メリーさんいらっしゃい
『あたしメリーさん、今駅n』
「いないよぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!!!どこにいるのぉぉぉぉぉぉぉぉ!?」
あたしメリーさん、じゃなくてメアリさん。桐谷芽亜李、20歳。どこにでもいる会社員。
「メリーさん、メリーさんハァハァ、どこにいるの、その愛らしい姿を見せてよ、ハァハァ」
私がメリーさんと出会ったのは、3年前に見た1冊の雑誌だった。そこに載っていたのは、「メリーさんの電話」という都市伝説。そこに書かれた挿絵に私は心を奪われた。
白いゴスロリ、そこについた返り血の色さえも、私を惚れさせるのに十分だった。そう、私はメリーさんに惚れてしまったのだ。
『あたしメリーさん、貴方の後ろにいるの』
この決め台詞。しびれるゥ!
翌日から私はメリーさんからの電話を切望した。人形を買ってメリーさんと名付け、ゴミ捨て場の隅っこに置いた。いつ電話が来るか、いつ来るかと待ち構えても来ない。もし、私が人形のことを忘れられていたら、あるいは電話がかかってきたのかもしれない。だが、私はいつもそのゴミ捨て場前を通ってしまっていた。早く来て、早く来てと願い続けていた。その結果。
「あの、これ貴方のよね?ごみの日じゃないのに置いておくのやめてくれない?捨てたいのなら水曜日に出してよね」
近所の自治会長にこんなことを言われてしまった。このままだとメリーさんが自治会長のところに行っちゃうかもしれない。私のところに来ないのは絶対に許せない。
「すみません」と小声で言って、彼女が持っていたその人形を奪い取るように持って帰った。心証なんかしったもんか。
どうにかして、メリーさんを忘れる方法はないかと考えた。そこでひらめいた。
メリーさんを覚えていても、メリーさんを忘れていればいいのだ。
これだけではわかりにくいだろう。
つまり、メリーさんを大量に作り出して、そのうちの一つでも忘れてしまえばいいのだ。
つまり、メリーさんへの思いを、希釈させて忘れやすくするのだ。100も200も、一人の人間が一度に記憶できるわけがないのである。覚えられる以上にメリーさんを作れば、忘れたメリーさんから電話がかかってくる。メリーさんを捨てればいいだけなのだから、自治体の決まりだって守れる。ただ、同じ人形をそれだけ捨てるのは業者に頼む必要があるので、直接ごみ処理場に持っていく。
「気持ち悪いので処分してください」
本物のメリーさんに会えるのならばこんなことでも言える。もし来なかったら全力でメリーさんに謝罪するだろうが。
そして、メリーさんは電話をかけてきてくれた。嬉しすぎて、メリーさんが後ろに来る前に気絶してしまって、メリーさんが床にめり込んでしまうかもしれない。それだけには気を付けなければ。
『今ね、あなたの家の前にいるの』
駅に見に行った後に急いで家に帰った。そりゃ駅では襲えないよね。一人の状況のほうが来やすいに決まってる。あの時点で、もしメリーさんが諦めて帰ってしまったら、と思ったが、ちゃんと続きの電話があった。
『あたしメリーさん、今あなたの後ろにいるの』
きっっっっっっっったぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!!私の!後ろに!メリーさんが!
苦労して可愛くした、あのメリーさんが!いるんだ!
「メリーさん!いらっしゃい!!!」
ふと短編が書きたくなりました。
45分で書けたのでまた連載のアイディアまとめに戻ります。