第17話 薬と新たなスキル
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「すげぇ……」
「オークロードを――」
「本当に倒しちまいやがった!」
「すげぇぞ、兄ちゃん!」
俺の方に飛び込んできたのは、絶世の美女……なんかではなかった。
頭のはげ上がったおっさんである。
俺をギュッと抱きしめると、子どものように抱え上げた。
「デレクーリさん、ちょ、ちょっと……!」
「ただ者じゃねぇのは、店に入ってきた時から薄々わかってたけどよ。まさかオークロードを倒しちまうなんて」
デレクーリさんは、我を忘れて喜ぶ。
嬉しかったのだろう。
結果的に圧勝した訳だけど、強敵であったことは間違いない。
九死に一生を得て、完全にデレクーリさんは舞い上がっていた。
「それだけじゃないよ」
目の前に現れたのは、ウォルナーさんだった。
少し神妙な顔をしている。
何かあったのか、と思ったが、牙を剥きだし笑った。
「リック、胸を張っていい。あんたは、間違いなく勇者だよ」
「え?」
「あんたが倒したオークロードは、名前付きだ」
「「「「な、名前付き!!」」」」
俺の代わりに驚いたのは、周囲の冒険者たちである。
名前付きということは、普通のオークロードよりもさらに強かったということだ。
ウォルナーさんは証拠を見せる。
倒れたオークロードの脇の部分を指差した。
そこに書かれていたのは、ヴァズーという文字である。
名前付きの魔物のどこかには、このように名前が書かれていると、ウォルナーさんは教えてくれた。
確かにギレルにも似たような痣があったっけ。
「間違いねぇ……」
「オークロードの名前付きなんて初めて聞いたぜ」
「一体、どれぐらいのレベルなんだ」
「レベル40は下らないだろう」
「そりゃ強いわけだ……」
皆の視線が、オークロードが開けた大穴に向く。
穴は深く、底が見えない。
凄まじい威力を、ヴァズーが死した今も物語っていた。
「ウォルナーさん、1つ聞いていいですか?」
「なんだい?」
「名前付きって、どうして現れるんですか?」
「そうか。あんたは、まだ知らないんだね」
「何か理由があるんですか?」
「小難しいことじゃない。名前付きが何故、生まれるのか……。それは魔族の洗礼を受けた魔物だからさ」
「魔族の洗礼?」
魔族というのは、人類よりも決して多いわけではない。
異世界マーゴルドの全種族の中でも少ないほうなのだという。
その戦力を埋めるべく、力を持った魔物に自分の力を与える。
それが名前付きなのだと、ウォルナーさんは教えてくれた。
「勝手気ままにできるものでもないらしいけどね。何せ自分の力の一部を分け与えるんだ。自分が気に入り、認めたものにしか名前は与えないらしい」
「愛犬に名前を付けるようなものですか?」
「はは……。そんな可愛いものじゃないけどね」
でも……。
翻せば、この近くに魔物に名前を付けることができる魔族がいるってことじゃないのか?
それなら、最近あちこちで名前付きが出現するっていう情報も、あながち間違っていない。
いずれにしろ、まだ王都への脅威は去っていないということだ。
とにかく、今は帰ろう。
王都へ……。
「あの……」
冒険者の俺たちに声をかけたのは、村の村長だった。
オークは討伐されたというのに、浮かない顔である。
「みなさんにお願いがあります。薬を分けていただけないでしょうか?」
頭を下げた。
◆◇◆◇◆
俺たちは現地に向かう。
そこには、怪我をした村人たちが倒れていた。
すでに数人の冒険者たちが、忙しそうに立ち回っている。
傷薬や回復の魔法を与えていたが、まるで追いついていなかった。
「よし! 手伝うよ」
ウォルナーさんは手慣れた動きで、怪我人を介抱していく。
俺もルーナが作った回復薬を握りしめ、野戦病院と化した現場を忙しそうに動き回る。
あっという間に、薬の瓶が1本だけになった。
すると突然、袖を引かれる。
振り返ると、戦場で出会ったあの少女が立っていた。
「お兄ちゃん、お父さんを助けて!」
切実な叫びに、俺は少女の後をついていく。
少女の父親が地面に寝転がり、腹の辺りを押さえて埋めていた。
「あなた、しっかり!」と母親は呼びかける。
だが、半ば意識を失いかけている父親が、応答することはない。
ただうめき声を上げるだけである。
事情を母親に尋ねると、元々少女の父親は胃痛持ちだったそうだ。
毎日薬を飲んで、痛みを和らげていたのだが、その薬は家を焼け出された時に、全部失ってしまったらしい。
胃痛に効果がある薬か。
他の冒険者に尋ねてみたが、そんな都合良く持っている物ではない。
俺が持っているのも、回復薬である。
胃に効くとは思えない。
その時だった。
『がああああああああああああ!!』
突如、オークが顔を出した。
どうやら1匹、打ち損じていたらしい。
俺は再びカタナを抜く。
シャッ!!
一瞬にして、薙ぎ払った。
とりあえず事なきを得る。
だが、魔物よりも胃痛の方が問題だ。
どうしたらいい。
せめて、『縛る』ことによって、薬の効果を上げることできたら……。
その時だった。
てれててってってて~~。
この緊迫した場面で、気が抜けるような音が鳴る。
一体誰だ、と振り返ったが、誰も音を聞いていなかった。
あんなに特徴がある音にも関わらずである。
すると、文字が浮かんだ。
リックはレベルが上がった。
スキル『物体縛り』を覚えた。
スキルの説明を受けますか? Y/N
レベル?
あ、そうか。
俺、ずっとレベル1だったんだ。
それでようやく上がったのか。
ところで『物体縛り』ってなんだ?
とりあえず、説明を聞いてみることにした。
YES!
『物体縛り』
物体にデメリットを与えることによって、その効果を上昇または性質を変性させることができます。
目的に対して、デメリットをご指示下さい。
ただし、生き物に使うことはできません。
なるほど。
行動の制限ではなく、物体にデメリットを付加して、効果を上昇・変性させるスキルか。
デメリットってのが、厄介だな。
もっとまともなスキルがほしいものである。
てか、こういう説明ってあったんだな。
『縛りプレイ』も、最初からこういう風に教えてほしかったんだけど……。
今は嘆いていても仕方ない。
多少ご都合主義のような気もするが、幸いそのスキルを使う絶好のチャンスが、目の前にある。
俺は回復薬を握りしめた。
「胃痛をなくすため、この薬を苦くする」
すると、例の文字が浮かんだ。
『縛り;胃痛をなくすため、薬を苦くする』を確認しました。
『縛り』ますか? Y/N
YES!
確認しました。『物体縛り』を開始します。
名前 リック
年齢 22
種族 人間
職業 勇者
――――――――――――――
レベル 2
攻撃力 1080
防御力 320
素早さ 400
スタミナ 440
状態耐性 810
――――――――――――――
スキル 縛りプレイ
物体縛り
居合い Lv5
――――――――――――――
現在の縛り 武器『カタナ』縛り(永続)
胃痛をなくすため、薬を苦くする
――――――――――――――
称号 ギルドマスター
呪解マスター
達人 Lv3
――――――――――――――
補正 武器強度 +Lv80
武器切れ味 +Lv70
「この薬を飲んでみてくれませんか?」
俺はルーナが作ってくれた回復薬を差し出す。
少女の母親は少し訝りながら、父親の口元に薬瓶を近づけた。
痛みに耐える父親に、なんとか呑ませる。
横の少女が手を合わせて祈った。
母親も心配そうに見つめる。
その時だった。
「にっっっっっっっがぁああああああああ!!」
突然、父親は起き上がった。
喉を押さえながら、そこら中をぴょんぴょんと飛び跳ねる。
とてもさっきまで、胃痛に苦しんでいた患者とは思えなかった。
「あなた、胃痛は?」
母親は尋ねる。
父親はぺっと口の中に残る薬を吐き出しながら、俺たちの方を向いた。
すると、お腹をさする。
「あれ? 痛くない……。治ってる!」
みるみる少女の父親の顔に、生気が宿っていく。
やったやった、と子どものように喜び始めた。
「パパ! 元気になったの!?」
少女は不思議な顔で父親に近付いていく。
その我が子を抱き上げた。
「ああ。奇跡だ。奇跡が起こったんだよ」
「パパ、元気になってよかった!」
少女は父親に抱きついた。
「お兄ちゃん、ありがとう!」
「どう致しまして……」
ルーナが作ってくれた薬を苦くしてしまったのは、申し訳なかったけど、たぶん今の少女の嬉しそうな顔を見たら、きっと許してくれるだろう。
村人たちを救った俺と冒険者たちは、いよいよ王都へと凱旋した。
PickUp!
名前 ヴァズー
呼称 オーク
系統 魔物
種族 人獣族
――――――――――――――
レベル 42
攻撃力 866
防御力 890
素早さ 90
スタミナ 934
状態耐性 139
――――――――――――――
称号 統率者 Lv10
――――――――――――――
補正 怪力 +Lv11
感想ありがとうございます。
お返しできておりませんが、すべて読ませていただいています。




