつける。

 大股で天幕を後にした。


 どうやら、ティレルのことを諦めたらしい。

 ふう……。良かった。

 ティレルがあんな変態貴族のところに行かないで。

 まあ、大事にはしてくれそうだったけどな。


 俺が胸を撫で下ろしていると、ボーヤーさんは言った。


「兄ちゃん……。いや、勇者殿。私からもお礼を言わせてくれ。ティレルを救ってくれてありがとう」


「別にお礼をいわれるようなことはしてません。困っていたから助けただけです」


「実は、外れ勇者という噂は耳にはしていました。ですが、あなたは立派な勇者だ。もしあなたの一助になるというなら、是非ティレルをもらってやって下さいませんか? お代は結構ですから」


「いや、それは悪いですよ」


「最初に話したと思いますが、奴隷に付加価値をつけるのが、奴隷商の仕事です。それが出来なければ、商人失格だと私は思ってる。だから、私には初めからティレルを売り買いできる資格がなかった。けれど、あなた様にはあった。呪いを解いた時点で、ティレルはあなた様のものになったと、私は確信しました」


「でも……」


「はははは! なかなか強情なお客さんだ。商人がタダで譲るといっているのに。

わかりました。こういうのは、どうでしょうか? 私が勇者に恩を売った――そう喧伝してもらいたい。つまりは店の宣伝です。ティレルは、その宣伝料ということで?」


 俺を広告塔にしようっていうのか。

 なるほど。考えたな。

 でも、俺は『外れ勇者』だぞ。

 あまり良いイメージキャラとは思えないが……。


 まあ、ボーヤーさんがここまで言うんだ。

 これ以上、拒否するのも野暮というものだろう。


「わかりました。……でも、ティレルの気持ちはどうでしょうか?」


「私は構いません。どうかお側に仕えさせてください、ご主人様」


 ティレルは傅いた。


 どうやら商談成立らしい。

 予定外の買い物だったけど、ちょうどいいだろう。

 明日には家に住むことになるし、家の中のことをやってもらう人間がちょうど必要だったんだ。


 ギルドのクエストをこなしている間、ルーナ1人に留守番させるわけにもいかないしな。


「ティレルお姉ちゃんとルーナ、一緒に住むの?」


「ああ。ルーナはどうだ? ティレルにいてほしいか?」


「ティレルお姉ちゃん、家族になる?」


「うん? そういうことになるかな」


「じゃあ、おじさんとバイバイしても寂しくないね」


 ああ。そうか。

 ルーナは俺に「ティレルを助けて」と懇願したのは、単純にティレルが可哀想と思ったからじゃない。

 家族――つまり、ボーヤーさんと引き離されることに同情したんだ。


 ルーナは誰よりも家族と離れることの悲しみを知っている。

 きっとティレルにも味わってほしくなかったのだろう。


 俺は今一度、ティレルに向き直った。


「よろしく頼むよ、ティレル」


「お任せ下さい」


 ティレルは大きな胸を張る。

 そして、彼女もまたボーヤーの方を向いた。

 そっと親同然だった奴隷商を抱きしめる。


「ボーヤーさん、今までありがとうございました」


「なんの……。幸せになるんだよ」



 お前には、その価値があるのだから……。



「はい……」


 かすれた声で、ティレルは返事する。

 水色の瞳には、また涙が浮かんでいた。


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