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第2話 『縛り』と『約束』

第2話です。

よろしくお願いします。

 信じられねぇ……。


 俺は男を殴った拳に目を落とした。

 当然だが自分の手である。

 その手が、人を吹き飛ばしたとは到底思えなかった。


 あ。そうだ。

 ステータスはどうなったんだ?

 俺は男を腕一本で倒した。

 目的が達成されたことによって、何か変化しているかもしれない。


 目をつむり、俺は自分のステータスを覗き見る。


「――――ッ!」


 やはり『現在の縛り』の項目が、また空欄になっていた。

 だが――。



  名前    四條 陸 

  年齢    22

  種族    人間

  職業    勇者

 ――――――――――――――

  レベル     1

  攻撃力   120

  防御力    60

  素早さ    70

  スタミナ   30

  状態耐性   50

 ――――――――――――――

  スキル   縛りプレイ

 ――――――――――――――

  現在の縛り なし



 ステータスはそのままになっている。

 行動を縛り、目的を達成すれば、数値は引き継がれるのか。

 俺は試しに倉庫にあった木箱に拳をぶつけてみた。


 バギィン!!


 軽々と木箱をぶち抜く。

 それもかなり軽い力で。

 やっぱりだ。

 ステータスの数値は間違いない。

 俺は強くなっていた。


「ひゃっ!」


 悲鳴を上げたのは、ルーナだった。

 少し離れたところで、俺を見ている。

 尻尾を垂らし、身体を振るわせていた。


「リックお兄ちゃん、どうしたの?」


「ああ。ごめんごめん。怖がらせちまったな。大丈夫なんでもない。むしろいいことだから」


「そう……」


 不安げな顔で、俺を見つめる。

 まだちょっと信頼を得てないみたいだな。

 無理もないか。


 それよりも、俺はルーナとあってからずっと気になっていたことがあった。


「な、なあ、ルーナ。さっき、俺のことなんて言った?」


「え? えっと……。リックお兄ちゃん(ヽヽヽヽ)


「はああああ」


 俺は天に昇るような気持ちだった。

 「お兄ちゃん」という言葉が、頭の中で鐘のように鳴り響く。

 胸がいっぱいになり、幸せな気持ちが俺を包んだ。


 どうやら俺は「お兄ちゃん」というワードに弱いらしい。

 ルーナは十分魅力的だしな。

 あと、くるくる動く耳も、フワフワの尻尾も愛くるしい。


 身なりを整えてやれば、かなりの美少女になるだろう。


 ちょっと楽しみだ(にやり)。


 俺はルーナを見ながら、和んでいると、外から声が聞こえた。


「お、おい! なんだ?」

「仲間が伸びてるぞ」

「さっき倉庫の方で物音がしたぞ」

「もしかして、あの黒髪が逃げたのか?」


 どんどん人が集まってくる。

 げっ! 仲間がいたのか!

 そりゃそうか。

 1人で奴隷を集められるわけがないしな。


「ルーナ! ともかく逃げるぞ」


「う、うん!!」


 俺たちは倉庫を出る。

 そこは暗い森の中だった。

 倉庫の背後には、屋敷跡がある。

 廃墟寸前だが、人には見せられないものを隠すにはちょうどいいだろ。


「いたぞ!」


 暗闇の中で、禿頭の男が叫ぶのがわかった。

 俺はルーナの手を引き、森の中を逃げる。

 迎え撃ってもいいが、まだ『縛りプレイ』は未知数すぎる。

 複数を相手にするには、もっと使いこなしてからだ。


「キャッ!」


 ルーナは木の根に足を取られる。

 そのまますっ転んだ。

 膝には血が滲んでいた。

 これでは走るのは無理である。


 仕方ない……。


 結局、男たちを迎え撃つ。

 下品な笑みを浮かべ、悪党顔が5人――俺たちを囲んだ。

 手にはショートソードが握られている。


「ここまでだ。お? ルーナじゃねぇか。お前、裏切るのか? 父ちゃんと母ちゃんを探せなくなるぞ」


「ルーナの両親は俺が探す。責任を持ってな」


「おうおう。ヒーロー気取りかよ、兄ちゃん」


「お前らみたいなヤツを、弟に持った覚えはないぞ」


「へらず口は1人前だな」

「ルーナはどうする?」

「やっちまっていいじゃないか?」

「生かしておいても意味ないしな」

「生かしてて、何の役にも立たねぇからな」


 およそ人間が話す言葉とは思えない。

 男達から発せられたものは、絶望的な内容だった。


 ルーナは耳を隠するように頭を抱える。

 その小さな身体は震えていた。

 見ればわかる。

 こいつらに相当ひどい仕打ちをされてきたのだろう。


 怒りがこみ上げてきた。

 それをそのまま言葉にし、俺は叫ぶ


ルーナには指一(ヽヽヽヽヽヽヽ)本たりとも(ヽヽヽヽヽ)触れさせねぇ《ヽヽヽヽヽヽ》!」


 すると、俺の頭の中で文字が閃いた。



 『縛り;ルーナには指一本触れさせない』を確認しました。

 『縛り』ますか? Y/N



 また出た!


 今度の縛りは違う。

 どうやら俺の言葉の中に、行動の制限に関する文言があった場合、自動的に発動するのだろう。


 今回はさっきの縛りとは違う。

 俺だけではなく、ルーナにも関係してくることだ。


 もし、この縛りが失敗したら……。


 考えている時間はない。

 決めろ!

 俺が彼女を守るんだ。


「YESだ!」



 確認しました。縛りプレイを開始します。



 同時にステータスが浮かび上がる。


  名前    四條 陸 

  年齢    22

  種族    人間

  職業    勇者

 ――――――――――――――

  レベル     1

  攻撃力   140

  防御力   300

  素早さ   100

  スタミナ   60

  状態耐性  250

 ――――――――――――――

  スキル   縛りプレイ

 ――――――――――――――

  現在の縛り ルーナに指一本も触れさせない



 さっきと比べると、増え方にばらつきがあるな。

 攻撃力は微増だが、防御力と状態耐性が5倍も上がってる。

 そうか。守勢の『縛り』だから、防御面の数値が増えたのか。


 ところで、この縛り。

 指以外なら大丈夫なんだろうか。

 まあ、どうでもいいか。

 とにかく、ルーナには指でも足でも触れさせるつもりはない。


「おら! 死ねぇ!」


 1人の男がショートソードを振りかざし襲いかかってくる。

 相変わらずスローリーだ。

 これなら――。


 パシッ!!


 俺は剣を両手で掴む。

 真剣白羽取りってヤツである。

 おお。出来た。


「この離せ!」


 男は剣を引こうにも、ビクともしないらしい。

 俺は全く力を入れていないんだがな。

 もっと強く押さえてみるか。


 パキィン!


 鉄の刃が折れた。

 男は驚く。

 ついでに俺も驚いていた。


 ――と惚けてる場合じゃない。


 俺は拳を振り上げる。

 男の顔面を捉えると、そのまま吹き飛ばした。

 森の闇の中に消えていく。


「な、なんだ、今の力……」

「今、こいつ……」

「おいおい。剣を折りやがったぞ」

「しかも素手で」


 男たちが俺の力を見て、おののき始める。

 足が止まった。

 攻勢に出るなら今を置いて他にはない。


 俺は自ら男たちの懐に飛び込んでいく。

 一瞬にして間合いを制圧すると、ボディブローを食らわせた。

 男は吹き飛ばされ、また闇の中に消える。


「この野郎!!」


 1人の男が背後から俺を斬りつける。


 がぎぃいぃいぃ!!


 甲高い音が響き渡った。

 何かが空中で回ると、側の地面に突き刺さる。

 森に差し込んだ月光が、ショートソードの切っ先を映した。


「げぇ! なんだよ、これ」


 俺に斬りつけた男は、先のないショートソードを持って狼狽える。


 痛ってぇ……。

 けど、全然血が出てこないところを見ると、衝撃だけで怪我はしていないようだ。

 やべぇな、俺の身体。

 防御力上がり過ぎだろ。


 俺は刃を失った男もあっさり倒す。

 これで3人。

 あとは2人だけだ。


「きゃあ!!」


 悲鳴が聞こえる。

 残り2人がルーナを取り囲んでいた。

 しまった。ちょっと突出しすぎたか。


「こうなったら、お前だけでも!」


 男はショートソードをルーナに向かって振り上げた。


 俺は走る。

 風のようにだ。


「やめろぉぉぉおおぉぉおぉおぉぉおぉおおお!!」


 勢いのまま男を蹴り飛ばす。


 着地すると、ルーナを挟んで反対側にいた男の顔面に拳を見舞った。

 鼻骨を砕かれた男は、そのまま意識を断たれ、倒れる。


「ルーナ、大丈夫か」


「うん。ありがとう、リックお兄ちゃん」


「はあああんんん……」


「どうしたの? 顔、赤いよ?」


「いや、なんでもない。ただちょっとご褒美をもらっただけだ」


「?」


 ルーナは首を傾げる(その仕草もまた可愛い)。


 だが、今説明するわけにはいかない。

 ちょっと説明が難しいからな。

 もう少し大人になってからだ。


「ねぇ、リックお兄ちゃん」


「なんだ?」


「ルーナのパパとママ。探してくれる?」


「ああ。もちろんだ。俺がルーナのパパとママを探してあげる。絶対にだ」


 これは『縛り』なんかじゃない。

 俺とルーナの『約束』だ。


3話目は今日中に更新予定です。


もし「面白い!」と思っていただけたら、

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