第3話 ギルドと冒険者
第3話です。
よろしくお願いします。
ちょうど夜更けとともに、俺たち王都の中心部へ戻ってきた。
人はまだまばらで、馬車の往来も少ない。
露天商が開店準備を始め、次々と商品が並んでいく。
その中には、果物や野菜、肉などもあった。
それを見ながら、俺は――。
ぐぅぅぅううう……。
腹音を鳴らす。
マジでお腹と背中がくっつきそうだ。
すると、呼応するかのようにまた音が鳴った。
きゅぅううぅぅう……。
俺と比べれば随分と控えめ腹の音らしきものが聞こえる。
ルーナがお腹を隠していた。
顔を真っ赤にして照れてる姿が、また可愛い。
何にしても、腹を膨らませるのが先決である。
腹を膨らませるためにはお金が必要で、そのためには働かなければならない。
今から王宮に戻って、俺が強くなったことを話せば、路銀ぐらいは出してくれるかもしれないが、王様以下――王宮のヤツらに頭を下げるのだけは、絶対にイヤだ。
思い出すだけでも腹が立つ。
「リックお兄ちゃん、どうしたの? 顔が怖いよ」
「な、なんでもないよ。ごめん、怖がらせてしまって。ところで、ルーナ」
「ん?」
「俺、働きたいんだ。ルーナの両親を捜すためにも、お金は必要だろ。この世界で働き口を教えてくれる場所とか知らないかな」
「うーんと。だったら、ギルドがいいんじゃないかな」
「ギルド……?」
聞いたことがない単語だが、おそらく職業斡旋所みたいなものだろう。
俺は人に聞いて、王都にあるギルドへと赴いた。
スイングドアを開いて、中に入る。
やたらと屈強なおっさんや、魔法使いっぽい服装をしたお姉さんが、真剣な顔で壁に張り出された紙を見つめていた。
たぶん、仕事の案内状か何かだろう。
ともかく、俺はルーナを連れ立って、受付に行く。
カウンター越しに立っていたのは、年上のお姉さんだった。
若緑の瞳に、亜麻色の長い髪を後ろで束ねている。
白のブラウスに、紺色の上着がビシッと決まっていて、如何にも出来る女感を醸し出していた。
あと、結構魅力的な胸をしている。
俺はちょっと目のやり場に困った。
「ようこそ、ギルドメシェンド支部へ。今日はどういったご用件でしょうか?」
「仕事を探しにきたんだけど……」
「一般職と、冒険者の2つがございますが」
「冒険者?」
「魔物を倒す人だよ、リックお兄ちゃん」
俺の袖を引っ張りながら、ルーナが教えてくれた。
すると、どうやら俺たちが超初心者だと悟ってくれたらしい。
受付嬢は懇切丁寧に教えてくれた。
冒険者というのは、おもに王都外にある依頼をこなす職種の1つらしい。
貴重な魔草を取りに行ったり、ダンジョンに入って調査をしたり、護衛任務などもあるそうだ。
その仕事に全般的に関わるのが、魔物である。
王都や街の外には、たくさんの魔物がうようよしている。
それらを討伐するのも、冒険者の役目だった。
「ご理解していただけましたか?」
「ああ。冒険者が危険な仕事だということが」
戦闘に関しては問題ないだろうが、出来れば危険は避けたい。
万が一、俺が死んだら、またルーナは独りぼっちになる。
「じゃあ――」
一般職を、と言いかけた瞬間、男が割り込んできた。
額に玉のような汗を掻き、息を切らしている。
焦っているのか、受付嬢にまくし立てた。
「ネレムちゃん、急ぎなんだ! 何かいい仕事がないか? どうしても、今日お金が必要なんだ」
ほほう、この受付嬢はネレムというのか。
いい情報を聞いた。
覚えておこう。
そのネレムさんはちょっと気圧されながらも、1枚の書類を差し出す。
男は内容確認し、「これでいい」と言って、サインするとまたすっ飛んでいった。
「すみません、お話の途中で――」
「あ、いや……。で、俺の職業ですが、一般職で探してほしいんだけど」
「申し訳ありません。一般職の求人は、今の方に渡したのが最後でして」
「ええっ!!」
聞けば、王都は今就職難で、一般職はなかなか空きがないのだという。
なんてことだ……。
「冒険者なら大丈夫ですよ。初心者にも優しいクエストとか紹介しますし」
「危険じゃないんですか?」
「まあ、多少は……」
ネレムさんは苦笑する。
仕方ない。
これも巡り合わせだろう。
簡単なクエストなら、ルーナを守りながら戦っても問題ないはずだ。
本当ならどこかに預けたいところだが、今のところこの世界に、信用して彼女を預けられるところはない。
「じゃあ、冒険者になります」
「かしこまりました。では、こちらの書類に現在のステータスをご記入いただけますか?」
差し出された書類に、俺は記入していく。
ちなみに名前は「リック」と書いた。
その方が、この世界では通りがいいと思ったからである。
書き終わるとネレムさんに返した。
俺は若草色の瞳が、書類で目で追うのを見つめる。
するとネレムさんの顔が強張り始めた。
さっと、血の気が引いていく。
「す、すみません。リックさん、何かの間違いじゃないですか?」
「いや、間違っていないが……」
「え? あ、そうか。『スキル』……!」
初めは疑っていたネレムさんだが、何か得心したらしい。
俺と書類を交互に見始めた。
「そうか。黒い瞳と黒い髪……。リックさんは、もしかして勇者……様ですか?」
「ああ。そういうことになってる」
俺は頷く。
瞬間、周囲がざわついた。
いつの間にか、俺たちの存在は周りの興味を引いていたらしい。
「勇者だって?」
「もしかして、あの……?」
「ああ。きっとあいつだ」
「「「「外れ勇者だ!」」」」
突然、どっと笑い起こった。
たぶん、ほとんどが冒険者というヤツらだろう。
背中や腰に、武器を差している。
「あれだろ?」
「スキル『縛りプレイ』ってヤツ」
「ははは! ギルドに来るより、風俗街に行った方がいいんじゃねぇの」
「「「「ぎゃははははははははは!!」」」」
下品な笑い声が響き渡る。
すると、1人の戦士風の男が、ネレムさんから書類を取り上げた。
俺のステータスが書かれた紙をである。
「なんだ、この出鱈目な数字は? レベル1なのに、攻撃力140だってよ」
ヒラヒラと書類を振り、周りの冒険者に見せびらかす。
「ぎゃはははははは!」
「嘘を吐くなら、もっとマシな嘘を吐けよ、ゆうしゃさま」
「お! ちゃんと書かれてるぜ。スキル『縛りプレイ』って」
「マジかよ!」
「そこはちゃんと書くんだな」
「自信あるのかな、勇者様は」
「きゃああああ! 勇者さまぁ、ぼくも縛って! なんつってな!」
また下品な笑い声が響く。
ネレムさんは「ヴィンターさん、書類を返しなさい」と手を伸ばした。
だが、ヴィンターという男は無視し、仲間に見せびらかしている。
もう我慢ならん。
いっちょぶちのめしてやる。
勇者様の力ってヤツをな。
「嘘じゃないもん!!」
突然、小さな女の子の声が、ギルドに響いた。
ルーナだ。
目にちょっと涙を浮かべながら、自分よりも遙かに大きい男の前に立ちはだかる。
「リックお兄ちゃんは、ルーナを守ってくれた、勇者様だもん!!」
しんと静まり返る。
ルーナの迫力に、冒険者たちは言葉を忘れているようだった。
俺は微笑む。
ルーナ、それは違う。
たぶん、きっとこの場にいる全員の誰よりも、ルーナが勇者だ。
「ネレムさん」
「は、はい」
「もし、俺があの男に勝ったら、そのステータスを信用してくれますか」
「え? それは…………って待って下さい。あの方は、ああ見えてレベル10の」
「問題ありません」
俺はルーナを守るようにヴィンターの前に立ちはだかった。
「お兄ちゃん……」
「大丈夫だ。下がってろ、ルーナ」
「なんだ、勇者様? オレ様とやろうってのか?」
ヴィンターは凄んでくる。
俺も負けじと睨み返した。
「ああ。そっちがその気ならな」
「はっ! 威勢だけはいいじゃねぇか」
すると、俺はヴィンターの前に足を上げてみせた。
「ハンデだ」
「ハンデだと?」
「俺はお優しい勇者様だからな。足だけでお前を倒してみせる」
『縛り;足だけで男を倒す』を確認しました。
『縛り』ますか? Y/N
YES……。
「ふざけんなあああああああああああああああああ!!」
男は剣を抜いた。
そのまま大上段から振り下ろす。
相手の動きを見ながら、俺は微笑んだ。
「遅いな……」
バチィン!!
鋭い打撃音が響いた。
ヴィンターが剣を振り下ろす前……。
俺のハイキックが、ヴィンターの顔の側面を捉えた。
一瞬にして、意識を刈り取る。
さらに衝撃は収まらず、ヴィンターは吹っ飛ばされた。
哀れギルドの壁に突っ込む。
………………………………………………………………………………。
静まり返る。
俺は上げた足を下ろした。
「悪い……。手加減を忘れていたようだ」
その言葉は、ギルドに凛と響き渡った。
Pick Up!
名前 ヴィンター・ボルン
年齢 33
種族 人間
職業 戦士
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レベル 10
攻撃力 98
防御力 96
素早さ 22
スタミナ 68
状態耐性 34
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称号 ????
引き続き更新していきます。
よろしくお願いします。