開幕:おてんば姫と優男
「ドサッ」
山の中で一人の男が倒れた。
色白で背の高い男。擦り切れた灰色の羽織袴を着ていた。わらじが足元に転がっていた。
髪はまっすぐで肩でそろっているた。
「二度とあいつに近づくんじゃないぞ」
小柄でガタイのいい男が見下ろしていた。
上下絹製で赤い色の派手な着物を着ていた。わらじは花柄の複雑な飾りが付いていた。
ザンギリ頭の派手な男は山道を降りて行った。
色白の男は虚ろな目でその背中を眺めてた。
時は明治。東北地方の山の中に小さな田舎町があった。
「ただいま」
一人の背の高い若者が、町外れの一軒の小さな家の戸の前に立っていた。
「おかえり、太郎。おい!右目が腫れてるぞ」
戸が開けられ、中から野太い声が聞こえてきた。
「なんでもない。父さん、心配しないで」
弱々しく答えながら、太郎は居間へと向かった。
「父さんこそ疲れてない?」
太郎は心配そうに言った。
「またあのお屋敷に呼ばれてな。主が無理な鉄の納期を・・・」
首を振りながら、父はつぶやいた。
「引き下がって来たの?」太郎は憤慨して言った。
「大手の鉄問屋だぞ。逆らえるか」父は無念そうに言った。
「待ちなさい、花子」
叫び声が隣の家から辺りに響いた。
40歳位のほっそりした女性が白い野良着姿で畑の中に立っていた。
「母さん、私生け花なんて退屈なの!」
家の前の道を小柄な女性が走っていた。
花柄の着物。花柄の簪。花柄の草鞋。
肩で揃えた髪をなびかせながら、やがて豆粒のように小さくなっていった。
太郎の家の向かいには大きな屋敷があった。
家は白塗りの壁で囲われている。中央の赤い門に衛兵が立っていた。
黒い兜に三日月形の装飾。黒塗りの鎧を身にまとっていた。
右手に槍を持ち、仁王立ちで構えていた。
「だから父上、お見合いは必要ありませぬ」
屋敷の入り口から言い争う声が聞こえた
「剛、先方はな、器量良し・家柄良し・気立て良しの三拍子揃…」
父の話を聞かず、剛は屋敷の門へと走っていった。
その先には花柄の女性が立っていた。
「遅い。20分の遅刻だよ」
花子は真っ赤な頬を膨らませました。
「ごめんごめん」
剛は両手を合わせて拝むようなしぐさをした。