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縛り勇者の異世界無双 ~腕一本縛りではじまる余裕の異世界攻略~  作者: 延野正行


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第15話 見送りと防衛戦

 準備を調え、俺は冒険者たちと一緒に城門へ向かう。

 すると声が聞こえた。


「リックお兄ちゃん!」


「ご主人様!」


「ルーナ! ティレル!」


 家にいるはずの2人が駆け寄ってくる。

 息を弾ませながら、俺の前に並んだ。


「ルーナ、ティレル……。どうしてここに」


「ネレムさんからお聞きして。居ても立ってもいられず」


「リックお兄ちゃん、帰ってくる?」


 ネレムが事情を話せば、ルーナは上目遣いで俺を見上げた。

 ギュッと胸の前で握った両手が震えている。

 エメラルドグリーンの綺麗な瞳は、潤んでいた。


 俺はそっと頭に手を置く。

 安心させるように微笑んだ。


「大丈夫だよ。悪い魔獣を倒して帰ってくるから」


「ルーナに何か出来ることはない! ルーナもお兄ちゃんの力になりたい!」


 俺は一瞬きょとんとしてしまった。

 ルーナがただ思いつきで言っているわけではないと、すぐにわかったからである。

 彼女の目はとても真剣だ。

 たぶん「いいよ」と答えれば、迷いなく冒険者の列に加わるだろう。


 でも、さすがにルーナにそんなことはさせられない。


「ありがとう、ルーナ。でも、大丈夫。ルーナも力になってる」


 ルーナが作ってくれた回復薬を見せる。

 これでどんな傷でも、たちどころに治せるだろう。

 そんな気がした。


 薬だけじゃない。

 ルーナの今の言葉は、俺の中に少しだけあった恐怖を洗い流し、勇気を与えてくれた。


 ルーナとは約束がある。

 必ず両親を探すと。

 そのために、ルーナがいる王都を守り、そして俺もまた生き残る必要がある。


「だから、ちょっとだけ待ってて」


「うん……。ルーナ、待ってるよ」


 また俺はルーナの頭を撫でた。


 すると、今度はティレルが前に出る。

 手には握り飯を持っていた。


「道中で食べてください」


 触ってみると熱々だ。

 サケや昆布、あるいは刻んだ茸や人参が入っている。

 彩り豊かだった。


「ありがとう、ティレル」


「どうかご無事の帰還をお待ちしております」


 ティレルは頭を下げる。

 いつも通りに見えた。

 けれど胸の前で組んだ手は、ルーナと同じく震えている。

 彼女もまた怖いのだ。


 その手を俺は握る。


「ご馳走を作って待っててくれ」


「…………! はい! 奮発しちゃいますよ、今日は!」


「はは……。家計を圧迫しない程度に頼むよ」


 俺は微笑んだ。

 少しぎこちなかったけど、ようやくティレルにも笑顔が灯る。


 いよいよ城門が開いた。

 俺たちは馬車に乗り、出発する。

 砂埃を上げながら、走り出す。

 その埃にまみれながら、手を振るルーナとティレルに、俺は手を振り返し応えた。



 ◆◇◆◇◆



 村の案内人の指示を受け、馬車は進む。

 緊張感が張りつめる中、手綱を引く御者の声が聞こえた。


「煙だ! 村の方からだ!!」


 幌の中で冒険者たちは一斉に立ち上がる。

 ウォルナーさんは鋭い爪を伸ばすと、幌の布を斬り裂いた。

 穴を作り、首を突っ込む。

 そこにデレクーリさんと俺も便乗した。


 鬱蒼と木々が茂る森の中、確かに煙が立ち上っている。

 すると、ウォルナーさんはその耳をピクピクと動かした。

 まだ火元との距離はあるが、彼女に何か聞こえているらしい。


「ちょっと遅かったかもしれないね。あたしは出るよ。馬よりあたしの方が速い」


 そういうと、ウォルナーさんは飛び出した。

 宣言通り、馬車よりも遙かに速い。

 まさに1匹の狼は森の中を突っ切っていく。


「俺も行きます」


「大丈夫なのか、兄ちゃん」


 デレクーリさんは心配する。

 俺は力強く頷いた。


「はい。俺も、馬より速いですから」


 俺も馬車から飛び出した。

 走り始めると、すぐに馬車を追い越す。

 思った通りだ。

 『素早さ320』は伊達じゃない。


「はぇえ……」


 デレクーリさんの声に見送られ、俺はさらに加速する。

 ウォルナーさんの後を追った。


 森の中を突っ切り、最短最速で村にたどり着く。


 つと足を止めた。

 俺の視線が上に向く。


「これがオークか……」


 大きい。

 2階建ての家ぐらいある。

 でっぷりとした大腹。

 手には石と木の根で作った粗雑な石斧を持っている。


 赤い目を閃かせ、豚鼻からは恐れを振りまくように息を吐き出していた。


 それが10体。

 村それ自体を、轢殺でもするかのように進軍してくる。


「思ったよりも多いね。まずは住民の避難が先だ。あたしが囮になるから」


「俺が引き受けますよ」


「引きつける役なら、あたしの方が適任だよ」


「いえ。俺がやります……」


「……そうかい。わかったよ」


「あ、でも……ウォルナーさん」


「うん?」



「別に倒してもいいんですよね?」



「…………」


 ウォルナーさんが息を呑むのがわかった。

 ピンと耳と尻尾を立てる。

 思わず可愛いと思ってしまった。


 牙を剥き出す。

 笑気を吐きだした。


「くはっ! やれるもんならやってみな」


「頑張ります」


 俺はオークの方へ向かってくる。

 それは巨大な壁のように迫ってきた。

 足を踏み出す度に、地響きが起こる。

 家から飛び出してくる村人の悲鳴が、余計に恐怖を煽った。


 俺は懐にしまった薬瓶を握った。

 ルーナが作ってくれた回復薬である。


 こうして握っているだけで、彼女の勇気が伝わってきた。

 それは職業としての『勇者』の特性なのかもしれない。

 でも、不思議と俺の気持ちは落ち着いていた。

 側にルーナがいるからだろう。


 そうだ。もう何も怖くない……。


 俺は手を差し出す。

 ニヤリと笑って、オークたちを挑発した。


「来いよ、豚野郎。お前たちなんか、一振りで倒してやるよ」


 瞬間、俺の頭の中で例の文字が浮かんだ。



 『縛り;オーク10体を一振りで倒す』を確認しました。

 『縛り』ますか?  Y/N



 俺は迷いなく『YES』を選択した。



 確認しました。『縛りプレイ』を開始します。



  名前    リック

  年齢    22

  種族    人間

  職業    勇者

 ――――――――――――――

  レベル     1

  攻撃力   780

  防御力   320

  素早さ   400

  スタミナ  140

  状態耐性  810

 ――――――――――――――

  スキル   縛りプレイ

        居合い Lv5

 ――――――――――――――

  現在の縛り 武器『カタナ』縛り(永続)

        オーク10体を一振りで倒す

 ――――――――――――――

  称号    ギルドマスター

        呪解マスター

        達人 Lv3

 ――――――――――――――

  補正    武器強度  +Lv50

        武器切れ味 +Lv40


 攻撃力と素早さがアップ。

 スキルに追加されている。

 居合い、か……。

 攻撃のスキルなんだろうか。

 そんな気がする。


 俺に迷いはなかった。


「頼むぜ、相棒」


 俺は鞘からカタナを引き抜く。

 まるで持ち主の言葉に反応するように鋭く閃いた。


 そのまま俺はオークに向かって、一閃する。


 シャァァァァァァアァァアァアァアァアァアアァアンンンンン!!


 鋭い音が空気を斬り裂いた。

 瞬間、オークたちの腹が真っ二つになる。

 血が迸り、断末魔の悲鳴すら上げられず、崩れ落ちていった。


「すごい……」


 小さな声が聞こえた。

 振り返ると、少女が俺の方を見て呆然としている。

 ルーナと同じくらいの年齢だろうか。

 恐怖に濁っていた目が、やがて希望へと変わる。


「お兄ちゃん、一体誰?」


 俺は少女の頭を撫でる。

 ニコリと笑った。


「通りすがりの――」



 外れ勇者さ……。


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