第5.5話 ハンバーガーとスライム(後編)
おかげ様でジャンル別3位を獲得しました。
ブクマ、評価してくださった方、本当にありがとうございます!
久々の表紙順位でテンション上がったので、更新させていただきます。
どうぞ楽しんで下さい!
俺の最初のクエストは、10体のスライム討伐だった。
魔物の中で、スライムが1番弱いらしい。
見た目はぶよぶよしていて、気持ち悪いが、核さえ潰せることが出来れば、子どもでも倒せるそうだ。
『リックさんなら大丈夫です! ファイト!』
最後はエールを送ってくれた。
俺のことを心配してくれているのだろう。
ネレムさんの不安をよそに、俺は落ち着いていた。
魔物という未知の生物に対して怖くないといえば嘘になる。
それでも、歩みを止めるつもりはなかった。
宿でルーナが待っている。
彼女のためにも、そして自分自身が異世界で自立して生きていくためにも、お金はどうしても必要だ。
そのためにスライムを狩る。
フリークエストを達成すれば、宿代と今日の夕飯をたらふく食えるぐらいの褒賞金は貰えるらしい。
しかし、スライムを狩るよりも、スライムを見つける方が大変だった。
王都周辺に棲息していると聞いたが、どこにもいない。
俺は目を皿にして、スライムを探した。
すると――。
「いた!」
1匹の青いスライムを見つける。
草場の中を隠れるように進んでいた。
俺はダッと地を駆ける。
拳を振り上げ、一気にその核を潰そうとした。
だが、俺はつと足を止める。
「あれは!?」
その瞬間だった。
ぐしゃっ!
青いスライムが弾ける。
核が割れ、飛び散った。
「お前……」
やったのは俺じゃない。
頬を張らした大柄の男だった。
覚えている。いや、忘れもしない。
俺が昨日ギルドでのした、元ギルドマスターだ。
確かヴィンターという名前だったはず。
「よう、小僧……。こんなところで会うとは奇遇だな」
「あんた、何をしてるんだよ。こんなところで」
「見てわからないか? スライム狩りさ?」
ヴィンターは、懐から丸い玉を取り出した。
捕獲玉という魔法道具である。
そこに魔物を閉じ込め、ギルドに提出しなければならない。
男は捕獲玉を掲げた。
すると、倒したスライムが、玉の中に吸い込まれていく。
そして、また男と目が合った。
へラッと笑みを浮かべる。
明らかに俺を馬鹿にした笑顔だった。
「どうした、勇者様よ。まさか勇者様とあろうお方が、スライム1匹も倒せないとかいうんじゃないだろうな」
「倒せないんじゃない。見つからないだけだ」
「見つからない? そうか? オレはもう20匹も倒したぜ」
捕獲玉を掲げる。
「おかしいなあ。スライムなんて簡単に見つけられるのに。それが見つからないなんて……。ぎゃはははは! やっぱりお前、外れ勇者じゃねぇの?」
「どうやら、まだ俺の実力を疑ってるらしいな。そんなに知りたいなら――」
俺は構える。
すると、ヴィンターは手を振った。
「おお、怖っ! 血の気の多い勇者様だ。痛い目を見ないうちに、退散するか。けど――」
「けど、なんだ?」
「あんた、そんなんじゃ。一生スライムを見つけられないぜ」
ぎゃははははは!
下品な笑みを浮かべて、ヴィンターは去って行った。
全く……。
気分の悪いヤツだ。
あいつの魂胆はわかっている。
俺を邪魔しにきたのだろう。
そうでなければ、ヴィンターがスライムという雑魚魔獣を倒すはずがない。
俺のクエスト達成を阻んでいるのだ。
ネレムさん曰く、1度受けたクエストが未達成だと、ギルドの貢献度に大きく影響するのだという。
ギルドがもっとも注視するのは、冒険者の強さではなく、信頼だと断言していた。
いくら強くても、クエストを途中でほっぽり出すような人間に、仕事は依頼できないというわけだ。
このままでは、俺の貢献度が下がってしまう。
なんとかしなければ……。
◆◇◆◇◆
夕方になって、俺はギルドへ帰還した
スイングドアを開けて、中に入ると、ヴィンターが俺を出迎える。
口角を上げながら、俺の方に近づいてきた。
「どうだった、勇者様? 成果は? ちゃんとスライム、10匹倒してきたんだろうな」
俺は無視して、カウンターに進む。
ネレムさんが待っててくれた。
険しい俺の顔を見て、何かを察したらしい。
不安そうな表情を、俺に向けた。
「どうでした、リックさん?」
「すまない、ネレムさん」
「え? もしや――」
ネレムさんは口元に手を当てる。
ヴィンターがニヤリと笑った。
俺は捕獲玉を介抱する。
ザッ……バァァァァアアアアアアンンンンン!!
捕獲玉から一気に何かが溢れる。
それは小波のようにギルドに広がった。
現れたのは、スライムだ。
ネレムさんは目を丸くする。
「こ、これは?」
「ざっと100匹はいると思う。すまん。狩りに夢中になってたら、取り過ぎた」
「ひゃ、100匹だとぉ!!」
ヴィンターは叫んだ。
正直、俺も驚いている。
最初は、10匹倒したら、すぐ帰るつもりだった。
けれど、狩れば狩るほど楽しくなってきて、気がつけば100匹も捕獲してしまった。
どうやら、俺はそういう性分らしい。
実は100匹以上倒したのだが、捕獲玉の限度を越えてしまったらしい。
ついには捕獲玉の中に収容できなくなってしまった。
「で、でも、このスライム……。赤いぞ。もしかして、これファイヤースライムか?」
冒険者の1人が指摘する。
ギルド中に飛び散ったスライムの残骸を見つめながら、他の冒険者たちが騒ぎ始めた。
「ふぁ、ファイヤースライムって!」
「スライムの上位種じゃないか」
「レベル8でも難しいっていう魔物だぜ」
「それを100匹以上も狩ったのかよ」
またしても驚いていた。
唖然とした顔で俺を見つめる。
その中で、大きな声を出して笑うものがいた。
ヴィンターだ。
俺を指差し、糾弾する。
「そうか、お前! 上位種がいる森に入ったんだな。そこでスライムを探したってわけだ。けどな。依頼はスライムだろ! ファイヤースライムじゃない! いくら上位種であろうと、倒す魔物を間違ってる。つまり、お前はクエスト未達成ってわけだ」
「違う……」
「何が違うんだよ」
「俺が探していたのはファイヤースライムなんだよ!」
俺はネレムさんからもらった手配書を見せる。
そこには「ファイヤースライム」という名前と特徴。
そして赤いスライムが描かれていた。
そうだ。
俺は青いスライムを探していなかった。
最初から赤いスライムを探していたから、見つけられなかったのだ。
「な、なんで? 最初からファイヤースライムって……。お前、初心者だろ」
「リックさんの実力なら、これぐらい当然です。まあ、100匹も捕まえてくるとは思わなかったですけど……」
ネレムさんは俺を睨む。
俺は苦笑して誤魔化すしかなかった。
「ヴィンターさん、あなたが新人の冒険者に対して、陰湿な行為を繰り返していたことは知っています。おかげで、有望株の冒険者が次々と潰れていったことも。これはギルドに対する業務妨害といってもいいでしょう!」
「な、なんだと……」
「よって、ギルドはあなたから冒険者権限を剥奪することにしました」
「な! 冒険者剥奪だと! オレはレベル10の冒険者だぞ!! 元ギルドマスターを手放すというのか? 後悔するぞ!」
「構いません。うちには、リックさんという頼もしい新人がいますので」
「下手に出てりゃいい気になりやがって! 今まで可愛い顔してたから、苛つく言動も許してやってたけどな。ネレム! オレは前からあんたがいけ好かない女だと思ってたんだ!」
「奇遇ですね、私もあなたのことが大っ嫌いでした、ヴィンターさん」
「このクソあまぁ! 痛い目みねぇと気がすまねぇようだな」
とうとうヴィンターが剣を抜いた。
おいおい。マジか……。
「い、いいんですか? 私を傷つけたら、いよいよ牢獄送りですよ」
「かまわねぇよ。その前に、お前をお嫁に行けない姿にしてやる!」
ヴィンターは吠えた。
やれやれ……。
ここは俺が助けに入るか。
俺はヴィンターとネレムさんの間に割って入る。
しかし――。
騒がしいね……。
やたらドスの利いた声が、ギルドに響く。
俺はその声の主を知っていた。
スイングドアを開けて現れたのは、大きな狼族だった。
「ウォルナーさん!」
俺は声をかける。
彼女はこちらを向くと、目を釣り上げた。
「いつまでルーナを待たせてるんだい! 早く帰ってきな!!」
一喝した。
それはまさしく狼の遠吠えのように鳴り響く。
やばい……。
かなりお怒りらしい。
目が据わったウォルナーさんの標的は、抜剣したヴィンターに向いた。
さっきまで顔を赤くしていた男の顔から血の気が引いていく。
しまいにはガタガタと震え始めた。
「何してるんだい、ヴィンター」
「いや、これは……。その……。そ、そう! 新人に剣を――」
「ギルドの中で武器は抜くなって教えただろうが!!」
ウォルナーさんは吠えた。
同時に拳を振るう。
見事なフックがヴィンターの頬を捉えた。
そのままスライムの海となった床に突っ込む。
すげぇ、馬鹿力……。
俺は思わず呆然と狼族の店主を見つめた。
「帰るよ」
ウォルナーさんは、ふんと鼻を鳴らすのだった。
今度は総合5位目指して頑張ります!
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