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縛り勇者の異世界無双 ~腕一本縛りではじまる余裕の異世界攻略~  作者: 延野正行


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第20話 下水道と魔物

お待たせしました。

 橙色のカンテラが揺れる。

 真っ暗闇の中で、それは唯一の光だった。


 それに照らされていたのは、俺。

 そして王――デラータスだった。


 間違いない。

 真っ白の髪と髭。

 目の辺りとか――――あれ?

 白く濁っている?

 確か、さっきまで俺の前にいた王の瞳の色は、紫だったはず。

 何度も睨まれたから覚えている。


 それに恰好というか、体格からしておかしい。


 風船が萎んだようにやせ細っている。

 身なりもボロボロだった。


 見れば見るほど、同一人物か怪しくなってくる。


 俺がマジマジと見る一方で、向こうも俺のことを観察していた。

 目と髪に注目すると、王は今まで見たことのないほど、穏やかな顔を浮かべている。


「お主、勇者じゃな」


 やはり……。

 俺は確信を得る。

 声がそっくりだった。


「お前、何でここにいる?」


 落とし穴に落ちた先に、王がいる。

 この不可思議な事件に、俺は警戒せずにはいられなかった。

 何せ目的のためなら、自国の民の命すら切り札に使うような男である。

 今度、何を企んでいるのか。

 皆目見当が付かなかった。


 慌てて構える。

 だが、俺の腰にはカタナがなかった。

 謁見の間に入る前に、保安上の理由で預けていたのだ。


 だが、それでも俺には拳と『縛りプレイ』がある。


 ぐっと両拳を胸の前まで上げた。

 すると、王は慌てて手を振る。


「落ち着け、勇者殿。余はお主と戦うつもりなどない」


「だったら、何でここにいる?」


「お主と同じよ」


「同じ?」


「お主もあれじゃろ? 落とされた口じゃろ。偽の王に(ヽヽヽヽ)……」


「に、偽の王!!」


 俺は素っ頓狂な声を上げる。


「ば、馬鹿者! 声が大きい! ヤツに見つかるぞ」


「あんたの声も十分大きいぞ。てか、ヤツって……」


 その時だった。

 膝上ぐらいまで浸かる下水が、大きく波立つ。

 同時に、俺は気付いた。

 来る――!

 奥から何か泳いでくるのがわかった。


 大きい。

 さすがにオークほどではない。

 だが、俺の身の丈以上に大きかった。


「チッ! 見つかってしまったか」


 王は苦虫を噛み潰したような表情を浮かべる。


「何か知っているのか?」


「ここの主だ。有り体にいえば、魔物じゃな」


「魔物! 王宮の地下に魔物がいるのか?」


「おるさ。魔族が王位についておるからな」


「魔族!」


「おかげで、優秀な家臣たちを失った」


 寂しそうに、王は息を吐く。

 だが、すぐに顔を上げた。


「だが、お喋りしている場合ではないぞ。余のことは気にしなくてよい。お主は逃げよ。ヤツは手強いぞ」


「馬鹿野郎!」


「???」


「お前には聞きたいことが山ほどある。むざむざ魔物の餌にされてたまるか」


「お主……」


「それにな。一応、外れでも俺は“勇者”なんだ。あと――」



 これでも、防衛戦は得意だな。



 俺は叫ぶ。


「王も俺も、無傷のまま魔物を倒す!」



 『縛り;王も俺も、無傷のまま魔物を倒す!』を確認しました。

 『縛り』ますか?  Y/N



 YES!



 確認しました。『縛りプレイ』を開始します。



  名前    リック

  年齢    22

  種族    人間

  職業    勇者

 ――――――――――――――

  レベル      2

  攻撃力   1080

  防御力    780

  素早さ    400

  スタミナ   640

  状態耐性   810

 ――――――――――――――

  スキル   縛りプレイ

        物体縛り

        居合い Lv5

 ――――――――――――――

  現在の縛り 武器『カタナ』縛り(永続)

 ――――――――――――――

  称号    ギルドマスター

        呪解マスター

        達人 Lv3

 ――――――――――――――

  補正    武器強度  +Lv80

        武器切れ味 +Lv70



 よし。

 防御力が上がった。

 やはり防衛戦が強いられる場合、防御力が上昇するようだ。


 直後、勢いよく水柱が立ち上る。

 長い顎に、無数の牙。

 まるで石垣のような硬そうな外皮。

 太く長い尻尾をしならせ、その先は巨大な棍棒のようになっていた。


 現れたのは巨大な鰐だ。

 暗闇の中、鈍色の目が光る。

 俺を捕捉しているのがわかった。


「ヴァリゲーターというヤツだ。手強いぞ、勇者。退却を推奨するが……」


「問題ない」


 それにちょうどむしゃくしゃしていたところだ。

 むかつく王様を護衛するというのは、癪に障るが、気晴らしぐらいにはなるだろう。


 俺はぐるりと肩を回す。

 再びファイティングポーズを取った。


『ぐおおおおおおおおおお!!』


 ヴァリゲーターは吠声を上げる。

 敵意を剥き出す人間を、本能的に嫌がったのだろう。

 すると、くるりと下水の中で回転する。

 両側の壁などおかまいなしである。


 水飛沫を上げ、大きな尻尾を振り回した。

 鞭のようにしなり、俺に襲いかかる。


 バシィン!!


 俺は軽々と尻尾を受け止めていた。

 むろん、無傷だ。

 全くダメージを受けていない。

 しかも――。


『ぐお? ぐお?』


 ヴァリゲーターは尻尾を引こうとするがビクともしない。

 俺は瞳を光らせた。


「どうした、鰐公……。お前の力はそんなものか?」


『ぐおおおおおおおお!!』


 吠声を上げて抗う。

 しかし、結果は同じだった。


「なんと……。つよい……」


 後ろで王が呆然と、俺とヴァリゲーターの様子を見ている。


 一方、俺はため息を吐いた。


「この程度か……。気晴らしにもならないな」


 俺は尻尾から手を離す。

 いきなり離されてしまったために、ヴァリゲーターは勢い余って体勢を崩す。

 ついには、下水の中でころんと転がってしまった。

 大きな腹を天井へと向ける。


 すぐに身を動かし、起き上がろうとする。


 だが、遅い。

 そう――何もかも遅かった。


 天井付近まで、俺は飛び上がる。

 まるで弓のように右拳を引いた。


「終わりだ!」


 ヴァリゲーターの腹に、拳を叩きつける。

 巨大な鰐の身体が、くの字に折れ曲がった。

 同時に大きな水柱が立ち上がる。

 だが、それだけに終わらない。

 衝撃波が遅れてやってくると、1度で2度ヴァリゲーターを水底に叩きつけた。


 ついには大穴ができる。


 魔物は吠声を上げながら、その場で悶絶した。

 やがて徐々に動きがゆるやかになり、そして止まる。


 ヴァリゲーターは絶命した。


 俺は息を整えるように、すぅと息を吐く。

 王の方を見ると、がっと顎を開けて驚いていた。


「ま、まさか……。一撃とはな……。さすがは、勇者といったところか」


「世辞はいい。ところで、どうなってるんだ? 王宮の地下になんで魔物がいるんだ? 王様が魔族ってどういことだ?」


「言葉通りの意味よ」


「詳しく話せ」


「その前に、余はお主のことを知りたい。もしかしたら、力になれるかもしれぬぞ」


 王は「ほっほっほっ」と笑う。

 どうも得体がしれない。

 玉座に座っていた王とは別人のように見える

 とにかく表情が明るかった。

 こんな地獄の亡者すら近付かないような場所で、よくそんな顔ができるなと俺は思った。


 結局、熟考した末、俺は本物と自称する王に、ここに至る顛末を話した。


 真の王は少し難しい顔をした後、結論付ける。


「なるほど。お主のスキルは、魔族の呪いであろう」


「魔族の呪い?」


「召喚する術式に、何か細工をしたに違いない。でなければ、『縛りプレイ』などとふざけたスキルが生まれるわけがないからな」


「どうして、そんなことを?」


「簡単じゃ。勇者は魔族、ひいては魔王の天敵じゃ。いまだ魔王を討伐した者がおらぬとはいえ、ヤツらにとって脅威に違いない。それならば、魔王城で迎え討つよりも、その発生をくい止める方が、よっぽど効率がいいであろう」


「確かにな。――で、あんたはなんでこんなところにいるんだ?」


「お主と同じよ。魔族にここに落とされたのだ」


「よく生きてたな。こんな化け物がいるのに……」


「ほっほっほっ……。これでも逃げ足には自信があるのでな」


「とにかく上に戻らないと……」


「なんだ。もっとゆっくりしていけ。老人を1人にしないでおくれ」


「冗談が言ってる場合か。俺には時間がない」


 王様が魔族なんてどうでもいい。

 だが、ヤツがルーナやティレルを黙って帰したとは考えにくい。

 一刻も早く、2人の元に帰らないと……。


「爺さん、出口はどこだ?」


「せっかちなヤツじゃな。仕方ない。ついてこい」


「聞いておいてなんだが、出口を知ってるんだな。なんで、逃げなかったんだ?」


「面白そうではないか?」


「はあ?」


「ダンジョンに潜ってるみたいじゃ。昔を思い出すわい」


 にぃ、と黄ばんだ歯を見せる。

 完全に楽しんでいた。


 やれやれ……。

 とんだ爺さんだぜ。


(王を)殴りに行こうかぁ!

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