第4話 ギルドマスターとゴミ屋敷
おかげさまで、ジャンル別ランキング9位(総合28位)をいただきました。
ブクマ・評価をつけていただいた方、ありがとうございます。
俺はステータスを確認する。
名前 四條 陸
年齢 22
種族 人間
職業 勇者
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レベル 1
攻撃力 560
防御力 300
素早さ 300
スタミナ 120
状態耐性 250
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スキル 縛りプレイ
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現在の縛り なし
よし。
攻撃力が4倍。素早さも3倍。
スタミナ2倍。他は横ばいか。
足を縛ったから、攻撃と素早さが増加したんだな。
なるほど。段々と『縛りプレイ』の使い方がわかってきたぞ。
目的が達成されたため、縛りも消えたらしい。
「つぇえ……」
「嘘だろ」
「ギルドマスターを一発かよ」
ギルドマスターってなんだ?
ギルドのエラい人ってことか?
ヤバいな。
思わず蹴っちまったけど、仕事は貰えるんだろうか。
「リックさん」
すると、ネレムさんの声が聞こえた。
若干トーンが低い。
恐る恐る振り返る。
ネレムさんはカウンターから出てきて、俺の真後ろに立っていた。
「ああ、いや……。これは不可抗力というか……。降りかかった火の粉を払ったっていうか……」
俺はしどろもどろに弁解する。
だが――。
「すごいです!」
ネレムさんの顔は女神のように輝いた。
「へ……?」
「まさか、うちのギルドマスターを倒してしまうなんて」
声がやたら明るい。
あれ? もしかして、喜んでる?
「いや、でも……。この人、ギルドのエラい人では?」
「はい。でも、職員ではないんですよ。この人も冒険者で、このギルドで1番強い人ってだけなんです」
「1番強い。こいつが……?」
これがギルドで1番強いのかよ。
めっちゃ弱かったけどな。
こんなヤツがギルドマスターって、この辺の治安は大丈夫なんだろうか。
「ただこの人、ギルドでは評判が悪くて。エラそうだし、……やたらといやらしい目で見てくるし」
うーん。それは仕方がない。
何せネレムさんの胸は、それだけ魅力的だからな。
「その点、リックさんなら心配ないですね」
「へ? なんでですか?」
「ちょっと動かないで下さいね」
ネレムさんは俺に近づいてくる。
立派な胸が、俺に触れそうになるぐらい近く。
すると、ふわっと良い匂いがした。
上目遣いで「じっとして。肩の力を抜いて」と、ネレムさんは囁く。
ちょ、ま――。待って!
これどういう状況?
衆人環視の場で、その……。
ていうか、ルーナも見ているのに。
ルーナ見るな。
見ちゃいけません!
動揺する一方で、ネレムさんはそっと俺の胸に手を当てた。
「我、ネレム・アーニアが認証する。この者にマスターの称号を与え賜え」
それはまるで呪文のようだった。
すると、頭の中で勝手にステータスが開く。
名前 四條 陸
年齢 22
種族 人間
職業 勇者
――――――――――――――
レベル 1
攻撃力 580
防御力 320
素早さ 320
スタミナ 140
状態耐性 270
――――――――――――――
スキル 縛りプレイ
――――――――――――――
現在の縛り なし
――――――――――――――
称号 ギルドマスター
おお。称号っていう項目が現れたぞ。
ステータスも微増してる。
てか、俺がギルドマスター……?
いいのか?
俺、まだ1度も依頼を受けていないんだけど。
「これでよし」
ネレムさんは俺から離れた。
「リックさん、ステータスに変化はありましたか?」
「ええ……。ギルドマスターって」
「はい。今日からリックさんがギルドマスターです」
笑顔で言われてもなあ。
なんか実感がないっていうか。
いいのか。俺、超初心者だぞ。
「この称号は、ギルドで1番強い人に贈られるものです。前ギルドマスターを倒したリックさんには、それ相応の実力があると判断しました」
「えっと……。ギルドマスターになったら、何かいいことがあるのか?」
俺が尋ねると、ネレムさんは詳しく教えてくれた。
1つにクエスト――依頼の優先権を得ることができること。
他の冒険者とバッティングした場合、ギルドマスターが優先権を持つことだ。
2つめにレイド戦においての報酬が、他の冒険者より2割増しにもらうことができること。
他にも、ギルド指定の店であれば、武器防具あるいは道具屋であれば、割引を受けられるらしい。
だが、俺が――いや、俺とルーナが諸手を挙げて、喜んだのは、ギルドの社宅に住むことが出来るってことだ。
「い、家!?」
「はい。たいして大きくはありませんが」
「タダで住めるの?」
「そうです。ただしギルドマスターでいられるうちは――ですけどね」
すげぇ!
まだ一銭も稼いでないのに、家を手に入れてしまった。
「ルーナ、良かったな! 俺たち、家に住めるぞ」
「リックお兄ちゃんと一緒のおうち!」
わーいわーいと、尻尾を振って喜ぶ。
俺も一緒に万歳、万歳と手を挙げた。
だが、その歓喜はつかの間だった。
早速、俺とルーナはネレムさんに案内され、社宅へ向かう。
しかし、言ってみるとそこは、ゴミ屋敷になっていた。
外見は普通。だけど、中はひどいものだ。
床には酒瓶や食べ物のカス、手入れがされていない武具や道具が散乱している。
足の踏み場もないとはこのことである。
「なんじゃこりゃ……」
「リックお兄ちゃん、ここ臭い……」
「す、すみません。どうやら、前のギルドマスターの荷物がまだ残ってたようです」
「こりゃ住めないぞ」
「ギルドが責任を持って、綺麗にします。今日は、お宿にお泊まり下さい」
「いや、でも俺たちお金が――」
「もちろん、ギルドが支払わせていただきます」
「い、いいのか?」
支払うのは、俺の方だと思っていた。
正当防衛の結果とはいえ、ギルドの壁に穴を開けてしまったしな。
「ギルドは優秀な人材を欲しています。これは、先行投資と思っていただければ」
ネレムさんはニコリと笑う。
完璧な営業スマイルだ。
思わず引き込まれる。
先行投資か……。
つまりはビジネスってことだな。
おそらく優秀な人材を流出しないようにするための、ギルドマスター制度なのだろう。
ネレムさん、結構美人だけど、意外と食えない人かもな。
ぐぉぉおぉおぉおぉおぉおぉお!
きゅるるるるるるるるるるるる!
奇妙な音が同時に鳴り響く。
俺とルーナの腹の音である。
そういえば、食事の金を稼ぐためにギルドに来たんだった。
まさかメシの前に、家を手に入れてしまうとはな。
ネレムさんはクスリと笑う。
「お腹が空いているんですか?」
「え? ま、まあ……」
「わかりました。宿に行く前に、食事をしましょう」
「重ね重ねいうが、俺たちにはお金が……」
「大丈夫ですよ。ギルドが支払わせていただきます」
「至れり尽くせりだな。それも、もしかしてギルドの戦略?」
「はい。だから頑張ってくださいね、私もギルドも期待してますから」
ネレムさんは、軽くウィンクした。
とてもチャーミングだ。
俺の心臓がドキリと拍動を打つ。
「リックお兄ちゃん、なんで顔が赤いの?」
ルーナは首を傾げる。
さ、さあ……。なんでだろうなあ。
お腹が空いているからだろうか。
まあ、それはともかく、俺はやっとご飯にありつくのだった。
今日中に5話を更新する予定です。
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