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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
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文学フリマ短編小説賞 2017 応募作品群

禁じられた質問

 どう、年賀状書けた?

 お前、今年はたくさん書いたな? ふふん、仕事の関係でたくさんの知り合いが出来たからね、新年のご挨拶に気合が入るってもんだよ。

 君も、仕事の人ばっかりじゃなくて、もっと個人的な人にも出しなって。結構嬉しいと思うよ。そりゃ、あけおめメールほど手っ取り早くないけどさ、ハンドメイドの味ってやつが伝わるって。

 でもさ、思うんだけど、ハガキとかメールって、ちゃんと宛名の人が書いているのかな? ほら、本人に成りすまして返事とかしていたら、不気味じゃない?

 ベタなホラーやサスペンスとしては上出来? 相変わらず、厳しい評価だよね、君は。

 文筆がかかると、とたんにシリアスになるんだから。

 そういえば、友達からハガキに関する面白い言い伝えを聞いたことがあるよ。それだったら、君も興味ひかれるんじゃない?

 みかん持ってきてよ。こたつでゆっくり話そ。


 ハガキといったら、郵便ポストがセットだよね。

 今でこそ日本のポストは赤くて、四角いというイメージが強いけど、少し前は円筒状の「丸ポスト」。更に昔は黒くて直方体の、「黒ポスト」。

 郵便というシステムも、あまり浸透していなかったこともあるんだよね。「便」という言葉に釣られて、ポストをトイレと勘違いしていたこともあったんだって。想像したら、結構な大惨事だよねえ。

 と、まあいろいろな苦労があって、郵便ポストは全国各地に広がっていった。全体としては増加傾向にあったけれど、地域によっては減っているところもいくつかあったみたい。

 この話は、そのポストが減っていた地域のこと。


 その地域、山の中にもポストがあった。いや、山と言うより丘と言ったほうがいいかも。木々が切り倒されて、裸になった山肌に、ポツンとポストが立っているんだから、はた目には、ちょっと異様だよねえ。

 周辺に住んでいた人たちも、徐々に平地に下っていって、いつしか配達員も立ち寄らなくなり、ポストの需要はなくなった。

 だけど、なぜかなくならなかったんだよ、そのポスト。さほど邪魔になるものでもないし、撤去が面倒っていうのもあったのかなあ。

 しかも誰かがカギを壊したらしくて、フタを開けて中身をのぞき放題だったって話だよ。

 するとね、ある遊びが始まった。

 ハガキの宛名を書く面にね、質問を書いて、ポストに入れるんだ。匿名でね。

 そして、気が向いた人がポストをのぞいて、ハガキの裏面にそれに対する答えを書く。

 とりとめのない質問から、誰にも聞けないような恥ずかしい質問まで、気兼ねなく使える質問箱。

 時が経つにつれて、子供も大人も、気晴らしに、頭の体操に、心に抱えた毒を吐き出すために、ポストを使うことが増えていったみたいだよ。


 もはやポストを使う者が、何人いるのかわからなくなった頃。質問に答える者の中に、変わった奴が混じり出したんだ。

 そいつの大きな特徴は三つ。


 一つ目。筆跡。

 時代がら万年筆が流行っていて、たいていの回答者の筆跡はペンかつインクで書かれたものだった。

 しかし、そいつのものは明らかに手製。指に植物の汁を漬けて書いたと思しきものだったんだって。目立つものだから、すぐにそいつが答えたものと分かる。


 二つ目。答える範囲の広さ。

 歴史や文学、数学や物理といった学問。自然主義や社会主義といった思想。あの子の今日の下着の色といったエッチなものまで、はっきりと答えてきた。しかも裏を取ると、ほぼ百パーセントの正答率。


 三つ目。解答の早さ。

 明らかに数日に渡る調査が必要な事柄でも、投函の翌日には答えが返ってきていた。まるで鷹の目を持って、全国を見渡しているかのような、盤石さだった。

 いつしか、神様が降り立って、答えてくださっているんだって、みんなの間で噂になっていったんだって。


 姿なき神様。この正体、暴きたくなるよねえ。

 立ち上がったのは、高等遊民の某氏。そう、働かずに毎日フラフラしている、インテリの方でーす。今だったら、もっとふさわしい呼び名があるだろうけど、ここは自重するね。

 引っ越してきたばかりの彼は、ふとポストの話を聞いて、その力を試してやりたくなったんだって。うーん、この上から目線。いやはや、なんとも。

 彼は自分が極めたと思った分野の、あれこれを聞いてみたけれど、すぐに回答者のレベルの高さに舌を巻いたらしいよ。何せ、マイナーな書籍の何ページの何行目に書いてあるかまで、丁寧に答えてくれるんだから。

 すると、某氏もムキになって、次々とマニアックな質問を浴びせたって話。何としても、自分の方が上だって、証明したかったんだろうね。


 そして、ある時。とうとう神様の答えられない質問を見つけたって、小躍りしたんだって。

 内容はシンプル。「明日の天気はどうなりますか?」。

 答えは「見つけて」。

 たった一言。これは回答放棄とみなしていい。ついに俺は神様に勝ったんだ、って周りの人に言いふらす始末。

 でも、他の人はおざなりに彼をほめるだけ。

 だってさ、今までのポスト利用者が、こんな質問をしなかったと思う? みんな、この答えが返ってくることをもう知っていたんだよ。だから内心「なに、この程度で浮かれてやがるんだ」という気持ちだったと思う。

 そのことを教えてもらえなかった某氏。原因がどこにあるかも、省みなかっただろうな。

 地元の人が見出した、神様の答えられない質問。それは未来に関することだった。

 今、この時までの「歴史」ならば、神様は答えてくれる。だけど、将来のことになると答えは必ず「見つけて」になる。

 しかも、この四文字を、いつもの草の汁ではなく、黒ずんだ赤でハガキ裏のスペースいっぱいにでかでかと書くから、見た人はそのインパクトにびびる。

 ひとめで「やばい、これはしちゃいけない質問だ」とわかる。でも、神様の弱みを見つけたつもりで有頂天になっていた某氏は、そこにつけこむことしか、もう考えていなかった。


 それからしばらく経って。

 某氏は行方不明になりました。

 本当にふらりと、煙になっちゃったかのごとく、いなくなっちゃったんだって。考えられる手掛かりは、当然、彼が足しげく通っていたポスト。

 フタを開けると、山ほどのハガキが中から出てきた。どれも未来のことについて、質問したものばかり。

 その裏面は「見つけて」以外に「見つけよ」「見つけろ」とかの四文字ばかり。

 でも、それらの中で、ただ一枚。


「見つけた」って書かれたハガキがあったんだってさ。



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